亀戸梅屋敷落語会 その4(桂宮治「壺算」)

亀戸梅屋敷落語会のトップバッターを最後に。
今日は批判メインだが、批判のための批判じゃない。個人の感想なのでご容赦願う。

前座もいないので、人気者の宮治さんがいきなり登場。
初めて円楽党の両国と並ぶ本拠地、亀戸に寄せてもらいましたと。
大きな拍手で迎えられたのに、盛り上がりが「池袋と全然違う」と客に因縁をつけ、一度袖に引っ込んで再登場。
池袋は、神田伯山の披露目開催中である。
なんでも、池袋の整理券をゲットしてから、ここ亀戸に来ている人が結構いるらしく、高座から指摘する。
前日は好の助、朝橘の二人会をここでやったが、池袋の整理券を持っている人が、時間なのでなんと朝橘師のトリの高座の途中で退席したのだと楽屋で聴いた話を。
伯山のことは、前座の頃はなんにもできなかったくせにとdisる。
私は伯山襲名はあまり関心ないなあ。次の鯉八さんたちの昇進のほうが大事。

今日のトリ、好の助アニさんのときにはスタンディングオベーションをしてくださいと宮治さん。今から練習するだって。
結局、そこまでノリのいい客ではないとみたのか練習はなし。

得意の演目だと思う。TVでも聴いたことのある壺算。
サゲのパターンが無数にある噺だが、それらとまったく違う、オリジナルの終盤の展開とサゲを持ち込む。
斬新だが、落語の世界と矛盾しない見事なつくり。
そして、時節柄コロナVer.にする。
瓶を無理やり値引きさせて買ってくる際に、いちいち咳を吹きかけ、コロナを感染すぞと脅迫するのだ。

たっぷり30分。
ちょっとコロナ関連のギャグがしつこすぎ、うんざり。本人も、脱線し過ぎたと言っていたが。
不謹慎なネタは、ごく少量使うから毒として機能する。
ネタ自体が過剰な毒まみれ、さらにマスクをしない高齢者の客に対して、「よくマスクしないで来れるな」と噺の最中に言い放つのも悪印象。
あまり笑おうとしない、年寄りよりはちょっと若めのオヤジがいたなと、高座の宮治さんに私は思われていそうな気がする。狭い席で演者からよく見えるし。
別に笑わないよう意地を張ってたわけじゃない。
私もちゃんと笑いを生で感じている。つまらないわけではないが共感に欠けるので、体力使って笑う気にならないということ。
口調のすばらしくいい宮治さん、あんなに必死にギャグ入れる必要がどこにあるのかなと高座を眺めながら思った。
なまじ壺算は徹底して手に入っているがゆえ、どんどんギャグが増えていくんだろう。いったんどこかでリセットしたほうがいいんじゃないかと。
ギャグでなく、ユーモアを噺の隅々まで埋め尽くしたら、名人芸間違いなしなのに。ある意味伯山先生だってかなわないぐらいの。

宮治さんは昨夏聴いた「大工調べ」が非常によかったのだが、しかしながらマクラで吐いていた毒のダメージがひどすぎた。
それでもいい高座だって過去に聴いている。今回だって、「宮治さんが顔付けされているから行くのを躊躇する」なんてことはまったくなかったのだ。いや、ちょっとはあったか。
結果、私もコロナにやられた感じ。この後のメンバーが取り返してくれたけども。

宮治さんの芸について今回改めて感じたのは、「ピコピコハンマーで人の頭を殴り続ける芸」だということである。
殴ったって痛くないというお約束のもと、何度も何度も執拗に、対象物に向けてハンマーを振りかざす。そのたびピコピコ鳴るから、毎回笑いは生まれる。
でも、殴り続けるという行為自体に、やがて一部の客がうんざりしてくるのである。自分が殴られ続ける気がしてくる。
神経をざらつかせる芸だ。落語は本来、人の気持ちを幸せにする芸能だと思うのだが。
そしてこの人、ピコピコハンマーを振りかざす側からは絶対に動こうとしない。雨上がり宮迫みたい。
多くの噺家はしばしば、自ら叩かれる側にまわるのに。その結果自虐をやり過ぎる噺家にはしばしば引くが、でも絶対にやろうとしない人もどうもなあ。
才能を認められている宮治さんが、抜擢されないわけが感覚的によくわかる。抜擢したらこの上ない天狗になると、関係者は見てるのではないか。
でもこの人、抜擢されないことにいらだって、ますます過激な高座を務めそうな気がしてならない。

客が疲れて、序盤大きかった笑いがだんだん静かになっていくのを、客席で体感していた。
その割には、終わった後の拍手は大きかったので、通っぽいファンたちはみな楽しんでいたらしい。それはそれでいいけど。
私個人に関していうと、しばらくこの人はいいや。
なんでもこの翌日も、春風亭一蔵さんとの会で、散々楽屋話をしたそうだ。SNS禁止だからと言われたといって、律義に内容を書かないでいる客の気持ちは私にはわからない。
結局、ただの人の悪口でしょ? 自分の立ち位置が明確でない悪口は、聴いてずっこけるからな。

白熱の会が終わった後、宮治さんはいなかったが、4人の演者に見送ってもらう。
宮治さん、この後も仕事ないはずなのに、なぜいない。
いや、会の最後にいないなんてごく普通のことだけど、大工調べのときの高座では、先に帰った後輩を罵っていたくせに。
シャレに対するマジ返しは無粋だが、でもちょっとしたブーメラン。

天どん師のDVD(1枚)も販売していた。誰かきっと買ったろう。

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壺算/死神

作成者: でっち定吉

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