アニメ「昭和元禄落語心中」の落語/第十一話

アニメ「昭和元禄落語心中」に出てくる落語につきいろいろ書いております。第十一話。

酢豆腐

サゲだけ。「いやいや、酢豆腐はひと口に限りやす」。

助六の帰京旅費を捻出するため、そば屋で菊比古が演じている。
今までと傾向の違う噺を掛けているではないか。
若い衆が集まって、気障な若旦那をかつぎ、腐った豆腐を食わせる噺。
人を騙す話ではあるが、若旦那が勝手に知ったかぶってドツボにはまるので、割と爽快感に満ちている。
女は出てこないから菊比古のアドバンテージはなさそうだが、一方で気障な若旦那は菊比古のニンに合っているようにも思う。
「それではちょいと、いつふくしていきやしょうかね」。

「酢豆腐」は、同じ趣向の「ちりとてちん」という噺があるがゆえに、頻繁に掛かる噺ではない。
できたのは酢豆腐が先で、ちりとてちんがあと。東京の噺が上方で改作されたという、落語界では大変珍しい例。
東京でも、上方から再導入された「ちりとてちん」のほうがよくかかる。個人的には、ワイワイやっている「酢豆腐」が好きだなあ。
「酢豆腐」では半可通の若旦那を騙すわけだが、この若旦那に吉原に連れてってもらおうとしてヨイショすると「羽織の遊び」という噺になる。

野ざらし

小夏にせがまれた菊比古「苦手なんだよ」と言い、思い出しながら喋ってみる。一応持っているようだ。
ガラッパチの八五郎を演ずるのはさすがに向いていないが、先生のほうは決して悪くない。
もっとも本来、怖い噺でもなんでもないのに、小夏を怖がらせてしまっている。
途中から、起きてきた助六がサイサイ節をうなりだす。さすがに助六の能天気な八っつぁんはいい。
そして、八っつぁんの妄想の中に出てくる年増は菊比古。「こんばんわあ」が色っぽい。掛け合い噺の趣向としゃれこむ。

素晴らしいですね、このシーン。原作ではさして印象に残る場面でないのだけど。
登場人物の個性、得意な落語の特性を深掘りしていないととてもできない。
一席の落語を二人以上で演ずるという趣向は、昔のVTRの紹介で、(先代)小さんと、談志・小三治の弟子2名、合計3名でやったものの一部をチラっとだけ見たことがある。何の噺だったか忘れた。

(2016/10/25追記)

第三話のレビューで漏れていましたが、よく聴くと菊比古が「あくび指南」とともに、「野ざらし」を稽古していました。
「四方の山々雪解けて、水かさまさる大川の」とつぶやいています。

第十二話に続く

作成者: でっち定吉

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