新宿末広亭の番組に思う落語界の交流

今日はブログ更新を休もうかと思ったが、小ネタならないこともない。

新宿末広亭という寄席にはしばらくご無沙汰していた。どうしても池袋の番組がよく見えてしまうもので。
だが自粛明けに久々に出向いた芸協の寄席に感銘を受け、以前よりずっと着目している。通っぽい池袋とは異なる、落語の基礎を感じたのだ。
その末広亭の芸協の番組を見ていたら、オヤと思った。10月下席。

落語交互出演 三遊亭萬窓/三遊亭王楽

えー、芸協の寄席なのに、落語協会の萬窓師が出るのか、すごいなと思った、
だがよく考えなくても間違いであることはすぐわかる。
どう考えても、萬窓じゃなく萬橘。円楽党の枠である。似たような名前が、まったく違う団体にいるからややこしい。

結構末広亭の番組表、誤字が多い。
以前、「柳家蝙丸」という表記も見た。蝠丸が正しい。
蝙蝠(こうもり)という字の使う部分を間違ったのだろう。
この10月下席の名前には、さらに間違いが。「笑福亭今輔」という、架空の噺家が顔付けされている。
その下の古今亭今輔に引っ張られたみたい。
この枠に入る笑福亭は、きっと里光師だろうと思って芸協のほうで確かめたら、そうでした。
ちなみに末広亭の公式のほうも「PDF」を押すと正しいものが出てくる。PDFファイルとHTMLとを、別の作業で作っているのだな。

ちゃんとして欲しいが、楽しませてもらったことだし、まあいいのだ。
これを機に、現在の末広亭(芸協)のゲスト枠について認識を新たにしたのである。
芸協の末広亭には、以前からゲスト枠がある。
円楽党枠、立川流枠、そして上方枠である。
上方枠は、あちらからベテラン師匠を呼ぶ場合もある。私が聴いた、笑福亭松喬師など。
だが、東京在住の若手で間に合わせていることもあるので、一口に上方といってもいろいろだ。
さてこのゲスト枠、主任の師匠が呼ぶのだと聞いていた。恐らく、最初はきっとそうだったのだろう。寄席の番組に風穴を開ける画期的な方式。
でも現在の運用としては、明らかにそうでないようだ。
円楽党枠は毎席のようにあるが最近、メンバーはほぼ「兼好・王楽・萬橘」で固定されている。
この3人は、それはもうしょっちゅう、末広亭に出ているわけだ。
遡って調べ、改めて驚いた。
自粛明け、私の出向いた6月中席にこそ顔付けされていなかったが、その後7月上、7月下、8月中、9月上、9月下と、この3人交互で5席連続顔付け中。
誤字のあった10月中席は兼好師がいないものの、円楽党の顔付け自体は続く。
この運用、どう考えても席亭の意向だろう。お盆興行にまで入れるのだから、よほど高い評価なのだと思われる。
円楽党の中でも、確かにこの3人の人気は高い。個人的には、若手の朝橘、好の助といった人も入っていて欲しいが。
もともと円楽党の噺家が寄席に出るにあたっては、芸協客員である円楽師の働きかけも大きかったようだ。末広亭や国立でも、円楽師を含めた円楽党交互というのもあった。
現在はそういうことではなく、この3人が客にも期待されているのだろう。

いっぽう、立川流枠は減っている。自粛明けは7月下席、9月上席だけである。
そしてこちら、ほぼ談之助師の独壇場。7月は志ら玉師と交互だったが。
談之助師は芸強入りを画策しているとか、ご本人の掲示板に書かれていたように思うが、本気のほどはよくわからない。
ただ談幸師と同じく寄席で修業をしているので、本当に加入するとして、障害はさしてない。
人気のほうは、ちょっとよくわからないけども。「立川流の中で人気が高いので呼ばれている」でないことは確かだ。
ともかく、円楽党は人気の筆頭が席亭の希望により顔付けされ、立川流はよくわからないが談之助師。
それが今の末広亭の不思議な状況である。

芸協と円楽党、一見、なかなか交流が活発に見える。
だが円楽党の両国寄席に芸協の噺家がどれだけ出ているかというと、決して多くもない。
この6人だけ。

  • 立川談幸
  • 三遊亭遊史郎
  • 桂枝太郎
  • 立川吉幸
  • 柳亭小痴楽
  • 立川幸之進

しかも半分が、芸協では外様の談幸一門。
これもよくわからない。出たい人なら、もっといそうに思うのだけど。
落語協会からの両国寄席メンバーは、実に21人。こちらのほうがずっと、両国寄席の主力メンバーとなっている。
昔はこん平師が「若竹」に出て、協会のほうで寄席出場停止処分を食らった時代もあったというのに、隔世の感がある。
しかも、円楽一門とかつて不俱戴天の仇であった円丈一門が多いのも面白い。

ファンとしては、もっといろいろ、団体の垣根を超えた寄席の番組を作って欲しいなと思うのであります。
各派交流の寄席というと、現行「しのばず寄席」があるぐらいだろうか。ただし落語協会は出ていない。

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カテゴリー: 寄席

作成者: でっち定吉

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