池袋演芸場22(新作台本まつりその4 三遊亭丈二「極道のバイト達」)

遥かなるたぬきうどん/新ぐつぐつ

仲入りは三遊亭丈二師。花柄じゃないけど、そんな感じの模様の、よく着ている着物で登場。
個人的には新作レジェンドで、この日も私の目当ての一人なのだ。
私の知る限り、この師匠が仲入りの出番に入っているのを見るのは初めてである。
少々特殊な寄席とはいえ、重要な仲入りのポジションに入る丈二師、私はとても嬉しい。
この新作落語の殿堂、池袋でぜひトリを取って欲しい師匠。近いうちに実現すると見たが。
いつもの小田原丈ネタを振る。百栄師の「世界一汚いモモエ」と同様、ディープな席であってもこれは欠かせないらしい。
続いて、3年前のこの席でも聴いたマクラを語る。それ以外では聴いていないから、狙って出しているわけだ。
客席の照明がやたら明るい池袋においては、演者から、客席の様子が手に取るようにわかる。
だから、本編に入ったとたん、あるいは付属のマクラに入ったとたんに客がメモるのが気になって仕方ない。
「ネタ帳ドレミファドン」(丁稚命名)である。
あれ、なんで書くんですかと。人より早く分かったところを周りに見せたいんでしょと。
一席終わってから、演者の変わる際に書けばいいじゃないですかと丈二師。あれやられると、本編の助走でマクラを振っているのに、テンション下がるんです。
この野暮なふるまい、この日の客なら、誰もやりそうじゃないのである。なので丈二師の告発に拍手が飛ぶ。
こういうことを語るのは丈二師だけではない。白酒師や百栄師も、マクラで語っている。

私、丁稚定吉からも言わせてもらいますが、ネタ帳ドレミファドン、やってる人は止めた方がいいですよ絶対に。演者に嫌われるだけ。
それに池袋みたいな席で、ネタがわかったからって誰も尊敬なんかしてくれないですよ。みんな知ってるもん。
まあ、ブログに高座の模様を書いてるヤツだって嫌がられると言われたらしまいですがね。
池袋は確かに、やたら客席が明るい。丈二師も、「ここまで客を演者に見せる寄席はありません」とのこと。
そのことをマクラで語るのは丈二師だけ。

あとは、マナーを知らないから仕方ないとはいえ、高座の最中に演者の前を平気で横切る人についてのボヤキ。
後ろでちゃんと待ってくれてる人もいますがと。

マクラの最後に、寄席のさわりについて。体の特定の部分が悪い人がいると、その日は関係するネタは出せない。
客はわかってるのでいちいち説明しないが、要は盲人がいれば按摩の噺はしないし、妊婦がいれば「もう半分」なんてやらないということ。
ただ、見ただけではわからないさわりもある。
ヤクザのお客様はいますか? または身内にヤクザのいる方?
大丈夫ですねと言って「極道のバイト達」。
寄席で聴くのは初めてだが、喬太郎師の番組で出したこの噺のVTRを繰り返し聴いている。
大阪から東京に進出してきたヤクザの組事務所で、人材不足のためアルバイトを雇っている噺。
アルバイトニュースに載せているのだ。んなあほな。
組事務所といってもバイトなので、来週からの試験で休んだり、残業手当が出ないとカチコミにも付き合わせられない。
事務所の様子を見に来た大阪の兄貴分が、ひょんなことで女子高生のバイト希望者の面接をすることになる。
無邪気な女子高生と、極道の絡みがとても楽しい一席。
「兄弟分」というのが本当の兄弟でないと聞き、「ごめんなさーい。複雑な事情があったんですね」と反省する女子高生。

ちなみに、私大阪に住んでたことがありますがと断って、大阪のヤクザはやっぱり違いますねと丈二師。
吉本新喜劇が抜けだした、あのままです。
少し前の島木譲二とか、そういうことなんだろう。
あれ、どちらが真似したんでしょうねだって。つまり、吉本新喜劇に出てくるいかにもなヤクザを、本物が真似しているのかもしれないと。
丈二師は一時期、上方で修業をしたことがあり、その際のエピソードをしばしばマクラで語っている。

続きます。

 

ぺたりこん/悲しみの大須

作成者: でっち定吉

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