池袋演芸場23 その2(林家彦いち「という」)

コロナ対策で池袋、劇場の入口を開けっ放し。演者さんもこの前を横切るので、見切れてちょっと気になる。
あと、エレベーターを使う人も多いようで、そうすると見切れはしないがエレベーター音がいちいちする。いいけど。

柳家三語楼「道具屋」

続いて柳家三語楼師。寄席のつなぎでしっかり仕事をする得難い人。
いつもの、個人宅に呼ばれて一席やるマクラから、いろんな商売がありますと道具屋へ。
登場人物が与太郎でないので驚いた。落語よく聴く人ほど、与太郎だと思い込んだまま聴いてしまいそう。
人名は出なくて、キャラとしては鷺とりの主人公に近い。単純だが、与太郎ほど馬鹿ではないという人物。

あたし黙ってらんないんですよという主人公に、仕事を教えてくれる隣の道具屋が、「三朝か、なな子みたいだね」とさりげなく言っていた。さりげなさすぎて、池袋の客すらスルーしそう。まあ、そんなクスグリに三語楼師らしさを勝手に感じるのであった。
あと、道具屋の「木刀」を、踊りに使う模造刀と説明していたのを初めて聴いた。なるほどと思った。
長い木刀なんか抜くのおかしいものな。
「短刀(たんと)見せい」なんてクスグリがあるのを見てもわかる通り、刀はもともと長いわけはない。でも、ちゃんと考えたことがなかった。さりげなく丁寧な三語楼師。

青空一風・千風

青空一風・千風は、ボケの千風さんがコロナ禍でダイエットに励み、20kg痩せたんだって。言われてみればずいぶんスリム。
途中ツッコミに怒り、「リバウンドしてやる!」と叫んでいたのがやたら面白い。
以前も聴いた、牛肉の部位のネタだが、きちんとやらない。ずいぶん自由闊達な漫才になっていて、池袋にとても似合う。
ベテランのホームランみたいな自由さ。実に楽しい。
そして客のいじり方が巧みである。寄席漫才において、お客さんが反応してくれないことをいじるのは定番だが、やや危険でもある。
新宿だったら、「芸人に拒絶されそうだ」と危機感を勝手に覚えた客が前のめりになってくる(あるいは戸惑う)。だが、やらされ感によるしらけムードも漂ったりなんかして。
だが池袋の客は見事であり、芸人が表面的に期待する、やらされ拍手をあえてスルーする。実はそれこそ一風・千風の真の望みなのであった。
表面的でないほうの望みがかない、演者たちもだんだん楽しくなってくるみたいだ。
スベリウケとしても相当高度なワザが、高度な客と一体になって繰り広げられている。
かなりウデを上げているのがわかる。今後も、ニックスぐらいは寄席に入り、欠かせない顔になりそうだ。

林家彦いち「という」

古典中心の顔付けの中に放り込まれているのが林家彦いち師。池袋のレギュラーメンバーのひとり。
たまに師の話している、昔の池袋演芸場について。ぼくもここでデビューしましたと。語らないが改装前のほうだけど。
お客でよく来てましたが、当時のお客はぼくを含めて二人でした。だから紙切りのときは緊張したと。必ず出番が回ってくるのだから。
「熊殺し」とか「大山倍達」とか、先代正楽師匠に注文した覚えがありますと彦いち師。
「こっち側に来て」初高座で寿限無を語る彦いち師。客はひとりだけ。だって一人がこちらにまわったんだもの。
しかし喋っている最中に、そのなじみの客がトイレに行ってしまう。
そんなの経験しているから無観客なんて怖くないですと。

ふたりいる客のひとりが芸人になったので、客がひとりになるというネタは初めて聴いた。まあ、ウソだろうけど。
彦いち師、当然ここは新作。古典もやりたいだろうと思うが、池袋では席亭の期待に応えているのか、新作しか聴いたことがない。
実に不思議な新作。田舎に、娘を連れて帰省中の長女が、次女と話をしている。
他にも登場人物が出てきて話をし合うのだが、実はすべてウソ話。最後に「・・・というのはどう?」。
ウソ話が繰り返されるから、どんな話をされても最後はウソなのだということはわかっているのだけど、実に巧みな構成と話術。
彦いち師の語り、この先どうなるのだろうと本当に引き込まれる。実はウソ、とかそんなことは関係ないのだ。その話自体の行く末が気になる。
そしてこの一連のウソ話、最初から整合性が不要なのだ。自由に想像力を羽ばたかせることができる。
でも本当に支離滅裂になると成り立たない、絶妙なほどの良さが求められる。
なぜ人は落語を聴くか。それに対する回答が詰まっている絶品。あるいは、噺家はなぜ落語を語るか、でもいい。

後で演題調べたら「という」だった。タイトルだけ目にしたことがあったかなという噺。
いい噺が聴けてよかった。
ちなみに新作派でも、こういう人ののめり込む語り、できない人もいるなと今さらながら思う。
古典派で、客をのめり込ませるウデのある人に、この噺を語ってもらいたいなと思った。
柳亭こみち師とか、春風亭一花さんとか、女流もいいなと。

続きます。

 

作成者: でっち定吉

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