NHK新人落語大賞、実にハイレベルであり、他の出場者にも感激しました。
ずっこける人などいなかった。
冒頭から一人ずつ見ていきます。
画面に映る客席は、ソーシャルディスタンス確保でガラガラ。私も観覧申し込んだのだが、落ちた。
柳亭市弥「あくび指南」
トップバッターは柳亭市弥さん。
3年連続本選出場で立派なのだが、悪いがそこまで高い評価をしてはこなかった。
昨年は1点差の2位だったが、それでも感想は同様。
だが今回の「あくび指南」は素晴らしいものだった。スコアのほうは優勝した羽光さんに5点差を付けられているので、客観的評価ではどうあがいても逆転不能な数字。
だが、私は羽光さんと同じ10点です。
今まで聴いた市弥落語の最高傑作だと思った。
どこがいいか。というより、悪いところが見当たらない。
この人に対する評価がガラっと変わった。感激を禁じ得ない。
オンエア当日、出かけた先の「くろい足袋の会」でもたまたま、台所おさん師が「あくび指南」を掛けていた。
おさん師も市弥さんも柳家だが、中身は大きく違う。
看板夫人が出ない、おさんタイプのほうが私は好き。笑いは抑えめになるが噺のスムーズさが格段に違う。
だが看板夫人を据えている市弥さんのあくび指南も、非常につながりがスムーズだった。
女の師匠に教われると思っていた八っつぁん、わけのわからない男師匠が出てきてがっくりするのがウケどころ。そして、これによってその後の展開が大きく左右されてしまうのも必然。
だが市弥さん、ウケはしっかり回収しておきながら、看板夫人なしバージョンのようにスっと進む。
ふたつのバージョンのいいとこ取り。いいねえ、軽いからこういうワザが使えるのだ。
「なんでがっくりしてるのに、普通に稽古してるの?」という疑問を解消できず、立ち止まってしまう人が多い。
そして市弥さんの描くあくびの師匠、かつて見たことのない造形。キャラ落語になっている。
実に魅力的な師匠の造形。キャラが強いが、ツッコミは穏やか。
想像だが、市弥さん自身は間に会っていない彦六の先代正蔵と、紙切りの正楽師(当代)を混ぜてこしらえたのではないかと。
声の震えは彦六から、喋り方は正楽師から来てる気がする。
そして師匠、八っつぁんの悪いところを引用する際に、急に普通の声になってしまう。ツッコミが入らないが爆笑。
審査員において無難な評価にとどまった点は、よくわからない。トップバッターのためか。
入船亭小辰「替り目」
2番手は入船亭小辰さんで、替り目。下唇突き出しバージョン。
「入船亭小辰 替り目」で検索すると、現在私の記事が1ページ目に表示される。なのに今回、流入はなかったな。
これは池袋で聴いて感激した演目だ。自信のネタらしい。
さすがのウデだが、市弥さんがあまりにもよかったため、必然的に9点とする。
明白に1か所だけいただけないのが、おかみさんの言葉遣い「大根と卵とこんにゃくでよろしかったですか」。この減点もある。
落語で「よろしかったですか」はないよ。若手から聴いた「ちげーよ」と同様。
私はなにも、「日本語の乱れ」を必要以上にやかましく言いたいのではない。
落語以外のシーンだったら、言葉は乱れてなどいないと思うことがむしろ多い。それでも、落語には落語のことばがあると思うのだ。
余談だが、羽光さんの噺に出てきたワード「原住民」もやや気になったのだけど。ただの言葉狩りになるといけないので気にしないようにしている。
権太楼師が小辰さんの暗さを指摘していた。アゴを上げれば直るよという具体的なアドバイス付きではある。
でも私は、暗さ自体は気にならないな。
暗めのトーンで演じられる爆笑落語もたびたび耳にする。そして、本人のニンに合っていれば、それが好きだったりもする。
全体の暗さにより、登場人物がちょっと跳ねただけで大爆笑ということはままある。
もちろん権太楼師の落語は暗かったら話にならないだろうが、スタイルはさまざまだ。
かつての権太楼師と三遊亭遊雀師との師弟対立がここにチラッと窺えたりして。遊雀師も暗さをうまく使う人だし。
それでも確かに、小辰さんに関していうのなら、優勝したければ明るくやったほうがいいかもしれないですね。
ご本人からすると、師匠・扇辰の呼吸を目指した結果なのではないかと思う。でも師匠は語尾が明るいから。
明日は女流3人を。続きます。