3番目に、二ツ目の三遊亭わん丈さんが登場。
新作の円丈門下だが、この人の新作、私は一度も聴いたことがない。現在では、古典落語の評価が非常に高い人であり、Zabu-1グランプリも優勝していた。
よくマクラで取り上げる、滋賀県の実家のお母さんについて。初めて聴く内容。
なにかの機会で、親子でビジネスホテルに泊まるが、ユニットバスを使うのが初めてのお母さん、お父さんの注意をちゃんと聴かない。
そろそろなにかやらかしてそうだと、お母さんの風呂を覗きにいくお父さん。戸を開けると、お母さんが便器にまたがって体を洗っていた。
新作といっても、現代ものだけじゃないんです、試し酒なんてそうですねといってマゲものの新作「三方よし」に。
近江商人の若旦那が修業のため江戸にやってきて、思わぬ商店で奉公する前半と、花魁あがりの奉行夫人が活躍する後半とのつながりがよくわからなかった。
主人公が途中で入れ替わってしまうというのは、古典落語にもあるけれども。
だが、噺の構造がよくわからないわりに非常に面白かった。演者わん丈の腕である。
わん丈さんは、ふざけるべき場面でしっかりふざけるのがいいのだと思う。
途中から出てくる奉行夫人は蓮っ葉で、ほぼギャル。
マゲものといっても、純然たる古典落語では全くない。古典落語になることはできない。
わがままの限りを尽くし、ついに奉行に替わってお裁きを担当する夫人。
だが、判決がスピーディなので、配下の与力も喜んでいる。
大工調べ、五貫裁き、三方一両損などのお白洲もの落語、それから井戸の茶碗を取り込んでいるのだが、ことごとく反応のいい池袋の客。
わからなきゃわからないで別にいいものだけど。
のだゆきさんは、いつもの立ち高座でなくて座布団に座って演奏する。着物っぽい洋服を着ている。
そういうスタイルに替えたのかと思ったのだが、この芝居だけみたい。私も新作をやりますとのこと。
似ている芸能人は春風亭百栄です。楽屋で間違えられることがありますだって。確かにヘアスタイルが同じ。
リコーダー4種類を立てて並べてみせる。
インドネシアあたりで買ってきた、カエルの置物も披露。背中をこするとカエルが鳴く。
のだゆきさんは、購入したすべての楽器に名前を付けるのだが、このカエルは「柳家」。つまり柳家かゑる。
さらに一回り大きなカエルも登場する。名前は「馬風師匠」。
江戸家小猫先生とツくので許可を取ったという、ウグイスの声をリコーダーで吹いておしまい。
古今亭駒治師は、最近客席に鉄道のプロが多くて油断も隙もないというマクラ。
そして、旧汐留駅の資料館で、「十時打ち」をやったら、責任者が噺の悪役、上野元駅長だったという話。
十時打ちは1月に、トリの芝居で聴いた。駒治師はマクラを徹底して作り込んでくるので聴き逃せない。
本編は、いつもの鉄道戦国絵巻。
私にとっては古典落語みたいなもの。柳家小ゑん師の「ぐつぐつ」と同じ性質。何度聴いても楽しい。
この噺が、ストーリーとクスグリを微妙に進化させていくさまをずっと眺めてきたのだが、ここ2年ぐらいは完成したので、もういじっていないようだ。
ただし変わった点がある。
トリの芝居でも感じたのだが、駒治師、劇中で遊ぶようになってきている。実に新作派らしい。
西武新宿線が兄の池袋線「レッドアロー」に射られて討ち死にというネタでは、地に返って「誰もわからなかったみたいだ」。
それをフリにして、「TGV実は偽物で、小田急ロマンスカー」のギャグの際に、「今度はウケたな。いろいろ探りながらやると楽しいな」。
これは喬太郎師や白鳥師が、日常的に使っているワザである。一瞬噺を演者が離れるのだが、なんら違和感はない。
新作落語のホープ駒治師が、そうしたビッグネームに迫ってきているということ。
(追記)
よく考えたら、最後東急連合に敗れたリニア大王が、努力の結果レールの上を走れるようになり、池上線全線を2分で走破するというストーリーは初めて聴いた。
かつてフランスからやってきたTGVがそうしたという終わり方は知っているが。
駒治師の看板である鉄道戦国絵巻、さらに進化しているのだ。
あるいは、どうサゲるかは、その場の雰囲気と持ち時間次第なのかな? いかにも落語らしいじゃないですか。