新宿末広亭の芸協(その7・山口君と竹田君ほか愉快な色物さんたち)

紙切りの今丸師匠は、リクエストのない紙切りを誰も持っていく気がないと見るや、とっとと袂に突っ込んでしまう。
まあ確かに、誰も持っていかないことはあり得るけど、それでも出しておけば、なら持っていこうという人はいるだろうに。
一瞬でも、誰も持っていかないかもしれないシチュエーションに耐えられないのかしら。それとも、コロナで作品にスプレーしなくちゃいけなくて、鬱陶しいので、誰も持っていかないのをこれ幸いなのだろうか。
もっとわからないのは、できたくんと同じ芝居に紙切りの師匠が出ていることのほうだが。

ヒザ前は三遊亭笑遊師。
この師匠でも、ヒザ前はトリを立てて大人しくやるという作法はお持ちである。入れ事をしないことが作法(想像)。
作法はともかく爆笑の堀の内であった。爆笑だが、極めてスタンダードな芸なのも不思議。
間違えて浅草には行かない。

ヒザのボンボンブラザースは、冒頭の輪っか投げで、珍しく勇二郎師匠が軽いミス。ヒゲの繁二郎師匠寄りに落ちてくる。
思わずテレ笑いの勇二郎師匠。
末広亭でこのコンビを観るのは、たぶん初めて。池袋と違うのは、舞台に階段がないこと。
なので、繁二郎師匠が鼻の上に紙を載せて客席に下りる際はまだいいとして、上がる際には後ろ手で舞台をつかみ、よっこいしょと体を持ち上げる。鼻に紙を載せたまま。
御年77歳。すごいよね。

字数の関係で、夜席のコント山口君と竹田君を先に取り上げる。
昼席でお腹いっぱいになり、そろそろ帰るぞと思うところで出たコント、もうなんともたまらん舞台でした。
竹田君が例によって先に登場し、「竹田たかとし、40歳、くらい」と自己紹介だが、なぜか腕を縛られている。
竹田君は泥棒で、民家に忍び込んだのだが、捕えられてしまったらしい。
後から居住者である山口君が登場。
ここで手を叩いてしまったが、お約束としてスルーすべきだったかもしれない。そうするとひがんだ山口君が「お前だけ拍手がもらえていいな」と言えるのだ。

大前提である寄席の緩さを土台にしていながら、極めて精緻に作り込まれた、ある種文芸的なコントが土台の上に載っている。
劇団なんかやってる人からすると、憧れの舞台のありようでは?
泥棒の竹田君、観念して警察を呼んでくれと言う。
だが居住者の山口君は、竹田君が金目のものがないので、なにも獲らず立ち去ろうとしたのが、非常に気に食わないらしいのだ。
あそこの家には盗むものがなんにもないのだと知られてしまうと、世間体も悪い。
なにか持っていけば、警察に通報してやるよと。不条理劇の匂い。
通帳があっただろう、家内のアクセサリーがあっただろう、ブランドバックがあっただろうと打診するが、泥棒の竹田君は、「ぼくの通帳より額が少ない」「安物」「偽物」とにべもない。
ついには、「なら女房を持っていけ」「いやです」。
ネタ自体面白いのだが、でもそこはかとなく寄席の緩さが漂う。
世間体が悪いという山口君、客に向かって、「みんなで声を合わせよう、せーの、せけんてい」。
あまり声は揃わなかったが、「時節柄仕方ないな」。
そして終盤、ひと言セリフを言い間違えた山口君に対する竹田君の反応を捉え、「なんでお前嬉しそうなんだ」と因縁をつける。
コンビなら、相方がしくじったときになんとかするもんだろう、俺はいつもなんとかしてるのに、お前はアンジャッシュかだって。

このくだりがお二人にとっても面白かったみたいで、その後はコントの展開を放棄して、この因縁を延々と膨らませる。
このコント台本、今回の芝居で完成させようとしてるんだって。そのうちテレビにも出るかもしれない。
最後山口君が堂々と時計を見て、「ちょっと待て、時間だ。オチをやって終わるぞ」。

芸協のコントを、1日にふたつ観るのはまたなんとも贅沢なこと。
これ以外に、チャーリーカンパニーとD51、ザ・ニュースペーパーまでいる。
落語協会にはコントは一組もいない。さすが色物の芸術協会。
もっとも、芸協の色物メンバーを芸協の公式で確認したら、チャーリーカンパニーのメンバーが、日高てん師匠だけになっている。
いっぽうで、菊地じん師匠と別の相方のチャーリーカンパニー情報も別個に出ている。
Wikipediaにもなにも書かれていないのだけど。

続きます。明日で最後です。

 

作成者: でっち定吉

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