2020M-1グランプリ(中)

一夜明けてからも、M-1の話題はずっと盛り上がっていて面白い。毎日聴いてるナイツ ザ・ラジオショーには東京ホテイソンが出てきた。
本選ではコケた彼ら、ラジオは面白かった。

昨日書いたニューヨークについて思い出したので追記。
審査員は誰も引っかかってなかったけど、犬のウンコ食べるのはネタとしてやっぱりダメだと思う。
先日のキングオブコントで、最後弟分殺すのがよくないのと同じ。
シャレのわからない見方だって?
引っ掛かる人が間違いなくいるギャグは損だから、他に差し替えたほうがいいと思うわけです。これが落語で鍛えた私の感性。
一般投票枠があったらこれを理由にしくじりかねない。

(※ 2021/1/2追記 オール巨人師匠が私と同じ箇所に引っかかって点数下げたとのこと)

《おいでやすこが》丁稚採点94点(1位)/結果:1位⇒準優勝

私R-1はほとんど観たことないので、この人たちのこともよくわからない。
だが、とてもピン芸人ユニットとは思えない見事なデキ。
真面目に歌うデタラメ歌に毎回強くツッコむという、まったく同じパターンの繰り返し。
その無限ループからいつ抜け出るのだろうと期待して観ていたら、なんと抜け出ない。わずかにアクセント付けるだけ。
こんなやり方で客をしっかり引き付けるのは、舞台で鍛えた腕のたまものか。
いやあ、漫才の方法論というのも無限に存在するものですな。
まずピン芸としての歌自体が面白いことが大前提にないと、到底無理だろう。

ひとつ気づいたのは、「がなりツッコミ」が客に与える具体的効果。
漫才とは調和である。だがあえて、がなって調和をぶっ壊す。
するとなにが起こるか。ぶっ壊した漫才の枠組みが、再生し、そして先ほどより広くなってくる。
もちろん、脳内での枠組み再生を拒否する客もいて、多少脱落する。そういう人も、別に私の理解の外にはない。

私自身が面白いと判断したのとは別次元、客観的視点で見て、この時点で優勝するなと思った。
その評価に基づいて1点足している。

《マヂカルラブリー》丁稚採点88点(10位)/結果:2位⇒優勝

ウケてたけど、まったくわからない。
「高級フレンチのマナー」がテーマだが、それと数々の大ボケとがまったく接点を持っていないため、ポカンである。
高級フレンチへの入店と、城攻めのごとく丸太をぶつけるギャグと、いったいどこが掛かっているのか?
「丸太を端から使う」程度では、掛かっているといえない。いきなりレストランをぶち壊していては、飛躍が大きすぎる。
そもそも一番最初のボケ実践、「ガラスを割って侵入する」では、何をしているのか意味不明だった。再度観てもよくわからない。
この不備はツッコミの責任じゃないと思う。

魔方陣を描いてるあたりでは、すっかり引いてしまった。野田クリスタルの世界なんだろうけど、漫才だからな。
今田耕司が「独特の世界観」というワードを使っていたが、そのあたりが評価の難しさを如実に物語っている。
プロの評価がまっぷたつに分かれていたのは非常に面白かった。
笑いがしぼんだところがあったという巨人師匠の評価に賛同。

「漫才じゃない」という、巷に溢れる論評には乗っかりたくはない。
スタンダードがあれば異端もある。少なくとも最終決戦を残している状態で、異端だからNGという評価はないと思う。
私としては漫才かどうかでなく、「なににも掛かっていないギャグ」をひたすら嘆くばかり。

《オズワルド》丁稚採点92点(3位)/結果:5位

オズワルドはジミハデなので、評価が難しいね。
ボケは役割としてはトスであり、ツッコミがスパイク。トスであるボケのほうが、役割としてツッコミっぽい。
ミルクボーイや見取り図に似たスタイル。

個人的に大好きなタイプの芸なのだけど、なにしろ最後まで爆発しない芸だから。
「ハタナカ」という名前が、口を開きたくないのでヒキニキになってしまう。こういう、言葉遊びを突き詰めたネタは大好き。
ニューヨークと同じ途中経過4位で落ちてしまったが、結果は結果で納得がいく。
マヂカルラブリーのような派手な芸も、オズワルドのような地味な芸も、評価が大きく分かれるという点は似ている。
松ちゃんの評価は面白かった。うるさい演者が続いて、静かな芸を期待したのに意外とうるさかったという。
松ちゃんは、明らかにM-1グランプリの全体を通し、個々のコンビの役割を強く期待している。
自分のブログに書いていたので思い出したのだが、2年前に松ちゃん、最後の締めで演者全員のチームワークについて述べていた。
ここでオズワルドが果たすのは、全体を落ち着かせる役目、そういうことだろう。寄席と同じ。
コンテストといえどもチーム芸。ウーマンラッシュアワーにはできないこと。

順序ばかりは仕方ない。昨年はミルクボーイの後で、今年はマヂカルラブリーの後で、あまりいいポジションではない。
私は松ちゃんと逆に、オズワルドが静かな導入により激しい流れを落ち着かせたことを賞賛し、高い点数を与えた。
巨人師匠は逆に、そもそも静かすぎると言っている。プロの評価が真逆であるのを見ても、実に難しい。
難しいのは異端の芸(に映る)からなのだろう。でも、2年連続で出ていれば審査員も慣れる。

「ザコ寿司」のキーワードは爆笑。
そして、「ボケチクビ」を振っておいてしばらく後で回収するのは、見取り図と同じシステム。
「激キモ通訳」もかなり面白いワードなのに、最初に聴いた際はヒアリングできなかった。一度も聴いたことのないワードだから、難しいね。

《アキナ》丁稚採点92点(3位)/結果:8位

コントっぽいネタだが、コントではできない。漫才という枠組みの中で成立する漫才コント。
個人的に、怒ったふりの相方を捕まえにいく際、毎度の「前すみません」が地味に私にググっと来た。
見取り図の「赤外線通ってないねん」と同じ効果であり、落語の上質な描写にも似ている。

今年の大会、ちゃんとしたストーリーものが初めて出たが、そのせいか点数は伸びませんでしたね。
でも、伏線をことごとく回収していくそのテンポがすばらしい。
すごく上手いのに点数が延びないのは順番の問題と上沼恵美子がコメントしているが、そういうところはあるでしょう。
ただ、自力で環境をぶち破れるかどうかが、M-1で勝てるかどうかではないのかな。そう考えると、この順位が限界なのかもしれない。

私は真面目に採点してきて、このあたりでやや疲れてきた。
審査員がよく語るように、相対的に評価を付けておき、空いた点数を探す状態だ。
結果はともかく間違った採点とは思わないのだけど、アキナがなんでこの点数かは非常に説明しづらい。

続きます。

 

作成者: でっち定吉

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