落語の「鉄」人(その3・古今亭駒治「ロック・ウィズ・ユー」)

続いて駒治師。
なぜかギターとアンプを持参。扇子には、ピックが5つほど付いている。
なんだこりゃ。
コロナで仕事がなくなり、家にいると変になる、それでできた噺らしい。
単にギターを弾きたくて、ギター演奏シーンのある落語を作ったんだって。

ぼくはチャゲ&飛鳥のファンでしたと駒治師。現在コンプライアンス的に名前出しづらいですけども。
中学生の頃は、大人になったらチャゲアスになれると思ってました。やがて無理なことに気づいて噺家になったんですだって。
駒治師には鉄道落語だけでなく、青春グラフィティものの新作が結構ある。「ラジオデイズ」は以前聴いた。
どんな素材の落語でも、マニア度高めになるのは不思議。
新作落語界も大きくなっているが、意外とこのジャンルはない。
三遊亭白鳥師も少年時代がテーマの落語を作るけども、ぜんぜん青春のにおいがしないのはなぜか。もちろん楽しいけどね。

冴えない男子高校生が主人公。部員ふたりの文芸部、もうひとりの女の子は、文化祭を最後に宇都宮に転校してしまう。
思いのたけを打ち明けたいができないところを、いつもギターをかついでいる、変人生徒に見抜かれる。
変人の名前はキース。勝手にミックと呼ばれる主人公。
ミックの書いた詩にキースは即興で曲をつける。文化祭に出て、彼女に思いを伝えろとキース。

バンドメンバーを揃えるのに心当たりのあるキースは近所の銭湯へ。ここには銭湯の若旦那、すでに40代になったベースのビルがいる。
そして無口なドラムスのチャーリー。
さらに音楽の先生をピアノに加えようとするキース。クラシックしか認めないのよというこの先生は、実はビルたちと因縁の仲だった。

ミックが彼女を思って書いた詩を、実際にギターをかき鳴らして歌う駒治師。
この詩は、関東平野の広さをうたう内容。
東北本線を宇都宮まで描写する。鉄道落語でなくても、鉄分入り。
キースが一部、コール&レスポンスをしようと歌詞の一部分を変え、「ヘイヤ」の連呼にする。
そして、「ヘイ」と叫ぶと客が「ヤ」とレスポンス。やりたい放題。
落語を聞いている本当の客も、頑張ってこれに付いていかねばならない。
客の年齢層は高めだが、ストーンズ好きな人もいるだろう。そんなファンはノリノリだったんじゃないか。

日本橋亭、換気のためにところどころ開け放してあるのだが、当然外に音は漏れるはず。でも、あらかじめご近所に断ってあるんだって。
このあたり、日本橋といっても土日は人っ気のないところだが。

いつもながら、駒治師の落語の作りには感心させられる。
わりと日常の設定だと思っていると、どんどん世界のほうをエスカレートさせてくる点が上手い。
こうすると客は、ぶっ飛んだ話に整合性を見出そうとする。少々の矛盾などまったく気にならなくなるのだ。
新作落語のコツはわかってきても、なかなか作れないのですけど。

クスグリも実に楽しい。この師匠の得意な、「ボケっぱなし」の技法が多用されている。ボケっぱなしと、役割をちゃんと果たさないツッコミという。

ノリノリのコール&レスポンスは楽しかったが、ちょっと噺が長いな。
算段の平兵衛の長講の後だったので、ちょっと疲れてしまった。
ただ、ネタおろししたばかりの落語が長いというのは、ままあること。無駄を省くとだんだん短く進化してくる。
ミックは失恋に終わるのだが、別に悲劇性はない。
サゲはなんと、前代未聞のテロップ落ち。詳細を書くのはやめておきます。
ここで、噺のタイトル「ロック・ウィズ・ユー」を知る客。
ひょっとしたら、寄席のトリでも出しそうな気がする。池袋だったらできるだろう。

仲入り後の「上京物語」の際に駒治師、楽屋あるあるをマクラに振っていた。
着物を広げてくれる前座が、たもとに入れっぱなしのなにかしらを見つけ、報告してくれることはよくある。だが「ロック・ウィズ・ユー」をやった後で寄席に行ったら、ピックが出てきてこれは恥ずかしかったって。

続きます。

 

作成者: でっち定吉

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