放送同日に聴いた落語会のネタを続けており、毎年ネタにしているNHK新人落語大賞、出すのが遅くなりました。
ちなみに、録画を視たのも放送翌日と翌々日、2日に分けてで遅かった。
事前の情報は知りたくないものだけど、笑福亭羽光さんが優勝したのは早々に報道されていた。
本選出場自体が近年途絶えていた芸術協会もおめでとうございます。
来春の真打が決まっている羽光さんには最後のチャンス。優勝しそうなイメージだとは思ったが。
今年は審査員と同じように、10点満点で採点してみた。
M-1と違い、全部見てから多少修正ができる。
私の採点と結果。
演者(登場順) | 丁稚定吉 | 総合結果 |
柳亭市弥 | 10点 | 44点 |
入船亭小辰 | 9点 | 48点 |
桂二葉 | 9点 | 41点 |
笑福亭羽光 | 10点 | 49点 |
春風亭ぴっかり☆ | 8点 | 46点 |
露の紫 | 9点 | 44点 |
総合評価とはもちろん違う。
でも人さまに見せて、まあ恥ずかしくない採点とは思う。
私にとってはやはり、M-1よりは落語のほうがずっと評価はしやすい。
なぜぴっかりさんが最低点なのかって? そんなに悪意はないのだけど。
これは明後日に触れます。
笑福亭羽光「ペラペラ王国」
優勝した羽光さんの新作「ペラペラ王国」は、優勝を知ったうえで聴いているわけだが、評判にたがわず素晴らしいものだった。
爆笑しました。落語は笑いの大きさで優勝が決まるような性質のものじゃないとはいえ、この爆笑には誰もかなわない。
この大会、比較的新作が強いけども、新作が有利とかいうわけではない。結局、いい落語だったのだ。
事前のメンバーを見たときに、なんで東4人、西2人なんだろうと思ったが、羽光さんは西の予選にエントリーしたのですね。理由は知らないが。
ペラペラ王国は、作り込んだメタ落語。
劇中の「ペラペラザウルス」の正体は、「牛の首」伝説のごとく最後まで明らかにされない。登場人物たちが気にするほど重要ではないところがミソ。
ややこしい設定なのに、噺の中でもってややこしさをさりげなく解説し、登場人物に世界の構造を嘆息させてみせるテクでもって、誰にでもすんなり聴かせる。
これは東京の新作落語でよく見る手法。世界の構築に疑問を抱かせることで、逆に整合性を気にならなくしてしまうのだ。
この噺を聴いてすっかり嬉しくなってしまった。いろいろなところにルーツが見出だせるなと。
円丈師以降なんでもありになった東京の新作落語に強いルーツを感じるいっぽう、文枝師をはじめとする上方新作にもつながるなと思ったのだ。
審査員の文珍師の新作にも遡れる。もちろん文珍師は羽光さんの世界観が好きだろう。
上方新作のルーツというのは、上方言葉を使ってるなんて皮相な部分ではなくて、「落語の会話とはどうあるべきか」といった根源的な要素まで遡れると思うのである。
東西を股に掛けるハイブリッド新作である。
今回、見台・膝隠しと小拍子を使っていたのは羽光さんだけだったが、使い方も見事。上方の古典の伝統もちゃんと入っているのである。
ちなみに主人公のおじいちゃんの姓は「中村」。羽光さんの本名。
羽光さんは、「成金」の中で格別に目立っていたほうではないと思う。私も生で高座を聴いたことがない。
ミッドナイト寄席あたりでしか聴いたことがないが、その際に感心した覚えもなかった。
しかし、最後に派手な戴冠。
この「ペラペラ王国」、メタだと評しているが、本当は、真のメタ構造が出てくるのは最後だけ。
おじいちゃんにお話を聞かせてもらってる坊や自体が、実は落語の登場人物なんだという部分だけが真のメタ。
そこまでは実はおじいちゃんの昔話を、時系列を作り上げて並べているだけであり、噺の中で一元的に成り立つ構造。
それも上手いなあと。メタっぽい構造でメタ感を打ち出しておいて、真のメタ構造に違和感なく連れていくのである。
ところで、この落語を激賞するのなら、2年前に同賞を獲った桂三度さんについても触れないわけにいかない気がする。実際、二人に共通点を感じたファンだってたくさんいるはず。
羽光さんには感激し、似たような領域を攻めている桂三度さんにはまったく惹かれない私。それは矛盾かもしれない。
小拍子の使い方だってほぼ一緒なのに。
どこに違いがあるのか。羽光さんには、先人から脈々と受け継がれた「落語」を強く感じるわけである。
落語に対する畏怖がある。
他方三度さんは、落語を自分のお笑いの手段に利用しようとして、結局落語の世界から抜け出せない孫悟空に見える。
違いなんて、実はそこだけかもしれない。
ところで最近ひとつ、鯉八昇進披露に絡み、しくじった。
「お笑いのフィールドで闘えるすごい落語を作れる人は、転身組の中には実はひとりもいない」
と書いたのだが、羽光さんも芸人からの転身組だ。
整合性のないことを書いてしまったな。少なくともここにひとりいたし、書いた時点では優勝を知っていたのだから。