ペラペラ王国の構造を解析する

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ハイレベルの大会を、素敵な新作が勝ち抜いた、NHK新人落語大賞のおかわりです。

2回に分けるような内容でもないので、今日1日分にまとめてしまった。
そのため今日の記事は字数が非常に多い。明日は更新、休ませてください。

柳家小ゑん師もツイートしていた。

落語協会所属の小ゑん師、日ごろはあまり芸協の噺家に言及しない印象があるのだが、新作が優勝して嬉しかったのでしょう。
他の古典落語の人だって、別に作り上げていないわけではない。創作力は噺家なら絶対に必要なもの。
だが、ゼロからというと確かに羽光さんだけ。
その、ゼロからの創作を、ちょっと掘り下げたくなった。
優勝した「ペラペラ王国」を分解するとこういうことになるというのを、1日掛けて見てみます。

シーンを細かく分解してみた。
冒頭のシーンが①。そして主人公のおじいちゃんの語る劇中のシーンが、階層的に②から⑤まで続くのである。

*パン!*

①-1 おじいちゃんと孫(こうた)

【孫のこうた】

  • 眠られへんから話をして欲しい
  • プロットがしっかりしてないとイヤ
  • 展開が読めるのはイヤ
  • 最後にはすやすや眠れること

*ファンファンファンファン*

②-1 雪山で遭難中の部長と田中くん

【田中くん】

  • 寝たら死ぬから話をして欲しい
  • 目の覚めるスカッとする話を聴きたい

*ファンファンファンファン*

③-1 中村さんとよしこさん(夜景デート)

【中村さん】

  • 母校でスピーチをした話をよしこさんにする

*パン!*

①-2 孫のこうた(田中くんではない)

【こうた】

  • 面白くない
  • 複雑すぎる
  • なんで回想シーンの中に回想シーンがあるのか。小劇場で流行ったような展開。

*ファンファンファンファン*

②-2 雪山

*ファンファンファンファン*

③-2 デート

*ファンファンファンファン*

④-1 母校でのOBスピーチ:探検部の話

【生徒の要望】

  • ちゃんと話せえよ

【おじいちゃん=中村さん】

  • 居眠りしたらアカン

*パン!*

②-3 雪山

【田中くん】

  • 面白くない
  • わざと寝かそうとしているのでは
  • なんで回想シーンの中に回想シーンがあるのか。野田秀樹が作りそうだ。

【おじいちゃん=部長】

  • 寝たら死ぬで

*パン!*

①-3 こうたの寝床

【こうた】

  • ぼく、寝たら死ぬの

*ファンファンファンファン*

②-4 雪山

【おじいちゃん=部長】

  • 寝るな死ぬぞ

*パン!*

①-4 こうたの寝床

【こうた】

  • どっちやねん

*ファンファンファン*

②-5 雪山

*ファンファンファン*

③-3 デート

*ファンファンファン*

④-2 母校のスピーチ

【生徒】

  • この話おもろいんやろうな

【おじいちゃん=探検部の中村さん】

  • ペラペラ王国のペラペラザウルスの話をする
  • 人の話で寝るような奴は、ろくな大人にならん

*パン!*

①-5 こうたの寝床

【こうた】

  • ぼくろくな大人になれへんの

*ファンファンファン*

②-6 雪山

*ファンファンファン*

③-4 デート

*ファンファンファン*

④-3 母校のスピーチ

*ファンファンファンファン*

⑤-1 ペラペラ王国

  • 住民とペラペラザウルスに取り囲まれる

*パン!*

②-7 雪山

  • ちょっと待ってもらえますか

【誰が喋っているのか、一瞬不明。生徒でもよしこさんでもなく、実は田中くん】

  • 最初からペラペラ王国の話をしてくれればよかった
  • 彼女の話とか先輩の話、必要ないでしょ

*パン!*

①-6 こうたの寝床

【こうた】

  • 雪山で田中さんと話の感想を言い合うくだりいらんわ
  • はよペラペラ王国の話してや
  • 話の構造がマトリョーシカみたいやんか

*ファンファンファン*

②-8 雪山

*ファンファンファン*

③-5 デート

*ファンファンファン*

④-4 母校のスピーチ

*ファンファンファンファン*

⑤-2 ペラペラ王国

  • ペラペラザウルスに襲われる

*キンコンカンコン*

④-5 母校のスピーチ

【おじいちゃん=探検部の中村さん】

  • チャイムが鳴って時間が来るので、おしまい

【生徒】

  • ペラペラザウルスの正体ってなんや
  • ええとこやけど時間が終わり、そりゃないやないか

*ファンファンファンファン*

③-6 デート

【よしこさん】

  • すごく面白かった
  • ペラペラザウルスはどうなった

【おじいちゃん=中村さん】よしこさんをホテルに誘う⇒振られる

  • 面白い話を途中でぶった切って終電なくす作戦、失敗

*ファンファンファンファン*

②-9 雪山

【田中くん】

  • 部長、最低ですね
  • ペラペラザウルスはどうなった

*羽織を脱いで振り回す(救助を呼ぶ)*

*ファンファンファンファン*

①-7 こうたの寝床

【こうた】

  • なにが面白いのこの話
  • ペラペラザウルスはどうなったんや
  • 確かに先は読めへんかった
  • ②③④はおじいちゃんの作ったフィクションやろ
  • ぼくだけは現実の人間や

【おじいちゃん】

実は全部、NHK新人落語大賞で掛けている落語でした。

 

こうしてみると、つくりの精緻さにつくづく感心する。
並べてみたので分かったということも多い。次の通り。

  • 落語の約束を逆手に取り、誰が喋っているか(しかもどの階層からか)わからなくする
  • 孫のこうたより、一段先のパートである雪山のほうがシーンの数が多い
  • 場面を変えるときは、「ファンファンファンファン
  • 急速な展開を必要とするときは手短に「ファンファンファン
  • 一か所だけ、「キンコンカンコン」とチャイムが鳴って現実に引き戻される
  • 他のパートから割り込むときに小拍子をパン!と打つ
  • 雪山のシーンで、部長(おじいちゃん)が脱いだ羽織を振って救援を呼んでいる
  • 「おもしろくない話」でウケを取る
  • 各パートにはテーマがある。

まず、「誰が喋っているかわからない」。
落語では声色で演じ分けたりしない点、下手をすると誰が喋っているかわからなくなる。
この、落語の約束を裏切ろうとするなら、誰が喋っているかわからなくすることは容易ではある。だが、さらにどのパートから話しかけているのかすら混乱させるという素晴らしい工夫。
とはいえ、入念に仕込みをしているから、客はその世界に戸惑ったりはしない。①②(③も、やや)において、登場人物自身に世界に対する疑問を持たせることで、逆にすんなり飲み込ませているから。

そして、雪山のシーンのほうが多い、ちょうどいいバランス。
雪山も、おじいちゃんの話の中ではリアルな人物だから。

「ファンファンファンファン」(ファンファンファン)と小拍子の使い分けは面白い。
小拍子をパンと打つときは、急激に割り込むときなのだ。

噺の展開により羽織を脱ぐというのは古典落語でもたまに見るが、雪山のシーンで救援を呼ぶときに脱ぐ、なんと見事なタイミング。

面白くない話でウケを取るのも画期的。スベリウケとは違う形で。
各階層にいる登場人物たちは、最初話がつまらないが、だんだん楽しくなる。しかしオチを聴けずにフラストレーションをためる。
その全体の構造が、落語の客にはたまらない。でも、ときどき登場人物に気持ちがシンクロする。
客は、この噺のステージ⓪を構成する重要なパーツ。

そしてストーリーはまったくないが、各パートにはテーマが見え隠れする。

  • こうたの寝床・・古典落語「桃太郎」
  • 雪山・・・・・・生命の危機を話で救う
  • デート・・・・・ちょいエロ
  • 母校・・・・・・(これはないな)
  • ペラペラ王国・・牛の首(都市伝説)

こうしたそれぞれのシーンが互いに交錯し合うオムニバス的落語を作ろうとしているうちに、各シーンにおける同じ登場人物が「話をする」というテーマを思いついたのだろうか。
落語の中で話をするという構造により、演者自身も構造に取り込まれるという、見事な工夫。

とはいえ、会話を楽しく進める基礎的なテクなくしては、とても成り立たないだろうなあ。
まだ、書きたいことがいくらでも出てきそうな見事な噺です。

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作成者: でっち定吉

落語好きのライターです。 ご連絡の際は、ツイッターからメッセージをお願いいたします。 https://twitter.com/detchi_sada 落語関係の仕事もお受けします。