神田連雀亭ワンコイン寄席29(上・柳家小はぜ「明礬丁稚」からの「平林」)

平林小はぜ
鷺とり遊かり
明烏文吾

 

今一つ釈然としなかった水曜日(巣ごもり寄席)の口直しに、日曜は神田連雀亭へ。
他にさしたる用事もない。サッと行ってサッと帰ります。
トリが今年二ツ目に昇進したばかりの春風亭朝枝さん。楽しみにしていたが、直前に確かめると橘家文吾さんに代わっている。
文吾さんならいいかと思って出かける。
私はこの二ツ目限定の寄席、評価を確立した人のときにだけ来ることにしたのだ。
そうすると、新たなスター候補を捕まえられないじゃないか。まあ、なんとでもなるさ。
今日の顔付けは、その文吾さんも含め、二ツ目でも真ん中から下の香盤の3人。
上手い人はキャリアが浅くても上手いし、面白い。

テケツにはトリの文吾さん。客への愛想はあまりない人。
客は自分で体温を測り、連絡先を書く。わかってる客だと思ったのか、なにも言ってこない。
本当にわかっている客かそうでないのか、区別つくかな? 私だってこのルールに従うのはたかだか二度目だが。
19人の定員がまあまあ埋まるぐらいには入っている。

二番手の三遊亭遊かりさんが、メクリを持って登場し、諸注意を。
携帯は電源から切っておいてください。鳴らしてもいいのですが、狭い席なので顔を覚えられます。
許可のない録音録画はご遠慮願います。われわれは修業中。将来人間国宝になったときに、思わぬ録音があると傷になります。
楽しい前説。

トップバッターは柳家小はぜさん。私は1年振りだ。
この人が連雀亭に顔付けされていると、番組がグッと引き締まる。
不思議なことに、ここ連雀亭でしか聴いたことがない。ベテランみたいな味を持つ、アベレージが非常に高い人。
だが小はぜさん、高座に上がろうとしてアレという顔をする。客も気づいたが、なんと高座に座布団がない。
袖に一度引っ込んで、自ら座布団を抱えて入場。遊かりさんのすみませんという声。
確かに遊かりさん、むき出しの高座を目で確認していたのだからそそっかしい。

自分で座布団持って出たのは初めてですと小はぜさん。寄席では色物さんの後だって、前座が運びますし。
本当は私が高座を確認する係なんです。でも今日は遅刻してしまいまして。
しかも、風呂敷を開けたら羽織が2枚入ってまして、着物がないんです。2年振り4回目の失敗です。
どうも風呂敷が軽いなとは思ったんですけど。
帯を忘れたときは、風呂敷巻くんですけど、着物はどうにもなりません。
先輩で女性の遊かりさんに借りるわけにもいきません。同じ落語協会の後輩、文吾さんに借りました。
問題はこの後、もう一仕事あるんですよ。とりあえず落語協会に行けば、誰か捕まるだろうと思うんですが。

落ち着いた感じを醸し出しているのに、実に粗忽で愉快な小はぜさん。
高座の楽しいハプニングも、ちゃんと回収してさすが。
そこから律義に粗忽の噺へ持っていく。小僧の定吉が登場。
定吉、主人に金魚鉢の水を替えるよう命じられていたが、冷たい井戸水を使わず、沸いたばかりのお湯を使って金魚を煮てしまう。
あれ、この噺なんだっけ。猫と金魚じゃないし。
井戸水を使わなかったのは冷たいだけが理由ではなく、雨の後で濁っていたためだと定吉。旦那は、薬屋に行ってミョウバン買ってきなさいと命じる。
ミョウバンという言葉が出てきたので、「明礬丁稚」という噺があることを思い出す。
もっとも、どんな噺か知ってるわけじゃない。言葉だけ脳内にポンと湧いてきたのだ。
こういうことがたまにある。

粗忽な定吉、薬屋への道すがら熊さんに会ってペラペラ話をしているうちに、「ミョウバン」が「今晩」になってしまう。
コンバンは売っていないのでお店に帰ると、軽いサゲがあってまた用を言いつけられる。
ここから、おなじみの「平林」へ。
明礬丁稚では自分から話しかけて買い物を忘れてしまうのだが、平林ではおまわりさんに話しかけられて行き先を忘れてしまう。
平林の前に明礬丁稚が付くスタイルは初めて聴いた。道灌の前に、小町や四天王が付くようなものか。
平林という噺、粗忽ものと捉えてもいいのだが、普通には無筆の噺だと思う。
やかんや転失気同様の「知ったかぶりの噺」として、そちらのマクラから進むのも観たことがあるが。
だが、明礬丁稚が前に付くとなると、これは明らかに粗忽の噺となる。面白いものだ。

本編、平林に続きます

 

作成者: でっち定吉

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