新宿末広亭2 その2(柳家一九「のめる」)

4時間半のマラソン寄席から帰ってきた頃は、程よく腹ペコ。
高揚しつつ、一杯引っ掛けて書いた昨日の記事は誤字だらけでした。すでに修正しましたが。
場内、食事ができないのは仕方ないのだが、末広亭の椅子が実に体にフィットすることを再発見。寄席の中でも一番疲れないんじゃないか。
当ブログを始める前に出向いた際は、いつも桟敷席だった。桟敷もいいが、体への負担は数倍違う。

今回の新宿末広亭、内容もすばらしかった。そして、池袋とはかなり番組の作り方が異なることを再認識。認識していたからこそ、もっぱら池袋に通っていたのだが。
古典も新作も、とことん面白さを追求する池袋にすっかり慣れていた私だが、違う体系もある。そのよさ、落語の基礎のよさに改めて気づいた。
池袋演芸場は、持ち時間が長いのでじっくり聴け、そして演者相互の遊びが多い、ちょっとスレた落語ファン向けの楽しい寄席。
私が新宿を、まったく無視していたわけではないものの結果として避けていた理由は、片手の指がすぐ折れる。
その中のひとつに、「変なところで切ってしまう落語が多い」というのもあった。だが、今年の2席には、そういう部分はなかったな。
寄席の作法も徐々に変わってきたのではないか。もちろん、自分自身の寄席の楽しみの上達もある。

さて、白熱の千秋楽、末広亭の模様に戻ります。
古今亭菊志ん師は、池袋でよく遭遇する人。主任の芝居もそちらで聴いた。
ちょっとコロナ太り気味じゃないでしょうか?
お釈迦さまの生誕、「甘茶でかっぽれはここから始まった」から、善光寺の由来。
10分そこそこしか時間のない新宿だが、ちゃんとお血脈まで進んだ。編集が自在なので、時間に合わせてなんとでもなる噺。
石川五右衛門は、地獄サウナの館長を務めているらしい。
あまり湧かない客席に、やや不満気味の菊志ん師であった。だが実は、常連というほどでもないにせよ、真に落語好きの客が多かった気がする。
客にクスグリがウケたとかウケないとか、そういういじりの嫌な人ばかりだった模様。
だから、見事につかみ損ねたと思う。
寄席は生き物。ベテランの域に達してきた人でも見誤ることはある。じっくり進めるのが正解だったことがこの後判明。

ペペ桜井先生で、寝せてもらう。ギターの子守唄で実にいい気持ち。
ペペ先生も好きだけど、落語協会の色物さんには珍しく毎回同じ舞台。ここで寝ようと最初から決めていたのだ。
最近では寄席の番組を眺めて、寝るポイントを見定めている。

短い睡眠で頭が冴えてバッチリ。
さてここから、池袋にだけ通っていてはほぼ遭遇しない、地味な3師匠の高座が続く。
黒門亭ではお会いできるから、まるで知らないわけではないにしても。
さらに後半の三遊亭萬窓師を含めた合計4高座がすばらしいものだった。池袋だけ行ってちゃいけないと、つくづく反省した次第。
ちなみに、寄席の番組の大きな違いは、落語協会の席での話。
芸術協会の番組だと、新宿と池袋と、ほとんど変わりがない。まあこれは、芸協のベテランメンバーがだいたい同じ顔ぶれで固定されているためと思うが。

まず柳家一九師。
近年では、この師匠を聴いたのは黒門亭。仲入りでの「寝床」がすばらしく、2年後の昨年にはトリの「藪入り」を聴きに出向いた。
今年の黒門亭へも「二番煎じ」ネタ出しに行きたかったのだが消滅。
そういえば黒門亭、都の補助金が打ち切られるので来年度開催は絶望的だったという。文化庁から給付金がもらえることが決まり、なんとか来年も首がつながったそうで。
正月の開催がないのは、その関係での事務手続き絡みらしい。林家時蔵師のブログより。

一九師は、もちろん丁寧な「のめる」。
若手がよく掛ける、軽い噺。前座もやってやれないことはない。
若手のものは、ギャグたっぷりであるが、一九師ののめるに、ギャグなどほとんど入らない。
しかし、八っつぁんと熊さんの関係性だけでしっかりウケる。
そして軽い。熊さんの口癖の背景に見える性格の悪さとか、そうした部分はごっそり抜いているので気持ちいい。

クスグリが多すぎればやがて飽きてくる。若手のうちならギャグを入れるのもいいし、聴く側も好む。だがいずれ、一九師のような噺本来の面白さを追求する人も出てきて欲しい。
柳家の若手では、小はぜ、小もんといった二ツ目さんがベテランスタイルで堂々勝負しているので頼もしい。
もちろん、いろんなスタイルがあっていいのだけど。

続きます。

 

作成者: でっち定吉

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