落語界とコロナ(上)

昨日まで、3月25日の池袋、新作台本まつりの模様を延々お届けしたところである。
柳家喬太郎主任で、満員の寄席。その内容もすばらしいものだった。
白熱・爆笑の寄席、しかしこの内外に漂うコロナの恐怖。
なんだか、デカメロンみたいなシチュエーションだ。

池袋へは、2月末に2度出向き、そしてこの3月末。
いつまで行けるかわからないので聴きだめする目的は当然にあった。
一週間にわたる寄席の記事を書いている間に、ずいぶんいろいろなことがあった。
まず28・29(土日)の寄席の営業自粛。
どんなときでも開いている寄席も、さすがに対応を余儀なくされたのである。
そして翌日30日、新宿下席(芸協)の千秋楽が、昼席の途中で打ち切りになったそうで。
客が2人しかいなかったことで打ち切られたのか、そのあたりはよくわからない。
円楽党の三遊亭萬橘師が顏付けされていたが、急遽タイミング的にトリを務めるという珍事があったそうで。

そんな寄席ならむしろ安全そうなので行ってみたい。不謹慎でしょうか。
ガラガラの寄席に私ひとりが行ったところで、もはや噺家さんの生活さんの足しになどならないことは確かだ。
むしろ、来る客がいるから開けてるんだなんて言われかねない。
ともかく割引券が昼夜とも出ている、池袋上席なんていいな。昼・柳亭左龍、夜・三遊亭天どん。

二ツ目の寄席、神田連雀亭は土曜からクローズが決定。小規模な席で、定員を半分にしたりいろいろ工夫をしていたようだが、いっそ当分閉めてしまえとなったようだ。

3月31日の余一会は、結局開催したのは浅草昼席のみ。
寄席の定席よりも、落語会のほうが中止にしやすいというのはある。特に、寄席の会場でおこなう落語会だと、責任の所在が明確になる。
池袋下席の夜席は落語会だが、これもずいぶん中止になっていた。同じ理由。

今日4月1日からは、お江戸両国亭の両国寄席で、円楽党の二人の真打の披露目が始まる。
三遊亭鳳笑、三遊亭楽大の二人真打。
楽しみにしていたので、早速初日の今日行くつもりでいたのだが、家族に反対されて出かけられない。
志村けんショックは非常に大きかった。
もっとも私だって、逆らって出かけようとまでは思わない。
こういうときにこそ行くのが真の落語ファンだという考え方もあるだろうが、コロナについては、自分が感染するだけでは済まないからな。
円楽党は小規模所帯であり、スケジュールの後がつかえていることもない。いっそのことすべて披露目を延期にするのもありじゃないかと思った。
揃って秋にしたっていいんじゃないかと。

上野広小路亭では、今日1日だけだが神田伯山の披露目が予定されていた。これは、客が押し寄せて大変だという配慮で中止。
まあ、クラスターを自ら作ってやるようなものだから仕方ない。明日からの定席はある。

噺家さんたちも、最初に取り上げられたのは生活の心配のことだった。
だがここに来て、命の危機を感じている人も間違いなくいるはずである。
古希を超える噺家だけでなく、もう少し若い人だって。
早めに余一会中止に踏み切った喬太郎師もそうかもしれない。
なにしろファンに取り囲まれるのが避けられない人だし、しかも喫煙者だし。

そんな中、実に気持ちに正直な、すがすがしいツイートを見た。
笑福亭喬介師。

まったくそうだよねと思う。
生活苦よりも仕事の場よりも、命あっての物種。
喬介師はラジオでもそれほど聴けているわけではないが、私も好きな、上方で期待の若手である。
あほぼんと師匠・松喬に呼ばれる喬介師だが、このツイートに現れる感覚が、とても噺家っぽいなと思ったのだ。

それから、いつも楽しいツイートの三遊亭好の助師。
早くそうなるといい。そのためには自粛も必要かもしれない。

続きます。

 

作成者: でっち定吉

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