春風亭一之輔「千早ふる」その6

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ツッコミの八っつぁんとボケの隠居、二人して噺の外に出てきて掛け合ったあと、また噺に戻って続きを。
竜田川が花魁・千早に振られるくだりもギャグがまんべんなくまぶされている。
これだけ豊富にギャグを突っ込んで成り立たせる点は、返す返すすごい。しかも終盤に向け、さらに増えていくし。
どうして竜田川が豆腐屋になったのか訊く八っつぁん。これはまあ、普通のやり取り。
いいじゃないかなりたかったんだからと隠居。お前だって、大工が好きだから大工になったんだろうと。
八っつぁんは答えて、アタシは親の商売継いだだけですと。
隠居、「そういうヤツいるよねー、噺家でも、親がやってたんで好きでもないのにやってるのが結構いる」。
場内爆笑。

これは明らかに、当代林家三平師のことである。
二世の噺家自体は、そこそこいるけど完全に狙い撃ち。
向こうが先輩なのに、一之輔師はしばしばdisっている。「好きでもないのにやっている」あたりが本気で嫌いなのだろうか。それとも単に、笑点メンバーがするように、世間の共通認識として利用しているのか。
面白いのだけど、政治スタンスに関してかなり気を遣ってる様子と比較すると、やや解せないところもある。
イニシャルを出そうかと隠居。八っつぁんが慌てて止めている。
これは、文蔵師譲りのギャグである。

しかし、よく考えるとこの一連のやり取り、結構ダイナミックな組み立てだ。
普通は、八っつぁんの「なんで相撲取りが女に振られたぐらいでいきなり豆腐屋になるんだ」という疑問に対して、隠居が「いいだろう、竜田川の両親が豆腐屋だったんだよ」と回答するのだ。隠居のめちゃくちゃな話が、ところどころ整合性で満たされていくさまを、客は笑うわけだ。
だが、三平disりギャグを言いたいがため、設定を根本からひっくり返してしまっている。竜田川は豆腐が好きで豆腐屋になったんだそうだ。
まあ確かに、細かい設定なんて別になんだっていいわけだ。
そして、豆腐が好きで豆腐屋になったのにと一度言っているのにもかかわらず、「実家が豆腐屋だった」と付け加える隠居。まさに適当。
「この千早ふるという噺はね」と八っつぁんにたしなめられた隠居は、「ここは隠居さんが、みつくろって適当にやってるシーンなんだ、設定的には」と返すのだが、その宣言どおりの適当振り。

実家に戻ってきた竜田川を出迎えるお母さんが、「竜田川、よく帰ってきてくれた」というのだが、八っつぁんは聞き逃さない。
なんで実家のお母さんが息子を四股名で呼ぶんだと。
隠居は、「藤田紀子だって息子のこと貴乃花って呼んでたじゃないか」と負けていない。
竜田川のお母さんは、架空のモノマネみたいな震えた変な声で話す。一之輔師の落語としては珍しめだが、これもまた、新作の人の使う手である。

女乞食が登場して、これが誰か八っつぁんに尋ねる隠居。わからない八っつぁんに、女が出てきただろと。これもまた、普通のやり取り。
八っつぁん答えていわく、「藤田紀子?」。ツッコミ主体の八っつぁん、見事なボケ。このために藤田紀子を登場させておくのだからな。
そしてまた、喬太郎師の影響を受けていそうな作り方が入る。
竜田川が元千早の女乞食におからをやらないシーンを徹底的に描写する。いったんおからをやると見せかけておいて、徹底的に女乞食をいたぶる竜田川。
あまりのひどさに八っつぁんが「クレージーだよアンタ」と引き気味にツッコんでいる。

最後、「とは」を既存の古典落語とは異なる説明で八っつぁんに教える隠居。
その前に八っつぁんに問い詰められ、ここまでネタを作っていなかった隠居、口笛を吹く。これは白鳥師がよく使うギャグ。
隠居の説明に呆れた八っつぁん、「家帰ってパソコンで調べるわ」と言って帰ってしまう。
マクラのググレカスを回収した隠居の一言でサゲ。
このサゲ、上手く作ってあるのだが、展開的には取ってつけたようなものでもある。
冒頭の仕込みはあるけど、それでもいきなりパソコンが出るし。
だが、新作落語だと、また隠居と八っつぁんの漫才だと思うと、結構すんなり腑に落ちる。

延々と6回にわたり千早ふるを取り上げた。これだけ書いても、ギャグまみれのこの噺、語り尽くしたことにはならない。
古典落語の登場人物に喋らせるセリフもまた、新作落語っぽくまったく自由である。
完全にこの手法で新作落語になりそうだと思ういっぽう、新作の場合は客がストーリーを知らないわけだから、こんなにギャグ入れるとわからなくなるかなとも思う。
やはり、古典落語をいじりまくるのが最も一之輔師に向いているのだろうか。
一方では、この非常に楽しい噺に拒否反応を覚えるファン心理が私の中にも巣食っていて、それがいささか強化されたことも否めなかったりなどして。

4月中のネタがないので、また一之輔師を取り上げると思います。今度こそ「らくだ」かな。

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作成者: でっち定吉

落語好きのライターです。 ご連絡の際は、ツイッターからメッセージをお願いいたします。 https://twitter.com/detchi_sada 落語関係の仕事もお受けします。