新宿末広亭の模様、冒頭に戻ります。
渡部ネタはかなり出てました。
昼席の前座は、トリの文治師の弟子、桂りょう治さんで「寿限無」。
寄席では幻のネタだと認識していたのに、なんだか最近妙によく聴く。落語のネタ、なにかのきっかけでたちまち流行るということがあるので侮れない。
お寺のくだりをカットしているのが珍しい。時間の短い末広亭用の構成なのか。
寿限無の名前は、NHK標準バージョン。想像だが、入門する前にこれで覚えたんでしょうな。
みんな一生懸命名前を言い立てるのに、婆さんだけ「うちの寿限無が」と省略するのが最大のギャグ。
次の春風亭昇りんさんも新二ツ目なのだが、意味なく急く人だなという印象。
噺家たるもの、「将来どうなりたいか」のビジョンも大事だが、その前に「現在のところなにでないか」をまず把握する必要があると思うのだ。
発泡スチロール工芸のできたくんは初めてだが、浅草お茶の間寄席あたりでずいぶん観てはいる。
客と声を揃えて盛り上がるスタイルだったのだが、時節柄声を出さず、客がみんなでこぶしだけ振り上げるやり方になっている。試行錯誤中で、今後もまた変えていくらしい。
そして、できた作品は手渡しせず、消毒してからトレイに置いて渡す。
客は、チコちゃんとかできた作品は欲しがるものの、積極的にリクエストはしない。まあ、平日の昼間なんてそんなもんだ。
新二ツ目の昔昔亭昇さんについては触れた。腕のある人だ。
前座時代のほうが「全太郎」で立派な名前の気がするのだが。
気の毒に、プログラムに「春風亭昇」って印刷されている。上から「昔昔亭」の訂正用シールが貼ってある。
まあ、広い意味では春風亭だけど、「春風亭昇」だと師匠も別の人っぽくなるね。
桃太郎師の弟子です。
日向ひまわり先生の講談の次が、換気のための短い仲入りを挟んでコント青年団。
コントが出るのが、落語協会と違う芸協の寄席ならでは。夜席では、山口君と竹田君だし。
いつもの先生と生徒のコントだが、アドリブ満載、時事ネタ満載で漫才に近い。
そして、演者が実に楽しそうなのがいい。
小池都知事を「ワイロ大学」などといって斬るため、都政の風刺だと思った客が拍手をする。騙されちゃいけません。
寄席の舞台が、自分の思想を代弁してくれるだなんて思うのは甘い甘い。
その後、あの人色気があって私好きなんですよだって。
青年団は「政治風刺を風刺する」芸だと思ったほうが、たぶんいい。
時間を見ながら適当に締める、緩いコントは寄席ならではで、たまらないね。
この次の春風亭愛橋師に、ちょっと驚かされた。
年末の池袋の模様を書いた際は、この人にだけ触れなかった。嫌いというほどでもないけど、格別いい印象を持ってはいない。
だがこの日はちょっとすごかった。
例によって登場し、片足上げた静止ポーズ。だが、いつもと違って大きなマスクをしている。
このマスクを外すと、見事な髭ヅラ。
席亭や仲間に叱られるんじゃないかヒヤヒヤしてるなんて言ってたが。コロナの渦中、仕事がないので生やしてみたんですな。
まあ、出オチ一発で終わったような高座ではある。この後の漫談も、話芸として感心したわけでもないし。
だけどなんというか、寄席の高座でなんとかしてやろうという「芸協らしさ」を濃厚に感じ、ちょっと嬉しくなってしまったのです。
これが寄席だよなという。
漫談の内容は、仕事を探すため、ナレーションのオーディションにせっせと応募しているというもの。ひとつ決まったとか。
ナレーションの声は、ご自分でも言う通りクリス・ペプラー風にもできて、決して悪いものじゃない。
でも、フリースタイルで喋り出すと、とたんになんだか口の奥が妙にモゴモゴする人ではある。
前回聴いた暮れの池袋で、桃太郎師が弟子である愛橋師を、「教職持ってるのに噺家になった」のだとちょっと触れていたのを思い出した。
その際の桃太郎師、「今日は出てないんですけど弟子の愛橋が」と言ってた。出てたけど。
次の、久々に聴いた瀧川鯉朝、それから桂小文治の両師匠を明日の主役に取り上げます。
そのふたりの落語に挟まれて、北見伸先生のマジック。助手は瞳ナナさんで、小泉ポロンさんと交互らしい。
楽しいマジックであったが、夜の部に出てきた山上兄弟の、冒頭マジックが、まったく同じ内容で二度ビックリ。
そうか、伸先生の息子たちだものな。
まったく内容が同じだし、使う道具、カードの柄もまったく一緒。BGMも一緒。
寄席というところは、昼夜通しで噺がツくのを避けるところだが、マジックについてはツくんだな、なんて思った。
二度観るのも楽しいもの。文句はないけどテジナーニャ。
満足した寄席のわりに、この続きもの、あと3日ぐらいで終わってしまいそうです。
これもまた、芸協らしさかも。