新宿末広亭の芸協(その5・瀧川鯉朝「街角のあの娘」)

瀧川鯉朝師は、住んでいる足立区のマクラ。
コロナで仕事がないので荒川沿いを日々散歩するが、散歩の後飲むものが、ポカリからビールに代わり、そしてショート缶がロング缶になっていく。
最終的には、「敬愛する柳家喬太郎アニさんでおなじみの」キリン・ザ・ストロングになってしまう。

鯉朝師いわく、この芝居は春風亭柳昇の一門が多く出ています。柳昇の一門は、みな新作をやりたいと思っていますが、今日はまだ新作が出ていないので私は新作をと。
新作を聴きたい師匠なので私も嬉しい。
落語というものは、本来喋らないキャラクターにも、セリフを言わせることができるんですと。
かつて当ブログでも取り上げた、「あいつのいない朝」かと思った。
それでもいいのだけど、違う噺。まあ、姉妹編といっていいだろう。
聴いたことはなかったのだが、「街角のあの娘」という演題は「瀧川鯉朝 ペコちゃん」で調べたらすぐわかった。

不二家南千住店の店頭に立つペコちゃんが主人公。
ちなみにかつて本当にあったお店。そんなことまで調べなくていいのだけど。
「あいつのいない朝」の登場人物「ケロ」もちらっと出演する。
ペコちゃんは毎日、南千住の街の朝日と夕陽を見守っている。世界一綺麗なんだそうだ。
ペコちゃんを取り巻く街の登場人物たちがスケッチされる。
好きな娘が気になる小学生が、なぜかペコでスカートめくりの練習したり。
南千住に降り立ったはしご酒のサラリーマンは、ペコの肩に手を掛けて、戻そうとする。
ペコに毎朝、胸の内を語りかけるのは不二家の店長。店長は、バツイチ子持ちのお客さんを映画に誘いたいのだ。
この店長、身長156cmで頭はもじゃもじゃ、到底モテるような人物ではない。なんのことはない、演者そのまま。

鯉朝師の新作、情感がたまらない。人形の視点から、街の人間たちの生活と感情がしっかりと描かれているのである。
シチュエーションに重きを置いた新作落語というもの、決して多くはない。柳家小ゑん師がやや近い気がする。
そして片思いの店長の恋も、ペコが見守る中でちょっとだけ進展する。
しみじみいい噺だなあ。もう一度聴きたいや。

それにしても、こういういい新作を聴くと、大人の客が楽しめるすばらしさについて感じ入る。
ひと言でいうと、文学性が高いということなのだろう。
子供だけ喜ぶ新作落語があると、頭に来るのだ。

この16日から出演の、桂小文治師。
芸協には珍しい(?)本格派の師匠。まだ60代なので、これからピークがやってくる人だと思う。
この日の「酢豆腐」は、なんともたまらないものでした。
形がとにかく綺麗な人で、じっと観てるとトリップする。
酢豆腐、大好きな噺。いつも聴きたいと思っているのだが、この時季東京の寄席であっても、掛かるのは「ちりとてちん」ばかり。
いや、ちりとてちんも好きだけども、たまには酢豆腐を。
江戸っ子の活躍する酢豆腐、古今亭の人から聴けないと、他になかなか機会がない。
現在ややマイナーな噺なのに、Wikipediaではなぜか「ちりとてちん」を内包して「酢豆腐」で項目が立てられている。頻度からしたら完全に逆だけど。

暑さの中、熟睡している仲間を起こす場面からスタート。あれ、浮世床(夢)かと一瞬思ったのだが違う。こんな展開は知らない。
酢豆腐の豆腐は、与太郎が気を利かせて鼠いらずに入れておいたので、一夜で腐ったものである。この点がちりとてちんと違う。
騙されて腐った豆腐を食わされる若旦那だが、実のところ、別にそんなに嫌な野郎ではない。ひたすらキザなだけだ。
小文治師は特に、ことさらに嫌な奴だという描写は入れていない。客の目にもそう映るし、むしろ楽しいキャラだ。
小文治師に掛かると、「若旦那が町内の若い衆たちに仲間入りするのに、ちょっと通過儀礼を踏まえる」そんな平和な噺。
それに若旦那が、最後まで洒落ているところがこの噺はいい。「酢豆腐は一口に限る」。
「豆腐の腐った味がします」よりも、洒落てていいサゲだと思うがな。

続きます。

 

作成者: でっち定吉

落語好きのライターです。 ご連絡の際は、ツイッターからメッセージをお願いいたします。 https://twitter.com/detchi_sada 落語関係の仕事もお受けします。