浅草演芸ホールの芸協 その5(三遊亭遊馬「かぼちゃ屋」)

春風亭傳枝師も、アロハマンダラーズのスチールギター担当。
雷小噺をみっつ振って、強情灸。
端正で、強情っぷりのよく出た結構な一席でした。画もよく見える。
顔も赤くなっていた。
真打になって10年、まだまだ伸びてくる人だと思う。
こういう芸は、落語協会にいたほうが評価されやすいのだな、たぶん。

続いてお目当てのひとり、三遊亭遊馬師。
マクラで楽屋の寿輔師を。
寿輔師、「あ、電話しなきゃ」と言って、携帯の電話帳を見ながら、楽屋のピンク電話で電話を掛けていた。
なにがなんだかわからないと遊馬師。
与太郎の紹介をしてから、かぼちゃ屋。
実に結構な一席、珠玉のスタンダードナンバーであった。
いろいろと批判もあったこの日の、最大の収穫。

遊馬師の魅力である、優しさに充ち溢れた世界の噺。
そして与太郎はあざとくない。この世の片隅で愛されながらひっそり自然に暮らしている、そんな造形。
あざとい与太郎なんてのはいないが、演者が作り込みすぎる与太郎はいますよね。
そして遊馬師の演出は大変丁寧。
与太郎に上を見て売れというおじさん、客観的には、相手が与太郎なのに、おじさんいささか説明不足だ。
だがおじさん、「お前も親父の商売見てきたからわかってるだろう」と与太郎に問いかけ、うんと言わせている。
そうなのだ。与太郎をよく知っているおじさんにしてから、「(物理的に)上を向いてのどちんこの日干し」するのは想定外なのであった。
路地に入り込み、蔵の前で大騒ぎする与太郎。
よく聴くこの噺から、初めて路地の画が見えた。
客に画が見えるというテクニック、どういう技術だろう。恐らくだが、演者の発したセリフそれ自体が、登場人物自身の腑に落ちているときに、客にもそれが伝わるのに違いない。
クスグリは少なめ。カボチャとへちまのくだり、「ライスカレーはしゃじで食う」などはない。極力刈り込む方針のようだ。
与太郎自体がおかしな造形なので、クスグリは少なくていいのである。
端正に映る芸なのに、与太郎は結構跳ねている。でも噺から浮いたりしない。
1か所ミスがあったが、なんだっけ。ミスはちょくちょくあって、しかしさして気にならない不思議な師匠。

遊馬師はもっと聴きたい人。
昨年は、板橋のみやこ鮨の勉強会に、二度出向いた。これにもまた行きたい。
それ以外で、師の主たる活躍場所は、両国(江戸東京博物館)での落語会。
これが、私のよく行くらくごカフェの「柳家花緑弟子の会」と毎月同じ日、同じ時間帯なのだ。
500円と2,000円で500円を選ぶ、貧乏人の私。でも、そろそろ遊馬師のほうへも行こうかな。
遊馬師のブログ、毎日楽しみにしていたのに、やめてしまって実に残念。続けるのは大変だ。

新山真理の人権抑圧血液型漫談を挟んで、仲入りは古今亭寿輔師。
このポジションでも、浅草だといつもの自虐漫談。ネタ帳には「名人への道」と書かれる。
拍手もらうほどの芸人じゃないです、遊馬さんみたいな、大きな声は出せませんと。
面白いのだけど、1日振り返ったときに漫談が被り過ぎてちょっとね。
ちなみにこの日、前列のほうに、やたらと声を出すおじさん客がいた。
のべつに声を発しているわけではないから、無粋ではあるものの、耐えられないというほどではない。
一応、おじさん自身には基準があり、客が喋ってもいいと判断したときにのみ、声を発するらしい。
浅草らしいな。
だけどそもそも、客が喋ってもいい基準なんて、落語界にないですぜ。
おじさん、寿輔師の漫談の最中にも、適切なタイミング(当人基準)で声を発するのだが、高座からは見事に無視されていた。
おじさんをスルーし、おばさんとお嬢さんをターゲットにしていた。
最前列の、メモを取ってるお爺さんもいじっていたし、男だから無視されるなんてことはない。やっぱり演者からすると、声を出す客は嫌なんでしょう。

続きます。

 

作成者: でっち定吉

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