黒門亭に行ってきたので撮って出しです。
一応、ブログのネタはできた上で寄席に行ってきた。ブログのために落語聴いてんじゃないよというささやかな矜持。
まあ、そうなってるときもあるけどね。
《11月12日・第一部》
市若 / 転失気
扇兵衛 / 野ざらし
志ん丸 / 穴どろ
(仲入り)
小燕枝 / 万金丹
左橋 / 夢金(ネタ出し)
うーん、地味だなあ。
これを聴きにいくのなら、前日の金曜日、柳亭こみち師の披露目、千秋楽に行ったほうがよかったのでは?
そうかもしれない。でも、小燕枝師匠が好きなんです。
私は最近、「世界観」を求めに落語を聴きにいっている。小燕枝師匠の世界が好きだ。
小燕枝師は若い頃から評価の高かった人のようだ。同期の円丈師によると、ちょっと天狗になっていた時期もあったと。「円丈落語全集2」に書いてある。
その後名人にはならなかったが、なんともいえない独自の空気をまとっている師匠が好きだ。
他の顔付けも、志ん丸、扇兵衛と結構魅力的。実際、なかなかいい内容でしたよ。
満員札止めはない顔付けなので、ギリギリに到着。お客の入りは半分強。
早朝寄席と掛け持ちしようかとも思ったが、やめた。
今日はひとつ運営にチョンボがあった。
仲入り後、小燕枝師匠のときに、前座さん(開口一番の市若さんではない)が、メクリをめくり忘れていた。
演者のほうを向いているわけではないので、小燕枝師匠は気づきようがない。いや、気になって仕方なかった。
「古今亭志ん丸」のメクリのまま、小燕枝師匠一席やり切ったのであった。その後出てきたこの前座さん、メクリをみて、「あ」という顔をしていた。
帰るときに、名札を確認しておいた。今年入った前座さんだ。
私の好きな師匠の弟子だ。ちゃんと師匠にチョンボは報告しましょうね。客が噺に没入したいのを妨害しちゃいけません。
なんだか、池袋演芸場でなくて黒門亭がホームグラウンドになってきたっぽい。
でも、ここの常連になって、いつも同じ席に座るようになるのもちょっとなあ・・・
来るたびにいつも見る常連のひとりが、最後に入ってきたカップルが出入口そばに座ったのを見て、後ろを向いて、そこじゃない、出口を空けて手前に座れと誘導、というか指示していた。もう前座さんが出ているので無言で。
確かに出口付近に陣取られると困ることもあるかもしれないが、別にいいじゃないか。自分を運営側の人間と思っているのか。なんか嫌だなあ。
常連が偉そうにしているのが、黒門亭の最大の欠点。早朝寄席もそんなところがある。あ、「常連=偉そう」というわけではないです。偉そうでない人もいます。
ともかく冒頭から進めます。
前座の柳亭市若さん。
いつでもどこでも聴く「転失気」だし、何の期待もなくぼんやり耳を傾けていたのだが、オヤと思った。
前座さんというと、客に対してではなく自分の稽古で喋っている感じの人が多い。別に前座さんに多くを期待しているわけでないからそれでいい。
二ツ目になってから、急に商売としての落語に目覚め、基本を踏み外して前に出て頑張る人も多い。それもそれでいい。
だが、意欲の空回りしている二ツ目さんも多いものだ。
市若さん、入って二年の前座なのに、すでにその先の状態にいち早く到達しているみたいだ。客に対してどんどん出ていけばいいと勘違いしている二ツ目さんを尻目に、前座のうちから「欲しがらなさ」を身に着けている。
自分のために喋るのではなくて、客に向かってちゃんと話しているのにもかかわらず、笑いを欲しがっていない。大したもんだ。
噺が落ち着いている分、たまにギャグを入れるとドっと沸く。
門前の花屋の大将に向かって珍念さん、「大丈夫ですか、なんかキャラが定まっていないようですが」。
同じ市馬師の弟子で、市朗さんという人をたまに見かけるが、市若さんはこの人とまったく同じ日の入門。市朗さんのほうはどうもいまだオチケンぽさが抜けてないのだけど、すでにプロの話術を身に着けている市若さん。期待大。
サゲのバリエーションだけはやたら多い転失気だが、市若さんも新たなサゲを作っていた。
林家扇兵衛「野ざらし」
次いで落語協会カラオケ同好会会長、林家扇兵衛さん。今日も明るい高座。
月曜夜の鈴本、「歌と落語の会」の宣伝をする。
9月によくある老人ホームの慰労では、「今年は落語はいいですから歌だけでお願いします」と言われたと。実話ですと。
今日も、別に普通の人には暑くはないのだけどすでに汗ビショビショだとのこと。本当は手拭いでなくタオルを持ち込みたいのだが、先輩に叱られると。
この日、妙に冷房利いていて寒かったのだが、この人の差し金か?
扇兵衛さん、楽しいマクラのあと、「直前までネタ帳見てたんですけど、実はまだ今日のネタが決まらないんです」と、本気で悩んでいたっぽいのだが、釣りの定番マクラから「野ざらし」へ。
えー、前回9月にここで聴いたときも野ざらしだったんですけどね。人のネタを散々チェックしておいて、自分は前回と同じネタかあ?
まあ、私も野ざらし愛好家だからいいですけど。
とはいえギャグはちょっと変わっていた。いろいろ工夫をしているのだ。だいたいはウケていたが、
「あたしゃ鳥肌立っちゃいましたよ。体は豚みたいですけど」
「エコウに行ったって、向島まで節電しにいったんですか?」
どちらもあまりウケてなくてすかさず八っつぁんのまま、「もう、こういうクスグリ止めたほうがいいね。全然ウケてねえや」。
つまらないギャグをぶつけたままだと、客はいたたまれなくなる。それを自ら救いにいく態度は偉いと思う。
真打になっても、客を凍り付かせたまま平気の人もいるからな。それならギャグなんか入れずに淡々と進めたほうがまだ害がなくていいのにね。
古今亭志ん丸「穴どろ」
仲入り前はソフトモヒカンの古今亭志ん丸師。何年ぶりだろう。
以前はたびたび聴いた。百栄師との二人会というのにも行ったことがある。
あまり寄席には出ていない人。
寄席に顔付けされない人は、ごく一般的には上手くない人である。だが黒門亭に顔付けされる師匠は、普段寄席に出ているかどうかにかかわらず、妙に達者な人が多い。
志ん丸師にもそういう気配があるのだが、まだ若いのだからもっと寄席にも出てもらいたい。
たまにお見かけすると、必ず珍しい噺を聴かせてもらえる人。「きゃいのう」とか「かんしゃく」なんて聴いた。
この師匠は、生まれ持っての「怒り顔」である。客に親しみを持ってもらいづらそうなのだが、でも怒り顔でも合う噺がたくさんあると思う。
マクラは、五明楼玉の輔師匠について。
志ん丸師の弟弟子、志ん八改め志ん五師の真打昇進披露でずっと司会をしてくれていた玉の輔師。国立の披露目を残して、立花家橘之助襲名披露の司会に移った。
しかし慣れというものは恐ろしいもので、橘之助襲名の披露目で、「昇進披露」と間違えて言ってしまう。さらに、口上の最後を締める金馬師匠に向かって、「それでは圓歌師匠」と言ってしまう。
楽屋では、次の理事会で玉の輔師匠の二ツ目降格が決まるらしいと囁かれている。
そんなスレた落語ファンの喜びそうなネタから、本編へ。
昨年は、借金取りから逃れるために死んだふりをしたというので「掛け取り」か。もうそんな季節なんだなあと思っていたら、あと「三両あれば」というのに妙にこだわる。ということは、「穴どろ」?。
「豆腐の角に頭ぶつけて死んじまえ」。穴どろでした。冒頭が掛け取りと共通しているこんな型初めて聴いたが、まあ、穴どろ自体あまり掛かる噺ではない。珍しい噺を語る志ん丸師匠の面目躍如。
というか、この型だと年末しかやれないと思う。
穴に落ちた主人公をつかまえるためにカシラを呼ぶが、代わりに食客、というか居候の「三軒茶屋の平助」がやってくる。略して「三平」。
「こっちの腕には昇り竜、こっちの腕には下り竜」はなかったが、いちいち(先代の)「三平です」がギャグに入る。
ここからは大変スピーディな展開で、トントーンとサゲまで。
小気味のいい噺だった。にわか泥棒のほうも、悪さが皆無で、凶暴性も皆無。凶暴性なんてのは、鉄火男が穴の中に降りられないことを理由づけするためだけのものだから、本当に凶暴である必要なんかないのだ。
そんなキャラ造型だが、噺はしっかり成り立ってる。
こういうのが聴けるのが黒門亭のいいところ。
柳亭小燕枝「万金丹」
仲入り後、前座さんのチョンボでメクリに「古今亭志ん丸」と出たまま高座に上がる柳亭小燕枝師。品のいい、とぼけたお爺さん。72歳。
ここ二回、続けて黒門亭で聴かせていただいている。仲入り前とトリだったが、この日はどちらでもない。
「あくび指南」のときは噺家さんの昔話を、「笠碁」のときは定番の囲碁将棋マクラを聴いたが、今日は気を遣ってなのか、マクラを振らずいきなり旅の噺に。
実のところは、長い話なので単に時間の関係だったと思うけど。
マクラの楽しい師匠の噺は、マクラがなくても楽しいのである。これ、例外なし。
はらぺこの二人旅。なんだろう、「長者番付」かな、それとも「二人旅」か。なんにしても、先代小さん譲りの噺であることは間違いない。
寺で厄介になって、「万金丹」だと判明。
このブログでたびたび引いている私のバイブル「五代目小さん芸語録」で小里ん師によると、小さん十八番ではあるものの、今でも頻繁に掛けているのはこの小燕枝アニさんくらいではないかとのこと。
淡々としたこういう噺は、のべつやってないとできないらしい。考えないで口から出てくるようにしないといけないそうだ。
「万金丹」不思議な噺だ。壮大なピカレスクロマンにも思えるのだが、でも「和尚絞め殺して小金奪ってズラかるか」なんて物騒な相談を和尚に聴かれていても全然動じない。
悪い奴らというより、人生とことんふざけて生きている二人組。
徹頭徹尾ふざけた落語だ。ふざけた落語は、真面目に語ることによって、とてつもない面白さが湧き出してくる。
こんな噺、「業の肯定」なんていうのとは絶対違うと個人的には思う。
この世のすぐ隣にある、ふざけた世界のふざけたやり取りを面白おかしく描くというだけの落語だろう。ちなみにこういう世界の空気、現代では新作落語のほうによく引き継がれていると思う。
めちゃくちゃやっている二人のにわか坊主だが、京都に出向いて留守にする和尚は、そんなこともきっとお見通しなんでしょうね。
「万金丹」(薬)の袋を戒名にされた遺族が、さして怒っていないところがいかにも落語だなあと思う。
ひどい話なんだけど、そのひどさに対してのリアリティはない。
いつもハズレなしの小燕枝師匠、たまりません。来てよかった。
黒門亭は単に珍しい噺が聴けるというだけでなく、落語ファンの微妙なとんがった部分に強く訴えかけてくる。
初音家左橋「夢金」
ネタ出し「夢金」の初音家左橋師。弟子の左吉さんはプチブレイク中。
珍しい亭号だが、やたらと亭号の多い先代金原亭馬生一門の噺家さんである。昔の事典をひっくり返して探した名前ではなく初代。
ロマンスグレーの左橋師、船の中での仕草が非常に丁寧なので、楽しませていただいた。
ただ、狭い席なのに、客の目を一切見ない。最前列にいたら気づかなかったろうが、遠くの虚空を見て語る師匠。これは「正面切れない」という欠点なんだと思う。
芝居としてみたとき、仕草が綺麗でいい落語である。こうした絵になる高座に惚れる人がいるのはよくわかる。
でも、ラジオや、飛行機で聴いてたらあまりメリハリを感じない落語だろうなと思った。観ないと伝わらない落語なのだ。
サゲは、いきなり「静かにしろイ」だけ。黒門亭のファンだからわかるが、「夢金」という噺を知らなかったら夢オチがわからないまま帰る羽目になりそうだ。
夢金の「金」には触れなかった。まあ、下品ですもんね。
今日もハイパフォーマンス、落語の殿堂、黒門亭。
次週は、扇辰・彦いち両師が出るというから凄い。次々週は駒次さんがトリを取る二ツ目の会も。でも、自粛しよう。