仕事も一段落した、というか、月末に仕事を用意していたのに、行き違いで作業に掛かれない。
先方にファイルを送って欲しいのに、メールが未読のままだ。困ったクライアント。
まあ日頃こんなことがあったら困るのだが。この日は昼から楽しい落語が目白押し。これ幸いと出かけることにする。
どこに行くかだ。
27日は第4火曜。この日はらくごカフェで柳家花緑弟子の会がある。
さらにだいたいこの日の同時間帯に、三遊亭遊馬師のお昼のツキイチ落語会もある。
亀戸梅屋敷寄席では、三遊亭兼好師の主任。
お江戸日本橋亭ではお江戸寄席。主任は好楽師。
少々悩んだのだが、わりとあっさりとらくごカフェに決める。真打決定の柳家緑君さんを聴きにいこう。
毎月やってる柳家花緑弟子の会はお旦のおかげで500円。いつもありがとうございます。
そばの殿様 | 圭花 |
新聞記事 | 花飛 |
(仲入り) | |
死神 | 緑君 |
緑君さんだけでなく、この日のメンバー、花飛、圭花の二人も好きだ。期待大。
しかしつ離れしていない。
あまり少ない席の模様を書くのはなあ。絶対特定される。
柳家圭花「そばの殿様」
坊主頭の圭花さんがトップバッター。30分の長講。
半沢直樹が終わっちゃってつまらないですとのこと。
同じくTBSでヒットした「私の家政夫ナギサさん」の大森南朋が、かわいいおじさん・おじ萌えとして話題になっていると。
落語界にもかわいいおじさんがいます。台所おさんとか、さん光とか。
なにしろ柳家さん光さんは、前座名がおじさんだからな。
私はかわいいおじさんになってちやほやはされないと思いますが、かわいいおじさんを隣で見ていたいのだと。
これ、なんと本編のフリだったみたい。つまりかわいい殿様である。
この後、殿さま小噺を続けて振る。ああ、そんなにあったっけかという印象。
こんなの。
- 町人の立ち話から米の価格を知る殿さま
- 米の焚き方を披露する殿さま
- 下肥を掛けてまいれ
- 屋敷のハトに聞かれたらいけない
- して星めらは
さて。こういう小噺はなんの噺に振るか。ごく普通には目黒のさんまである。季節的にもぴったり。
珍品ばっかりやってる圭花さんが、落語を知らない人でも知ってる目黒のさんま?
でも、目黒のさんまに隠れてめったに出ない珍品もあるよななどと思いながら、力の入らない、軽い殿さま小噺を聴く。
目黒のさんまだと、ほぼ「桜鯛」が入るものだ。
三太夫さんが鯛を裏返すやつね。だが、これだけはあえてだろう、振らない。
続けて天眼鏡の小噺へ。これはもう、すでに「そばの殿様」の本編である。
やはり圭花さんには、珍品にこだわるプライドがあるらしい。
目黒のさんまもいいけども、珍品が聴けて嬉しい。
趣味で蕎麦打ちを始めるが、でたらめな殿さま。
適当にこねて延ばしたそばを家臣に振る舞うが、食わされたほうは揃いも揃って腹を壊す。
目黒のさんまの殿さまとは違い、ハタ迷惑な殿さま。
だがこの殿さま、妙にかわいいのである。大森南朋ほどかどうかはともかく。
ひどいのに、まったくもって憎めない。なにも「家臣をねぎらおう」という気持ちがそうさせているわけでなく、まったく悪気のない天真爛漫なそのさまが。
この噺、パワハラの噺と感じる客がいて、まったく不思議でない。だが圭花さんの描き方は実にのんびりとしている。
最近、高座から「画が見える」技術に注目して噺を聴くことがある。
圭花さんの高座からも画が見えた。殿さまがたすき掛けでそばを打つシーンである。
客がイメージできる姿を言葉で示しておくと、その後勝手にドーンと画が浮かぶ。
いい気になってそばを打つ殿さまを、居並ぶ家臣たちが見守っているその画は、かなりおかしい。
そばの殿様、目黒のさんまの10分の1の頻度ででも掛かったら楽しいのにと思うのだが、クスグリがツきやすい欠点があるようだ。
一晩厠にこもっていたくだりは「茶の湯」だし、そばを食わされ過ぎて下が向けないのは「そば清」である。
そして殿さまの打ったそば、ちっとも食欲をそそらない。
そばの殿様を出すことで、食欲をそそる時そばもそば清も、あときっと二番煎じもふぐ鍋も出せなくなってしまう。
そう考えると寄席ではやりづらい。だがこの短い会には最適だ。
珍品王柳家圭花、珍品で終わらないところがすばらしい。
この人から過去聴いた噺は「浮世根問」「夏の医者」「位牌屋」である。
さらに「高田馬場」とか「樟脳玉」とか持ってるらしいからすごいね。
トリの緑君さんも、死神のフリで「圭花は珍品の神さまだ」ってネタにしてた。
なんで珍品が珍品でいると思いますか。やっても面白くないからですよと。
なのに実に楽しい一席でした。