早朝寄席3(柳家花ん謝「中村仲蔵」)

また鈴本の早朝寄席に行ってきました。
行きたい寄席や落語会、無数にあるのだけど、先月私にしてはお値段高めの圓楽一門会に出向いたので若干我慢しています。
でも、500円の早朝寄席ならばいい。電車賃入れてもお札1枚もいらない。
そしてまた、昨日12月3日の早朝寄席はすばらしい内容でした。

小かじ / あくび指南 / 師匠は柳家三三
扇兵衛 / 狸の札束  / 師匠は林家木久扇
花ん謝 / 中村仲蔵  / 師匠は柳家花緑
朝之助 / 寄合酒   / 師匠は春風亭一朝

メンバーは二ツ目さん。師匠も載せてみました。初めて聴く人はいない。

柳家小かじ「あくび指南」

開口一番、小かじさんは昨年の二ツ目昇進。
面白い顔でも男前でもないが、とにかく印象に残る面構え。
当ブログにはなにも書いていないが、前回聴いたときのいい印象は残っている。
マクラも楽しい。
後輩に、「お前ね、高座で自分の趣味の噺なんかしちゃいけないんだよ。やる噺に関係のあるマクラを振らなきゃ」と説教した後で寄席に行ったら、喬太郎師がウルトラマンのマクラを振っていたと。しかもそこから「転失気」。
さらに、貴乃花親方のファッションセンスのネタで笑わせる。
足腰の強い芸の印象。キャリアが浅いのに立派である。やたら前には出ていかないものの、客のほうから拾いにくる芸。
先に技術がしっかり身に着いている。後からフラみたいなものが出てきたら、すごい噺家になるんじゃないだろうか。

そこから「あくび指南」。最近よく聴く気がするが、気のせいかもしれない。小ゑん師匠の「鉄指南」の印象が残っているのかも。
一般的なあくび指南では、女の師匠が教えてくれると思って稽古に行ったところに男の師匠が出てくる。マクラに「炬燵の下で男同士手を握り合っていた」を振っているとなおさらなのだが、噺の流れがスムーズでない気がしてならない。
だいたいは、男の師匠を見てやる気の失せる八五郎(だろう、たぶん。小かじさんも八っつぁんでやっていた)が、師匠の稽古を見て俄然やる気を出す。「俺がやりたかったのはこれだ、兄貴」と。
でも、なにやっても長続きしない八っつぁんが、どうして男の師匠なのにやる気を出すのか、そういう世界なんだろうけどピンと来ない。
黒門亭で聴いた柳亭小燕枝師のあくび指南は、看板夫人が最初から出ないので非常に納得のいくものだった。それ以外はどうも。
だが、小かじさん、この噺にひと味違う工夫を加える。
むしろ、八五郎の下心を、エピソードを加えてこれでもかと煽るのである。そんな八っつぁん、男の師匠が出てきて当然がっくり。そして、そのがっくりしたテンションのままエンディングまで続くのである。
吉原の花魁のセリフを勝手に加えて楽しむシーンはあるが、でも「男の師匠だったら帰る」と言い出せなくて仕方なく稽古している感じなのだ。
非常に上手い作り。

今、一番面白い「あくび指南」を掛けるのは春風亭一之輔師だと思う。吉原の花魁のセリフを勝手に加える八五郎、師匠にそれはなんだと訊かれ、「くふう」。ひらがなで「くふう」と喋っている感じがよく出ている。
古典落語をする二ツ目さん、一之輔師の影響をどっぷり受けてしまっている人もよく見る。その中で、小かじさんはその方法論とは全く違う「あくび指南」を作り上げている。
小かじさん、花魁のセリフをあくびの師匠になんだと問われると、「教わった通り」。これまた爆笑。
噺の作り方だけとっていえば、一之輔師にだって負けてないと思った。
しょっぱなからいいスタート。

林家扇兵衛「狸の札束」

次が巨体の扇兵衛さん。今日の顔付けで期待するひとり。この人も、2年前に二ツ目昇進で、まだキャリア浅い。
だが、黒門亭で見ると生き生きしているのに、広い鈴本ではなんだかこちらの調子が狂う感じだ。
先日の池袋「東京デブサミット」の話。末広亭では火鉢が入っている中、巨体の集まる池袋の楽屋では冷房が入っていたそうだ。
それから新春「北とぴあ」での落語会の宣伝。扇兵衛さんの会は100人のホールだが、同じ日に北とぴあの400人入るホールで落語がある。そちらはだいたい毎年1月1週目にやっていたので、扇兵衛さんのほうでその日程を避けたら、来年に限ってカブってしまったと。
調べたら、「ほくとぴあ亭特別編 人気者集合!新春落語2018」というのらしい。
そちらのメンバーが、こんなの。
鈴々舎馬るこ / 瀧川鯉八 / 一龍斎貞鏡(講談) / 春風亭柳若 / 春風亭昇也 / 丸一小助・小時(太神楽)

扇兵衛さんのほうは、「新春扇兵衛寄席」。
林家扇兵衛(たっぷり二席)/ 春風亭一猿(開口一番)/ ゲスト・柳家小はぜ / 鏡味仙成(江戸大神楽曲芸)

うん、同じ日にこれは厳しい。
当日1,800円だが、受付で扇兵衛さんの名前出したら前売料金1,500円で入れてくれるらしいです。
まあ、昼席だし私も覚えときますよ。1月は、料金の高い初席・二之席には気が進まないので、出かけるところが少ないのです。
2018年1月13日(土)である。

あらかじめ、動物の噺で、自虐ネタの改作ですと断る。彦いち師を始め新作もよくやる木久扇一門だから、別に不思議はない。
「たぬき」を始めた。
・・・改作の必要性のよくわからない「たぬき」であった。帰りに演題書かれたボードを見ると、「狸の札束」というらしい。
たぬき(狸札、狸賽、まれに狸の鯉、レアもので狸の釜)はもともととても楽しい噺である。
「たぬきの八畳敷(子供だから四畳半)」とか「札のノミ取りしたのは初めてだ」とか「二の目が横に並んでちゃいけねえ」とか、楽しいクスグリの宝庫。
「狸寝入り」「お札が生あったかい」「目が廻る」などのクスグリは扇兵衛さんもそのまま使っていたけど。
改作が、本来の噺の楽しさに適わないなら、やる意味ないのでは? お札が札束になっても、サゲも一緒だし。
ちょっと残念だった。あと扇兵衛さんの噺、毎回どこかで客がフッとダレる瞬間がある気がする。
まあ、明るい高座だし、決して客席をいたたまれなくはしない人なので、期待しているのですが。

柳家花ん謝「中村仲蔵」

下手から退場する扇兵衛さんがメクリを取り替える。代演でもあるのかと思った。まさか。
代演ではなく、来秋の真打昇進が決まっている柳家花ん謝(かんしゃ)さんの名前が、取り替えられたメクリに出ている。
花ん謝さん登場して、「えー、朝之助さんが来ていません。(場内爆笑)。とりあえず私がたっぷりやって朝之助さんを待ちます。まあ、間に合うでしょう」
で、その「たっぷり」がなんと「中村仲蔵」。
早朝寄席で掛かるような演目じゃない。遅刻の朝之助さんに感謝しなければならない。
早朝寄席の出演順は、ジャンケンで決まったりもするようだが、この日は二ツ目二年目から真打昇進予定者までキャリアがバラバラ。当初定めた出演順は、恐らく香盤順だったのだろう。花ん謝さんはトリだったみたい。
花ん謝さん、役者顔だし芝居噺はぴったり。見得もしっかり切れる。
時間があるので、仲蔵の名題昇進前日譚である、舞台での絶句と、その見事なリカバリーの顛末から。もしかしたら、この部分をカットした仲蔵をトリで出す予定だったのかもしれないが。

本来笑いどころの少ないこの噺を楽しく語るため、地噺のように演者自身のギャグを挟みながら進める。
このギャグが、非常にほどがよろしい。
笑いどころが少ないとしても、たくさん必要な噺ではない。爆笑地噺にしてしまっては元も子もないので、テンションを上げることなくさらっとギャグを繰り出す。
芝居の世界と、噺家の世界を対比させたほどのいいギャグに、客が勝手に笑う。人情噺の世界が壊れることはない。
仲蔵が定九郎のヒントとする、蕎麦屋に駆け込むお侍が非常にいい。シャレの分かる人で、去り方も非常に粋。
サゲも工夫している。師匠宅で、師匠が感激するやり取りで終わらず、仲蔵は再度自宅に戻る。
安心したおかみさんが「あたしお腹空いちゃった」。「俺を見て腹がすくとは、家ではまだ弁当幕だ」。

前回来た早朝寄席での「花飛」「緑君」に続き、花緑一門の噺家さんの見事な芸にしびれた。
二ツ目さん、寄席では交代でひとり出てくるだけ。
チームプレイが重要な寄席では、二ツ目があまり目立ったことはできない。目立ったら実際、壊れてしまうし。
寄席に溶け込む腕ももちろん大変大事。その、溶け込んでる様子を見て二ツ目さんの腕を判断するが、それが間違っているとは思わない。
だが本来の姿は、早朝寄席のような、二ツ目しか出ない場所でいかんなく発揮されるようだ。
帰る際、男性の二人連れが、「いやー、二ツ目さんだなんて思えないねえ―。上手いねえ―」と話し合っていたのが「中村仲蔵」のワンシーンみたいで面白かった。

忠臣蔵観たいなあ。

春風亭朝之助「寄合酒」

遅刻してトリを取ることになった朝之助さん。青い着物で登場。
「ただいま到着しました」。これでつかみを取るという反則でスタート。
噺家さんは夜が遅い人種なので、10時スタートの早朝寄席は文字通り早朝であろう。遅刻はいけませんが。
「花ん謝アニさんの見事な噺で終わってもいいんですが、せっかくですから軽いのをひとつ」と、マクラなしで「寄合酒」に。
時間計っていたわけではないけど、つまみを持ってくるのが与太郎まで4人だから8分程度か。人情噺のあとの軽いトリも悪くない。
しかしいきなりちょっとびっくり。こんなに上手い人だったか?
3月に雲助師の会で「だくだく」を聴いたときの自分のブログを見ると、「今現在の姿が格別に目立つというほどでもないけど、きっと上手くなりそう」と書いている。
いやいや。声が大きく、よく通って迫力がある。
今現在の姿、めちゃくちゃ目立つではないか。9か月で上達したのか?
そういうこともあるかもしれないが、やはり早朝寄席のような場でこそ、真価を発揮する二ツ目さんがいるということだろう。雲助師の会で派手にやるわけにもいかないし。

噺自体に格別の工夫があったわけでもないけど、軽い「寄合酒」を軽く楽しく演じる朝之助さん。
与太郎が「道で拾って」持ってきた味噌を検分するのが最大のウケどころ。ここも、汚らしくはなく爆笑を持っていく。
一か所だけ気になったのが、検分する前に与太郎のことを「こいつは味噌もくそも一緒だな」とつぶやくシーン。
こういうやり方はあったと思うが、このセリフ必要かね? 「くそ」という言葉を使わず、みんなが想像するところがミソなのではなかろうか。
まあ、それでも早朝寄席のいい締め方だった。
満足したというより、もう感激して帰りの電車に乗りましたよ。

ちなみに「朝之助 だくだく」検索での、当ブログお越しが結構ある。大したこと書いてなくてすみません。
今、イキのいい噺家さんが次々出てくる一門といえば、「一朝」「さん喬」「好楽」「花緑」「昇太」ですね。それから「鯉昇」。
ひとりいい人が出てくると、次々続く。

作成者: でっち定吉

落語好きのライターです。 ご連絡の際は、ツイッターからメッセージをお願いいたします。 https://twitter.com/detchi_sada 落語関係の仕事もお受けします。