「君の名は」の「前前前世」で知られる野田洋次郎という人のツイートが、優性思想の現れだと話題になっている。
前も話したかもだけど大谷翔平選手や藤井聡太棋士や芦田愛菜さんみたいなお化け遺伝子を持つ人たちの配偶者はもう国家プロジェクトとして国が専門家を集めて選定するべきなんじゃないかと思ってる。
お父さんはそう思ってる。#個人の見解です— Yojiro Noda (@YojiNoda1) July 16, 2020
折から、安楽死事件があったことでもあり。
本人は冗談だと弁明しているのだが、これを「冗談ならよし」とスルーする人はいない。
ちょっとやらかしたという以上に、とても気持ちの悪い内容である。女子高生に種付けする相手を国が決めろと。
投稿内容以前に、脳内にこの見解が映し出されているわけだ。この気持ち悪さは救いがたい。
言ってる自分も、遺伝子により選ばれた側だと思ってるのだろうか。
現状、一発屋に過ぎない気がするが。
大谷翔平、藤井聡太というのは、筋力と知力。
まあ百歩譲れば、「遺伝子の活躍である」という結論を出して出せなくはない。十分に失礼だけど。
しかし、遺伝子を持った子供がすべて成功するわけでもない。
長嶋一茂、カツノリといった人たちは、実にすごいほうであって。
将棋界についていうなら、二世棋士で大出世した人は、実は皆無。
道徳に反して遺伝子管理したところで無意味なのだ。
野田洋次郎が一発屋かどうかは異論もあるだろうが、少なくとも一度はスターダムに立ったわけだ。その成功を、自分の努力でなく、遺伝子と考えたがる人は、やっぱりよくわからない。
さて、落語界は結構、二世・三世の多い世界。
四世なんて人までいる。林家たま平さん。
これも遺伝子? 普通はそうは考えない。
そもそも、落語の上手い遺伝子ってなんだろう。
林家木久蔵という人も二世だが、父から落語の遺伝子を引き継いでいるとは誰も考えないはず。
ご本人も、「父親からアホを引き継いだ」という売り出し方をしている。木久蔵師は「血」というものを嗤っているのが見事だ。
六代目笑福亭松鶴の息子、枝鶴は父親の追善公演で失踪し、廃業した。
むしろこのような事例こそ、落語界の「血縁」を強く感じさせるわけである。
今のところ、落語界の血筋はもっぱら父系。柳家花緑、金原亭小駒は、母方の祖父が名人であるが。
血筋を管理しようとするなら、母系も管理することになる。
現在、二組の噺家夫婦がいる。でも、子供が生まれたとして、後を継ぐ可能性のほうがずっと低いと思う。
誰もそんな期待はしない。血筋が優秀なら落語が上手いだろうなんて誰も思わない。
二世が増えても、落語は血でやる必要は特にない世界。
これが歌舞伎と違う点。
落語の場合、二世もいるが、むしろ血縁のないところに「遺伝」が生じる世界なのだ。環境の影響のほうがはるかに大きいわけである。
柳家さん喬師が弟子・喬太郎を差して「あいつにも小さんのDNAが流れているんだ」と語ったのはいいエピソード。
血縁関係は三代にわたって存在しない。
柳家だけではない。一門をつぶさに見ていくと、そこに明らかな、血筋のようなカラーが見えるのである。
しかし優性思想は怖い。
二世落語家である柳家花緑師など、発達障害を告白し、その方面の書物も上梓している。
血縁関係の前に、不完全な人間として切り捨てられていたかもしれないではないか。
乙武洋匡が、冗談とやらに怒っているのはむべなるかな。