新宿末広亭2 その1(古今亭駒治「地下鉄戦国絵巻」)

狸の札 辰ぢろ
寿限無 辰乃助
楽一
地下鉄戦国絵巻 駒治
お血脈 菊志ん
ぺぺ桜井
のめる 一九
たいこ腹 ひな太郎
夢葉
小言念仏 菊寿
やかん 圓歌
(仲入り)
棒鱈 正太郎
ジキジキ
蔵前駕籠 萬窓
時そば 文蔵
仙三郎社中
徂徠豆腐 扇辰

 

今年最後の寄席に家族で行ってきた。
ここ数年の傾向だと、池袋で締めるところ。池袋は新作まつりで、三遊亭白鳥師が恒例の「富Q」を掛ける。
最初はこちらに行くつもりでいたのだが、新宿に用事があって、ついでに末広亭に行くことにした。
末広亭は今年、緊急事態宣言明けの芸協の芝居(6月中席)を聴きに、4年ぶりに出向いたところだ。
しばらく「初心者向けの寄席」というネガティブな印象も持っていた末広亭。久々に来て、そうではない、落語の基礎が詰まった寄席だと再認識したところ。

そして、この今年最後の定席、28日夜席の主任は入船亭扇辰師。
先月鈴本で聴いたばかりだ。でもいいじゃないか。
コロナ禍の今年はもともと、黒門亭の扇辰師(雪とん)で幕を開けたのだ。最後も扇辰師なんていいね。

割引券は何もないが、東京かわら版だけは役に立つ。300円引き。
午後4時半に入場すると拍手が聞こえてくる。ちょうど昼席主任の柳家小里ん師がハネたところ。
可能なら小里ん師も聴きたかったが。
末広亭は、入場制限を解除したその代わり、場内で食事ができない。
4時間強のマラソンなので、直前に食事してから。
居続けの人は大変だね。
満員とは言えないし、2階も閉めているがそこそこ埋まっている客席。

前座は先日、鈴本の芝居でも高座返しをしていた入船亭辰ぢろさん。扇辰師の3番弟子。
落語は初めて聴くが、欲張らないいい前座である。丁寧なたぬき。
ただし、ちょっと寝せてもらった。

番組トップバッターは扇辰師の2番弟子の入舟辰乃助さん。「マオカラー」という、十徳の改作を持っている人。
だいたい、惣領弟子の小辰さんと交互だが、ずっと小辰さんに当たっていたので久々だ。
若手はコロナで仕事がなくなり大変だが、後輩の柳家小はださんはコーヒー屋を始めたらしい。
小はださん、最初は「アニさんぐらいしか来てくれません」と泣きの状態だったのだが、先輩噺家が次々来てくれて大盛況。最後に辰乃助が来ても、「なんだ入舟か」ぐらいの扱いだったという。

さて、今年の仕事納めなので、5年ぐらいやっていない噺をしたいんですと辰乃助さん。
そして寿限無へ。
寿限無という噺、最近よく聴くようになったが、前座以外の人が掛けるのに遭遇するのは初めてだ。

(※ 初めてではなくて、亀戸で三遊亭楽生師から聴いていました)

末広亭は時間が短いので、「海砂利水魚」以降の説明を端折った寿限無。
ちなみに、私は寿限無をそらんじているので、この日の寿限無の言い立て、自分の覚えたバージョンではないが完全に再現できる。

寿限無寿限無五劫のすりきれ海砂利水魚の水行末雲行末風来末食う寝るところに住むところヤブラコウジのヤブコウジパイポパイポパイポのシューリンガンシューリンガンのグーリンダイポンポコナーのポンポコピーの長久命の長助

水行末は「すいぎょうばつ」と発音。以下同様。
しかし、なんで寿限無だったのかな。この日は初心者が多いと思った? そうでもなかったけど。
この次、楽一師の紙切りの注文が少ないところを見ると、遠慮している人が多そう。
でも、寄席の流れをよく知っている感じの客なのだ。

池袋に行っていれば、今日は新作だらけ。
いっぽう、こちら末広亭における唯一の新作が、次の古今亭駒治師。
今年は駒治師、1月の池袋のトリから始まり、3月の新作まつり、そして6月の日本橋亭の桂しん吉師との会にも行き、10月、スタジオフォー四の日寄席でも聴いた。
そこそこ聴かせてもらった、いい一年。
ちなみに、ほぼすべてが鉄道落語。

時間の短い末広亭なので、マクラをそこそこに噺に入る。東京には都営地下鉄と、東京メトロがありますと。
最近よく掛けているらしい、「地下鉄戦国絵巻」である。ご存じ鉄道戦国絵巻を、東京の地下鉄に移し替えたバージョン。
本家鉄道戦国絵巻は何度も聴いている。今年も聴いているのだが、舞台が変わっただけでまた楽しい。
それに、新宿三丁目に来ている客には、東急より地下鉄の噺のほうが面白かろう。
都営大江戸線があまりにも地下深くにあるギャグなど、鉄道落語好きでなくてもジワる。

都営地下鉄から、都営三田線が脱退して東京メトロに加わったという。
本家において、東急東横線がJRに加わるのと同じ。
白金を通る三田線が抜けてしまうと、都営地下鉄にはもはや西馬込や光が丘しかない(そんなことあるか)。
残った都営の浅草線、新宿線、大江戸線が、京急や京王の助けを得て、メトロに戦いを挑むという噺。
実にくだらない。

途中、「落語家の古今亭駒治師匠」が登場し、都営地下鉄の不満を述べる。
なんで自宅のある幡ヶ谷から(末広亭のある)新宿三丁目まで3駅と近いのに、330円もするんだと。東急だったら横浜まで行けるぞと。
どうでもいいが、幡ヶ谷から新宿三丁目の料金調べてみたら、290円じゃないか。
割引運賃が適用されてる。

本家における東急池上線が、日暮里舎人ライナーだったりして、聴き手の記憶をゆすぶる楽しい一席。
なんと上野動物園のモノレールもサゲに登場。

続きます。

 

作成者: でっち定吉

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