アニメ「昭和元禄落語心中」の落語/第十話

「昭和元禄落語心中」もあと三話書いたら終いです。
このネタを取り上げるとアクセスが増えるのですが、これ以外のネタもどうかよろしく・・・

冒頭、菊比古に弟子入りを志願する青年を追い返すエピソード。
菊比古、親子会の場で、自分に弟子入りを頼み、自分の師匠に恥をかかせたとおかんむり。七代目師匠も面白くない様子。
この弟子入り志願が無礼だとは思わないのだけど・・・弟子入りのときは、多かれ少なかれ多少の無礼は働いてしまうもの。弟子に入れない理由は、この場で断られたことではなく、その後何度も行かないことだ。
孫弟子志願者がやってきて気分を悪くする大師匠というのも聞いたことがない。
ひとりきりで生きていくという、菊比古の決意のほどはうかがえるが。

子別れ

親子会で七代目師匠が、マクラを振らずいきなり「子別れ」に入る。
師匠最期の高座になってしまった。

「亀、大きくなったなあ」
「おとっつぁんも大きくなった」
「おとっつぁんは大きくならねえよ」

なんてことないクスグリだが、こういうやりとりが、じわじわいいのです。

「子は鎹」ともいう。別れて音信不通の夫婦が、息子のおかげで元のさやに収まる人情噺。
本来、上中下とある長い噺だが、通常掛けるのは「下」である。「中」から続けてやる場合もあるが、「上」(強飯の女郎買い)はあまりやらない。
「上」は弔いの帰りに吉原に繰り込む噺で、ここから始めると、主人公熊さんの印象が著しく低下するし、なによりクライマックスがぼやけてしまう。
「中」も、「下」で重要な役割を果たす息子があまり出てこないので、つながりはあまりよくない。よく考えたら変な構成の噺。「下」だけやっておくのが無難だし効果的と思う。

七代目師匠は、おっかさんが亀をぶつと脅かすシーンで「金づち」を出していた。
ここは、「玄翁」と「金槌」の2種類ある。本来は玄翁(げんのう。金づちのでかいやつですね)らしいが、昔からわかりやすく金づちにしてやっている演者もいるので、おかしくはない。

死神

師匠の葬儀を無事に出し、初めて高座に上がる菊比古。
師匠を見送ったばかりなのに、縁起でもない噺だがあえてやる。八代目八雲になってからの看板噺だ。

サゲは見立て落ち。演者が倒れた仕草で落とすので、音源だけだとわからない。
このサゲは、死神を得意にした昭和の名人三遊亭圓生のもの。

倒れた仕草で落とす場合、幕を下ろさないと格好がつかない。本来、トリでないとできないはずだ。
客を引き付けたのはよいが、この後会長が上がるのである。会長がトリ(主任)なんだろう。
会長との立ち話のタイミング的には、菊比古は「膝替わり」(ヒザ)であった可能性もある。少なくとも仲入り前ではない。

寄席というところは、メインディッシュの主任をおいしく召し上がっていただくためにオードブルやスープが自分の役割をきちっと果たすところなのである。
メインディッシュが出る前に、「死神」をやってしまうのはいいのか?
ランナーを溜めなければならないシーンで、一発狙って打席に立つようなもの。特にヒザならば、送りバントが求められるので、一発狙いはこれ以上あり得ないくらい最悪だ。
会長はご機嫌だが、本来そういうことをうるさく言わないといけない人なのではないのか。言わないのなら、ただの好き嫌いで助六を低評価するだけのつまらない人ではないか。
「昭和元禄落語心中」は隅々までよくできているが、この部分だけはちょっとした穴だと思う。

野ざらし

助六とみよ吉を探しに旅に出る菊比古。
そば屋でふたりの娘、幼い小夏がサイサイ節をうなっているのに出くわす。
助六が弟子入りするにあたり、師匠の前でやった噺で、菊比古もそれを聴いていた。因縁である。

第十一話に続く

作成者: でっち定吉

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