浅草演芸ホールの芸協 その6(ナイツ)

仲入り休憩は、舞台上手を換気のため開放。開くんだ。開くと向かいがドンキ。
これは、他の寄席と比べても、もっともコロナに強いかもしれない。
なるほど、1階でない、鈴本と池袋の再開が遅かった理由がよくわかる。

クイツキは、とても品のいいおばさま、神田紫先生。
山内一豊の名馬購入のエピソード。講談で聴くのは初めてだ。
実に結構な、くつろぐ一席でありました。とにかくナチュラル。
紫先生、ギャグを力強く言わないところがいいなと。
講談は落語でいうと地噺だから、地に返って発するギャグも重要。でも、ベテランでも渾身の力を込めてギャグを発する先生もいますよね。
そして、メリハリ付きすぎて固い講談もある。そういう空気を配した、自然な一席。
最後に踊り。踊る講談師を初めて観た。

そしてナイツ。
東京の寄席を代表する芸人、ナイツの大ファンである私だが、寄席でそんなに聴いてるわけじゃない。2年前の2月、国立以来だ。
ちなみに、この席は宮田陽・昇との交互出演。陽昇も大好きだが、寄席では一度しか聴いてない。
まあ、いろんなことはあるが、色物の素晴らしい芸協にもっと通おうなんて思う。

何の説明もなく、二人とも手持ちマイクでの高座。ソーシャルディスタンスを保った漫才。
視点がふたつあって客も忙しい。イオンの特設ステージで披露するようなものだ。
その点やや不自由だが、ハンデがあっても実に結構な内容でした。
いつもの、自己紹介とキャンディーズ解散を絡めたネタを入念に。まあ、これはこれで。
だが「そんなぼくらの漫才を今から聴いていただきたいと思います」から、新ネタへ。嬉しい。
ぼくら、登場してきてのツカミネタがないので、新しいのを考えたいと思います。いつも、左手のカンペを見て、相方の「土屋です」って言ってますけど、本当はなにも書いてないんですよと客に手のひらを見せる塙さん。
ナイツは、舞台のお約束自体をネタにするところが上手いよなあ。
さまざまな、入場後のツカミを演じる。みな、人のパクリである。

客の少ない席でも、それに合わせちゃんとした舞台。芸人の鑑であります。
塙の浅草師匠ネタは面白いが、背景に「ベテランだからって客をなめた舞台をするな。ちゃんとしろ」という、彼の怒りが隠されているはずだ。
楽屋を早く出なければいけないルールになってるから、この日の可楽師の高座、袖では聴いてないだろうな。

続いて桂歌春師。
楽しいのだけど、先月代演で出た新宿末広亭の高座と、完全に一緒のマクラ漫談に、鍋草履。
歌丸師の三回忌が済んだので、師匠歌丸に教わった噺云々が抜けていただけの違い。
こんなことに文句言う気はないけど。
ところで、三回忌が済んでも「桂歌丸」という名前を継ぐ人は当分、誰もいないだろう。
初代しかいない名前だし、よその一門が名乗るようなものでもない。
歌丸師は立派な噺家だったが、他の笑点メンバーと異なるのは、弟子の育成が上手くなかった点。
孫弟子もひとりもいない。

可楽師の投げ出した高座を挟み、ボンボンブラザース。
芸協の寄席のヒザを、恐ろしいハイペースで務め上げている。もう結構なお爺さんなのに。
ヒゲの繁二郎師匠、このご時世に鼻に載せた紙をお土産にあげたり、ハイタッチしたりしてる。いいのかしら。
途中で落とさなかったら、場内一周してたのだろうか。それは自粛?
しかし、このお土産もらい、帽子投げに参加した女性のお客さん、ツイッターに自分の情報ばんばん載せてる。よく出すよね。
ちなみに私は、以前繁二郎師匠に指名されて帽子投げをやらされました。なかなか面白い体験だったが、ブログには書かなかった。
もちろん、一発で特定されるからだ。

寄席の通常番組のトリは春風亭柳橋師。芸協の副会長。
親父の名前を忘れる息子の小噺を振って、粗忽長屋。ここ浅草が舞台だ。
先日もこの噺を聴いて、噺の難易度の高さを思い知った。
私は素人落語家じゃないから演じるわけではないが、実に難しい話だなと。
柳橋師の粗忽長屋がいいのは、狂気にのめり込んでいないこと。どこか、緩やかに世界を眺めているのだ。
町役人たちも野次馬も、そして粗忽の八っつぁん熊さんも含め、みな緩い。
そして芸協らしいというべきか、寄席のトリとしては非常に軽い。
落語協会の寄席だと、普通にはトリネタじゃない。

仲入りを挟んで、最後はアロハマンダラーズ。
続きます。

 

作成者: でっち定吉

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