三遊亭竜楽「猫の災難」

両国に行った翌日、またしても三遊亭竜楽師匠を聴きに亀戸梅屋敷寄席に出向いた。
亀戸は三回目。

空いている寄席のことは、よくマクラでネタにされる。だが、ファンの立場でそのような寄席にお目にかかることはそうそうない。
つまらないとわかっている噺家さんの席にあえて行く人は少ない。寄席も、そのような人にトリは取らせない。
また、確率論として考えれば当然ながら、ガラガラの席に参加した客より、先日の池袋・喬太郎師の芝居のように、超満員立ち見の席に遭遇している人のほうがずっと多いわけだ。
しかし、この日はついに「つ離れ」していない席に遭遇した。途中から入場した私を含めて8人。中年の私以外はみなお年寄り。
名人竜楽が出るというのにもったいない。出歩くとお年寄りにはきつい季節ですからね。
前座以外の4人を聴いたが、この日については仲入り後の「王楽」「竜楽」両師匠だけで十分な感じだ。

王楽師も、全国を飛び回っている多忙な噺家さんだが、8人の前でもやるのだなあ。こういうところがちょっと悲しい円楽党。
王楽師、二世仲間の三平いじりをしてから、市馬師匠から教わったという「高砂や」。内容忘れてしまったが入れ事のギャグの際に、「教わった市馬にはそんなの入ってなかった」と突っ込む。
軽い噺だが、明るくていい。少ない客の前でも、堂々としている点にも好感。
若さまイメージで売り出した王楽師だが、まだまだ伸びしろがありそうだ。

そしてお目当て、竜楽師。
高座に上がり、8人の客の配置を見て「5対3でこちらの勝ち」。数を嘆きつつ、「まあ、いつもこんなですから」。
しかし少人数の前でも決して手は抜かない。
相変わらず海外公演のマクラだが、また内容が違う。テキサスでの公演前日、お酒をごちそうになり、呑みっぷりがよくて「来年も頼む」と言われた。まだ一席もやってないのに来年の予定が埋まるという。
ちゃんと、酒の噺のためのマクラなのだ。そこから「猫の災難」へ。
寄席ではトリネタ。先代小さん、そして柳家のイメージがある噺。三遊亭のイメージはない。
竜楽師は、ネタの選択やスタイルを見ても、一門や団体の個性からちょっと違うところに位置している人だと思う。世界に目を向けるグローバルな視点がそうさせるものか。
まったくの想像だけど、若い頃は損したこともたくさんあったのでは。

呑兵衛で嘘つきの熊さんが、非常に人のいい人物に描かれていていい。
熊さん、ただ純粋にお酒が好きなだけなのだ。純粋に、っていうのが最高。
ちゃんと兄貴の呑む分を確保しておかなきゃというのは頭の隅にはあるのだけど、呑みたいのでついつい計算を間違ってしまうのだ。
竜楽師のスタイル、柳家の噺家さんと同一というわけではないにしろ、客から見て好ましいと思える部分はよく似ている。
三遊亭は、酔っ払いの形から入るのだという。対して、柳家は、人物の了見になれという。竜楽師は形もいいし、人物の了見もよく出ている。いわばハイブリッド。
べろべろの熊さんと、素面の兄貴の瞬時の対比が素晴らしい。隣のおかみさんもいい。
爆笑巨編というのではなく、しみじみ、じわじわ盛り上がっていくこんな噺は大変向いている。
サゲが柳家と違うのは、セリフは一緒だが、客のほうではなく上下切って、兄貴のほうを向いて言う。

このあと、再び両国に出向き、仲入り前を務める竜楽師をまた聴くことも想定していたのだが、「猫の災難」で大満足したので帰途に着きました。

作成者: でっち定吉

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