木梨憲武大暴走(NHK・林家正蔵の演芸図鑑)

NHK、日曜早朝の演芸図鑑は現在、林家正蔵師がホスト。
対談コーナーは、木梨憲武。
とんねるずの番組が終わって以来、ちょっとぶっ飛んでいるらしいこの人が、早朝番組でもって暴走していた。
クスリやってるのか? いや本当に。
キ○ガイのたわごとだと放置しておくのがいちばんいいのだが、わけのわからないトークの中で、落語界・演芸界に対して失礼なことを口走っていたのがやや気に障ったので。

暴走を楽しんだわけではない。といって、暴走ぶりをまっとうな視点から批判するのでもない。
ただ私の目に映った、一人のTVタレントの暴走ぶりを、記録として書き記しておくことにする。

対談は2週続けて放映。
1週目の前半までは、アートの話が中心であった。
みんなと一緒にアートを作り上げていくのが楽しいと、ここではまだ、普通のことを言っていた。
この話を、そのまま落語にスライドさせるのなら、別にいいのだけど。
落語についてはみんなと一緒に作り上げる発想はないらしい。

その後はほとんど、なにを語ってるのかさっぱりわからない。マシンガンたわごとトーク。
木梨がアーティストとして本当に認められているのなら、あるいは「天才は違うね」と、勘違いした人に言ってもらえるかもしれない。でも、そこまで達している人じゃないと思うのだが。
単に頭のネジの外れた若作りのおじさんが、放送事故レベルのクダを巻いている。
落語は上手いことよりも、どういう伝えるかだ、歌と同じと語る。

鶴瓶師主催の、なにか即興落語の大会みたいなものがあったのか?
落語みたいなものを披露して、鶴瓶師に褒められたと語っているのだが、どういう場所でどういうポジションで、誰と戦ってどうだったのかさっぱりわからない。

その際に語った即興噺を再現してみせる木梨。
かなりイカれたトークが好きな人なら、ひょっとして喜ぶかもしれない。
全盛期の楳図かずお先生なんかが好きな人なら。
ただ、その即興で語った噺とやらの中身は、支離滅裂。

穏やかで、聞き役に徹している正蔵師だが、さすがに「なにがおっしゃりたいのでしょうか」と訊き返している。
木梨のテーマは「伝える」ことにあるらしいのだが、まず聞き手に対して外形的にすら伝わってないじゃないか。

2週目はさらに爆走。
こんなあつまかましいことを、プロの噺家に語る木梨。

  • 正蔵師匠に弟子入りして落語をやりたい
  • 正座して好きなことをしゃべるようなスタイルのものをやっていきたい
  • あんまり修業とかしたくない。すぐデビューしたい。場だけ欲しい。
  • 正蔵師にマニュアルみたいなものを教わる時間がもったいない
  • 練習してくるので、直さないで欲しい(味が殺されるから)
  • 演芸図鑑の、演芸枠7分をくれ(NHKに口をきいてくれ)
  • 林家のり平としてデビューしたい
  • プロデューサーに言ってもごまかされるのが関の山

1週目と2週目の間の、カットされた部分で、いったん「これから修業をしていきたい」と語ったらしいのだ。
さすがに矛盾がひどいので、正蔵師に突っ込まれている。

落語をやりたがる芸能人は多い。
弟子入り(もちろん、形だけである。修業なんてするわけじゃない)して、ふざけた名前をもらって一席演じる。
そして満足する。
名作「寝床」の構造がここにある。
それでも形だけとはいえ、一応プロのスタイルをまねてみるということは、どの芸能人にも共通する。
他の世界に対するリスペクトから来るものだ。
だが、自分で好きなようにやるから直さないでくれなんてヤツは初めて見た。
それは、弟子ではない。弟子入りとも言わない。
まあ、無知だから言えるのである。木梨、一貫して「練習」と発言する。
正蔵師のほうはずっと「稽古」と言っているのに、一切聴いてやしない。
そして、落語の弟子は師匠からマニュアルをもらってマスターするのだと思い込んでいる。
芸能界にいて、ここまで落語に無知な人も珍しい。

落語を知らない素人だったら、木梨ぐらいの人ならいきなり見事な落語ができると思う人もいるだろう。
そして、実際に聴いてもそう思うだろう。落語を知らないから平気でそんなコメントが出せるのだが。
しかし、落語の上手いタレントもいる中で、木梨が見事な落語を魅せるという可能性は、ほぼゼロである。
それはこのトークにすべて表れている。
私は何も、「落語を甘く見るな」と、そんな立場に立脚してコメントしているわけじゃない。
甘く見るも見ないもない。
ごく単純な道理として、「落語みたいなもの」で木梨がウケることはないだろう。

このトークでも、ハイヒール・リンゴと漫才コンビを組むのだと話していたが、落語だけでなく漫才も舐めている。
正蔵師でなくて、志らくに頼んだほうがいい。感性が近そうだし。
志らくは落語界に喧嘩を売るため、「たけしのほうが落語が上手い」と一時期吹聴していた。
もっともたけしは愉快でなかったようで、その後志らくのことを、「着物を着て朝の番組やってる了見がダメだ」と否定していたが。
芸能界に確固たる居場所の欲しい志らくなら、「さすがとんねるずで一世風靡した木梨さん。談志の追求したイリュージョンが備わっている」なんてヨイショするかもしれない。
ホントに言いそうだが。

穏やかな正蔵師だが、「自分で番組持ったほうがいいんじゃないですか」と、演芸枠に木梨を上げることはやんわり断っていた。
当たり前だ。

続編:木梨憲武大暴走おかわり

 

作成者: でっち定吉

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