新宿末広亭の芸協(その8・玉川太福「次郎長伝石松三十石船」)

文治師のトリ「らくだ」の後は、夜席があっという間に始まる。
換気のために仲入り休憩がひとつ多いためもあるが、文治師も、熱演で時間が押したのだろう。
夜席の前座は、幸吾さん。名前から、幸丸師の弟子かと思ったが(でも、「幸」を付けた弟子はいない)、立川談幸師の弟子だった。
オチケンっぽいたらちね。オチケンを捨てる最中なのだろう。師匠も明治のオチケンだけど。

二ツ目枠が、春風亭昇吾さん。
久々にお見かけする。結構楽しみにしていたのだが、朝から居続けの私、ここで爆睡。
でもいっぽうで、権助提灯をサゲまでしっかり聴いた覚えもなぜかある。

山上兄弟のマジック。冒頭が、昼席のお父さん(伸先生)とまったく一緒だったのは書いたとおり。
カードだけでなく、結び目をロープから外すマジックとか。
国立で観たときは、かなり大掛かりに人を消すマジックをしていたが、新宿では普通。
ちゃんと笑いも入れて、寄席の色物らしい芸。子供の頃から売れてるのに、寄席の少ない人数の前でしっかりやるのは偉いよね。

三遊亭馬ん次改め仁馬さんについてはすでに触れた。
「ん廻し」好きなネタなので、流行って欲しいものだ。上方ではよく出るんじゃないか。
ちなみに、小遊三師のん廻しとクスグリも同じだが、「先年神泉苑の門前の薬店」の言い立てについては違う。寿限無と同じくNHK標準バージョン(文我師のもの)。
この人も、えほん寄席で覚えたんじゃないかなんて思う。アクセントは東京風だけど。

春風亭昇乃進師は軽く、大安売り。
浅い出番には最適のネタ。

夜席がスタートして1時間、玉川太福さんの浪曲を聴いて帰ることにする。
芸協客員になってから、末広亭はレギュラーメンバーみたいに顔付けされているようだ。
入門13年だから、噺家でいえばまた二ツ目。しかし一人前の顔付けをされているのだから、師匠と呼ぶべきか。
いちいち、落語や講談に置き換える必要はないのですがね。とりあえず私の基準で、神田連雀亭を卒業したら師匠にしようと思います。
それか、玉川勝太郎襲名なんていうイベントがあるか? 詳しくないので適当に書いてることはお断りしておきますが。

ツイッターに出ている情報によると、太福さんこの芝居で「豆腐屋ジョニー」を出したらしい。
いいなあ、聴きたいなあ。三遊亭白鳥作の新作落語である。私は白鳥師では聴いていないが、林家つる子さんで聴けた。
しかし今日は、もっともスタンダード中のスタンダード浪曲、石松三十石船。昨年、千石図書館の会で聴いたっけ。
がっかりしたなんてことは全然ないですけどね。
落語で、真打が子ほめを演じているようなものだと思えばいい。そして実際、実に楽しかった。
いったん、「ちょうど時間となりました」で、仕込んだ笑いを回収したうえで、また続けるそのテクよ。

最初にうなったときに拍手をするのが浪曲の作法。
誰もしなかったので、「もう1回」うなって拍手をもらう。私も初めて聴くわけじゃないのにぬかったな。

芸協の寄席、改めて楽しいですね。
広瀬和生氏など、芸術協会には厳しめである。つまらない寄席もあるから気を付けろなんて。
私は「寄席にとりあえず行ってみなさいと初心者にすすめる評論家は偽物」だと言い切る広瀬説には、断固反対。
つまらないかどうかの前に、寄席の空気を味わえるかどうかが、落語ファンになれるかそうでないかのわかれ目だと思うのだ。
広瀬氏が褒める芸協員は、文治、鯉昇、それから若手の小痴楽といったあたりまでではないか? あと、元落語協会員の遊雀師。
もちろん、これらのスターは大事。だけど寄席の空気を作るのは、スターだけではない。
蝠丸師なんて、もっと取り上げていただきたいものだ。いや、取り上げない評論家のほうがインチキだとすら思う。
桃太郎、寿輔、笑遊といった人もまた。
今回ヒゲ面で登場した愛橋師なども、寄席の空気を作るのに貢献しているのである。

そして、色物さんの活躍もまた、寄席を盛り上げる。
続きものの冒頭で述べた通り、新宿末広亭は落語の基礎が溢れる寄席。これからも、初心者歓迎の寄席であり続けて欲しい。
私は初心者ではないけれど、基礎を味わいにまた来ますよ。
次も芸協にするかな。芸協という団体自体、池袋より新宿との親和性が高いような気がしてきた。

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作成者: でっち定吉

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