亀戸梅屋敷落語会 その2(古今亭志ん吉「厩火事」)

番組二番手は落語協会の二ツ目、古今亭志ん吉さん。
実に巡り合わせがよく、二ツ目にしてはずいぶんと数を聴けている人。この日も目当てのひとりである。

一門の看板、菊之丞師がコロナ追放祈願で飲み会を開催するが、二ツ目たちは誰も行かないという、リアル寝床の話。
飲み会の二次募集が掛けられ、志ん吉さんは本当に用事があったのだが、キャンセルして菊之丞師のタワマンに向かったそうな。
馬るこ師など新ニッポンの話芸でいつも菊之丞師の悪口言っているが、一門の後輩も同じようなものらしい。
でもよその一門の、三遊亭わん丈さんなんかかわいがってもらってるって、家に遊びに行った話をマクラでも語っていたが。
菊之丞師、一門ぐらい押さえておかないと、志ん生襲名がスムーズにいかないなんて裏事情まで想像したりして。

花形演芸会でネタ出ししていたのは「紙入れ」だが、今日はやめたそうな。志らく夫人に気を遣ってるのかな。
紙入れは、あちこちの大会で、ことあるごとに出していた自信の演目。自分の名が「しんきち」だからなのか。そういえばNHKでも出していたな。
花形演芸会は、イレギュラーメンバーとしての出演予定だった。そちらで銀賞取って、レギュラーメンバーに昇格したかったのだそうだ。
それから日曜日は、さがみはらの大会決勝がある予定だった。昨年準優勝で、今年は手応えあったのにと嘆く志ん吉さん。
ただ、開催していたとして、最大のライバルは春風亭一花さんだったのだと。最近飛ぶ鳥を落とす勢いなのだ。
一花さんは確かに上手い人だが、楽屋の評価も非常に高いようである。あちこちの師匠にも可愛がられ、会に使ってもらっているのだそうな。
その一花さん、志ん吉さんの一門の後輩、金原亭馬久さんと結婚した。
馬久さんも本格派だが、さがみはらは予選で落ちた。今や奥さんのほうが幅を利かせているんだといって、厩火事へ。

変わった厩火事で、お咲さんが髪結いだという描写が一切ない。何の仕事してるのか。
お咲さんが子牛と猿に食いついて話題を止めるので、アニイが呆れて「お前さんたちが喧嘩するわけがわかったよ」と言っている。ここで大爆笑。
さすが丁寧だ。
そしてお咲さんは、同時に一花さんでもあるらしい。旦那はさがみはらの予選で落ちてふてて酒ばかり飲んでるんだって。
この遊びには違和感がないから不思議。

部分部分の非常に丁寧な厩火事。
「弦の取れた土瓶みたいに」なんてフレーズ、久々に聴いた。こうした部分が噺を膨らませてくれる。
だが、全体を見たとき、やたら長い。志ん吉さん、いつも小股の切れ上がった芸なのに、この噺はくどい気がした。もっと刈り込んだらずっと楽しくなりそうなのだが。
落語は難しい。芝居や演劇もそうであるように、トータルで噺を構築しないと。
部分的には、どこにも不満などなかったのになあ。

この日の客、揃ってデキるなと思うのは、それまで盛り上がっていたのに、厩火事のサゲをスムーズに受け流しているあたり。
こんなところで笑う客などいない。

チェブラーシカみたいな風貌の三笑亭夢丸師は大好きなのだが、生の高座を観るのはこの日がわずか2度目である。
この才人が、仲入りなのでたっぷり聴けて実に嬉しい。
流れるような喋りは、先に出た宮治さんと同じ系統に属することに気づく。でも、常に毒を吐く宮治さんと違い、夢丸師の語りはとにかく耳に心地いい。
流れるようだが、決して気ぜわしくは感じない。

マクラがとても楽しい師匠。
楽屋で聴いてましたが、宮治さんもよほど溜まってるんですかねと。
総武線のかっこいい子供の話。オチも何もありません、ただ私が感心したという話ですと断って。
平井の先の江戸川の上で、窓の外を見ている坊やが、夜の窓に向かって「ばいばい、ばいばい」とずっと手を振っている。
お母さんが、なににバイバイしてるのと訊くと坊やは、「この街に」。

夢丸師の2歳の娘の話。夢丸師は、自宅で着物に着替えてから出勤する。
だから、ととが着替えていると仕事なんだと思い、行ってらっしゃいと言う。
その娘が、「とと最近行ってらっしゃいないね」。

本編の花見小僧に続きます

 

作成者: でっち定吉

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