2020NHK新人落語大賞(下・露の紫「手向け茶屋」)

佐々木裁き/米揚げ笊/狸の賽

今日は女流3人を。
初の女性の戴冠にならず残念でした。でも、みなさんレベル高くてすばらしい。

桂二葉「佐々木裁き」

桂二葉(によう)さんはラジオでも聴いたことなくまったく初めて。
演目は「佐々木裁き」。東京では佐々木政談という。
点数は伸びなかったが、私はもう、ものすごく好きです。
私の採点は9点なのだが、9.5点としたいぐらい好きだ。

子供の描写がすばらしい。
落語というもの、子供が劇中において芝居の真似事をしたりすることがある(例:蔵丁稚)が、その際には「子供の芝居」ではなく、本格的にやるのが常道とされる。
だが、中には芝居噺において、子供が演じている芝居であることを強調して演じる人もたまにいる。
二葉さんの演じる楽しい子供たちのごっこ遊び、徹底して子供のそれであることを強調している。珍しいスタイルなのだが、しびれましたぜ。
しかも、奉行(主人公のシロちゃん)、原告、被告の個性をすべて描き分ける。
そしてお白洲に呼び出されたシロちゃん、奉行に五分の口を利くが、客から見て嫌味な子供だという気配がみじんもない。これ、すごいよ。
まんが日本昔ばなしを思い出す。二葉さんが市原悦子だというのではない。
登場人物の劇中演技がみな上手いのだが、なり切るのではなく、どこまで行っても演者が残るという、独特のスタイル。やはり昔ばなし。
ただ、嫌いな人はこういう点嫌いだろう。

審査員の國村隼が、「大人の造形がよくない」とコメントしていたが、私はまったくそうは思わない。子供が痛快なのだから、それでいいじゃないですか。

春風亭ぴっかり「権助提灯」

優勝した「ペラペラ王国」を挟んでぴっかり☆さん。
かなりウケた羽光さんの後でやりづらかったんじゃないだろうか。
新作を出すつもりだったのをやめて古典に切り替えたんじゃないかと一瞬思った。だが、番組映像をよく見ると袖に演題も出ているので、そういうわけにはいかないようだ。
まあ、確かに、急に持ってきた演目でツいたりしたら不公平だものな。

ぴっかりさんの落語にしては、なんだかトーンが低いなと。
小辰さんについて述べた通り、トーンが低い落語もニンに合ったスタイルならいいのだが、彼女のスタイルからは違和感あり。
もちろん、これから先も長い噺家人生、いろいろなスタイルが必要だとも思う。
林家つる子さんなんて、10年経ったら本格派になってることを、私は勝手に想像してるぐらいで。
さてぴっかりさんの高座、もう1回観て思った。いきなり冒頭に権助を持ってきたら、最高の「権助提灯」ができたんじゃないかと。
弾む権助と、演者をスライドさせたブリッコの妾に焦点を当ててしまえばかなり楽しいのではないか。
本妻の最初のシーン、省略できるんじゃないかと思う。
もちろん落語、地味なシーンを我慢しないと進めないことぐらいわかっているさ。
プロにアドバイスする資格があるとは思ってない。でも、勝手に構成を組み替えた前提でもう一度観てみると、ものすごくいい。ぴっかりさんの魅力爆発になる。
優勝とまではいわないけど9点になる。嘘だと思った方、一度そうやって聴いてみてくださいな。

二葉さんに手厳しかった國村準は、ぴっかりさんの現代性を褒めていた。このコメント聴く限り、鑑賞力の高い人なのはよくわかる。

露の紫「手向け茶屋」

露の紫さんは手向け茶屋。上方ではかなり珍しいんじゃないか。
東京の「お見立て」を徹底的に研究して作り上げたのだと思う。
「てこづる」姐さんはもちろん「手こずる」から来ている。東京では喜瀬川花魁。
3回目の出場だが、どんどん上手くなっている紫さん。
この人の噺を、末広亭あたりで聴きたいなとしみじみ思った。東京にも、彼女を呼びたい人はたくさんいるはず。
ただ、文珍師も引用していたパワーワード「知らんけど」を除くと、笑いはそれほどでもなかったですね。
昨年の紫さんの新作落語は、私の中では優勝。そうしたのも知っているだけに、笑いも欲しい。
私は笑いの大きさで優勝を決めるべきなんて思っていない。上手い人は、上手いというだけで十分聴きたくなる。
でも新作で強烈な笑いをかっさらっていた人が同じ大会にいた今回は、ちょっと厳しいかな。
というより、紫さん、ひとり新人大賞のレベルを突き抜けてしまったんじゃないでしょうか。
女流が年齢を重ねていく際のモデルとしても期待したいものです。

 

昨年の同大会では、全般的にあまり書くことがなかった。つまらなかったのではない。
だが今年は、ケチを付けるシーンなどほぼないのに、3日間の記事ができた。
それだけ充実した大会だったということだと思う。

それにしても、ユニット成金は解散してもなおたくましい。
この流れで、来年成金メンバーの二ツ目から、春風亭柳若さんが出てきそうな気がしてならない。昇也さんでもいいけど。
新ユニットの芸協カデンツァも負けずにがんばってください。桂竹千代さんなどチラと映っていたのだが、期待しています。
もちろん落語協会、上方、女流、みな期待していますが。

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作成者: でっち定吉

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2件のコメント

  1. 更新ご苦労さまです

    昨今の女性の落語家さんの躍進は素晴らしいですよね。そのことに関して春風亭正太郎さんがTwitterで「NHK新人落語大賞の審査員に女性の審査員も加えてもいいのではないか」といった旨のツイートをされていましたね。確かに女性だからこそ気づくこともあるだろうなと個人的には共感しました。

    そして女性審査員の候補として具体的には新作落語作家のくまざわあかね先生が良いのではないかという意見もあったかと思います。落語が時代に合わせていい変化をしていくといいですよね

    1. うゑ村さん、有益なヒントをありがとうございます。
      世間的に、女性の審査員を入れるのは当然のことでしょう。別に女流の噺家を勝たせるためでなくて。
      手持ちの録画を見返すと、2015年だけ「やまだりよこ」さんが審査を務めています。この年は女性の演者はいませんでした。
      ちなみに「文珍・権太楼」体制の最初の年でもあります。
      男女構成も大事ですが、NHKの審査員選びには、もっと大事な要素があるものと想像します。東西の「身びいき」防止です。
      だから席亭は呼ばれなくなったのでしょう。
      くまざわあかね先生だったら、西の身びいきをすることなどないでしょうが。

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