2018年正月のTV落語

毎日更新、「丁稚定吉らくご日常」。正月は多くのご来場を賜りましてありがとうございます。
昨日まで、年末の池袋の模様を延々と引っ張ってみました。

寄席に通う私だが、初席には気が向かない。料金高いし混んでるし。
とはいえ、芸人がやたら数多く登場し、小噺だけやって降りる初席について「価値がない」とまでは言えない。なにせ初席など何年も観てないから判断できない。でも多分今後も行かない。
TVでは、そこそこいいものが録れた。ちょっとTV落語のネタをつついてみます。

毎年恒例の、3日のNHK。毎年録画している。拾い見してから、落語のごくいいものだけ保存する。今年はわりと取っておきたいものが多かった。
東西対決の結果を、抽選で当たった客三人に決めさせるという極めて緩いスタイルが、賞レースへの皮肉になっていて愉快だ。
寄席中継について、東京は落語協会(浅草)と落語芸術協会(新宿)とを公平に、大阪は吉本(なんばグランド花月)と松竹(角座)とを公平に扱うスタイル。
基準になるのが、東京では噺家さんの協会であり、大阪では芸人さんの所属事務所だというのが東西の構造の違いを語っている。
吉本からは重鎮、文珍師が出たが、松竹のほうは噺家さんが出ない。そもそも角座に噺家の枠がないのだ。

協会・事務所の枠組みからこぼれる芸人はいて、それらを東京のスタジオでしっかり拾う。噺家だと三遊亭円楽師であり、米朝事務所所属の桂米團治師である。

円楽師、昨年芸協入りしたものの、まだ客員のため、その資格では寄席の出番は少ない。
相変わらずの歌丸小噺から、漫談風の新作を一席。
それより、TV進行をまったく無視し、雨宮アナの制止を振り切っていつまでも爆笑問題と掛け合いを続けていたのが面白かった。TVの世界の人なのに、予定調和を壊すのがお好きらしい。そして不倫騒動を遠慮なく追及する爆問太田。
円楽師の今年の夢が「落語が上手くなりたい」。世間の評価が低いのが気になるんだそうだ。
TVで売れてる円楽師、ちゃんと噺家としての客観的現状認識をしているのだなあ。このあたり、自己評価のみ肥大した立川志らくとは違う。
認識は立派で敬意を払うが、円楽師のこの一席に保存の価値は感じなかった。ただ、トークとまとめて取っておこうかと思う。

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円楽師、末広亭に歌丸師の代バネで出ていたんですね。代演だったらトリも取っていいらしい。

落語協会が浅草演芸ホール前からフィーチャーしていたのが、立花家橘之助師匠とホンキートンク。
今までは「小円歌姐さん」だったけど、襲名したからやはり橘之助「師匠」でしょうね。
今年はホンキートンクの年なのでしょうか? ロケット団、宮田陽・昇(芸協)と立ち位置が似ている、寄席漫才のトップを走る一組。
寄席漫才は、TVの漫才(≒吉本の劇場)が標準だと思っている人たちからどう映るか知らないが、寄席好きの私にはとても面白い。
この漫才三組、揃って面白いけどボケのスタイルがみんな似ているところだけ難点。ツッコミはそれぞれまったく違うけど。
ぼんやり観ている人、印象がごっちゃになっていたりしませんか? ネタ自体は違うのだけど、ぼんやり観ていない私でもごっちゃになることがある。
これに末広亭に出ていたナイツを足すと漫才協会の四天王となる。
四組揃って、聴き手の年齢層を限らないところがいい。ホンキートンクも、「嵐」のラップの最中に吉幾三をブッ込んでくるところがたまらない。

ホンキートンクから橘之助師匠が上がるまでの1分半、スタジオから雨宮アナとゆりやんレトリィバァがトークをしていたが、浅草においてこの間はなに? 短い間に、誰か上がったのか? 末広亭の山上兄弟と、春風亭昇太師との間も同様だった。
雨宮アナが、ホンキートンクの師匠セント・ルイスのギャグを「田園調布にうちが建つ」と紹介していた。「家」の読み方が違う!
テンポアップする橘之助師匠の三味線と、太鼓のジャムセッションを見せ途中で挫折した前座のあお馬さんは、柳家小せん師匠の弟子。

柳亭市馬師が浅草で「七福神」を掛けたところ、桂米團治師がスタジオで用意していた「正月丁稚」とツいてしまうという事態が発生。
寄席のほうは寄席のネタ帳で管理しているから、TVのほうが合わせなきゃいけないんだろうが、NHKのほうは、「七福神」と「正月丁稚」が同系の噺だと知らなかったわけだ。寄席のルールとTVのルールがかち合うと、こうしたことも発生する。
正月丁稚のテロップがそのまま出てしまうが、米團治師、円楽不倫ネタを引っ張って「急遽ネタを替えます」と、米朝譲りの「茶漬間男」へ。関係者に話さず、わざと直前に替えてみたのだろうか?
間男噺で、爆問・太田のコメントどおり正月にやる噺とも思えないが、楽しいハプニング。品のいい米團治師、いやらしく語ったりはしない。
たまにTV・ラジオで聴く程度だが、近年の米團治師はいいですね。人間国宝の父に到底かなわない息子が、父の死後に独自の魅力を開花させていくという、「浜野矩随」みたいないかにも日本人好みのストーリーに乗りつつある。
一席終わってから円楽師をいじり倒していったが、やはり品がいいのでしつこくはない。

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末広亭の春風亭昇太師匠は10分で「看板のピン」。
マクラから躁状態の猛スピードで爆走。絶妙の間で爆笑の渦。さすがですね。
博打から足を洗ったオヤジさんに風格が全然ない。主人公がオウム返しに真似してみせる姿と、真似されるほうが一緒なのだ。
そのことは全然メリットではないけれど、それでも全体としてやたらと絵になる昇太落語。正月早々圧巻の一席だった。
賽が壺皿からこぼれているのを教えてくれているのに耳を塞いで聴かないなど、随所に昇太師の工夫が入っているが、仮に先人のままのスタイルでやったとしても、昇太師なら抜群に面白いだろう。
こんなすごい高座を見せられたら、「古典落語ひと筋に修練を積んできたのに」と絶望する同業者も中にはいるのではないか。決して真似できない落語だし。
このブログでも告白したのだけど、私かつて昇太師の古典落語がいまひとつ苦手だったのだ。今ではそんなことはありません。
忙しくて寄席の出番はさほど持っていない昇太師だが、今年は寄席で聴きたい。昇々さんはじめ素晴らしい弟子たちもいるし。例外もあるが・・・

スタジオでは、NHK新人落語大賞受賞の三遊亭歌太郎さん。
マクラから噺への入りようが巧み。
例年の大賞受賞者はこの番組に枠があるのだが、それら歴代受賞者と比べても、実に堂々としている。急にふた皮くらい向けた感じ。
この「庭蟹」もいいデキなので、捨てずに取っておきます。私の行く池袋や黒門亭あたりではまず掛からないであろう小品。

テレビ東京でも、毎年1月2日に浅草からの中継をしている。こちらはザっと見て、すべて消した。
林家三平が、今年も相変わらずの滑舌で、同じ内容の笑点漫談をしていた。
滑舌は、むしろ悪化の一途をたどっているのではないか。そしてつまらんギャグのたびにいちいち「どーもすいません」。
どこかで読んだ調査によると、三平は若者より、特にお婆さん層に激しく嫌われているらしい。ということは、父の真似などしても、自らの首を絞める結果にしかならないのだ。
実は三平、本業のはずの落語の仕事が極めて少ない噺家であることを、当ブログでも明らかにしている。
寄席も、呼んでくれるのは浅草だけで、それも交互出演が多い。寄席の最高峰鈴本では万年出入止めになっていて、噺家のショーウィンドー初席にも呼んでもらえない。その他も年一回がいいところ。
落語に関しては、数多くいる「寄席に呼んでもらえない真打」のひとりに過ぎない。笑点に出ていてこんな状態、ちょっと考えられない。というか、そんな程度の噺家を抜擢した番組サイドは、やはりちょっと感覚がズレている。
他の笑点メンバーと一緒の、地方の落語会はちょっとある。いつまで続くかわからないが・・・
でもいよいよ今年は笑点外されるんじゃないか。笑点外すにしても理由が必要だが、「落語に専念するため」とでもしておくしかなかろう。とはいえ、専念できる環境にはないのだ。地獄であるな。
正月の笑点特番で、西の噺家チームに散々いじられたあげく、兄弟子のたい平師にまでdisられたと聞くが、そちらは視ていない。

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2日テレ東の特番、あとは小朝師も出ていたが、これも取っておく内容でもなかった。
まったくの想像だが(元)売れっ子プロデューサーの小朝師、三平に対して今でも間違った指示を出し続けている気がする。
「三平君、きみはお父さんのファンの期待に応える義務があるんだよ。だから『どーもすいません』もやめちゃだめなんだよ」とかなんとか。
想像上の指示を批判するのもナンだが、すべて間違ってると思う。
一方、兄の正蔵師は、もはや小朝師の話を薄々にしか聴いていないのではなかろうか。協会副会長ともあろう人が、理事を辞めた人の意見聴いてる場合ではあるまい。小朝師のほうは、正蔵師を通して落語協会を牛耳ろうとしてそうだけど。

ちなみに、昨日の記事に「名無しの通りすがり」さんから「誹謗中傷を書いてあなた何様だ」とのコメントがありました。「名無しの通りすがり」さんは珍しくも三平師匠のファンなのでしょうかね。
つい反射的にコメント削除してしまったのだが、貴重な意見として残しておくべきだったと反省してます。名前が「名無しの通りすがり」でなければ勢いで削除はしなかったと思いますが・・・
もともとこのブログには、「噺家さんに対して偉そうなことを書くのは慎む」という基本方針があるのです。だいぶ基準が緩んでしまった気がするものの、方針自体を変えたわけではありません。だから三平師匠についても、批判の裏付けは常に書いているのだけど。
ともかく誹謗中傷と捉える人がいたということは、書き方に気を付けた方がいいということでしょう。
ただねえ、褒める人がいない林家三平師匠、私も落語ファンとしてフォローはしにくいなあ。

TBS落語研究会は、毎年恒例3日間の放送。
林家正蔵師匠が呼ばれている。数年前までは正直なんでこの人が呼ばれているのかなという感じが漂っていたが、すっかり貫禄が出てきた。
さすが落語協会副会長。地位が人を作ると限ったものではないけれども、今や正蔵師匠の落語は立派なものです。
高座のほうは、昨年すでに放送済みのものも多い。だが、春風亭一之輔師の「粗忽の釘」、三笑亭夢丸師の「附子(ぶす)」が取れてよかった。
夢丸師は当ブログでも取り上げたが、芸協期待の若手。恥ずかしながらまだTV以外で高座を拝見していない。まあ、近いうちにトリを取るだろうからその際に。
あと、古今亭志ん陽師を久々に見た。この人も落語協会の抜擢真打なのだが、一之輔、文菊の両師匠に比べると抜擢後の売れ具合がだいぶ落ちる。
小三治元会長が大鉈をふるった抜擢路線にも、光と陰とがあるということである。
そして、彼らに抜かれた中にも、三遊亭天どん師のような売れっ子もいる。人生いろいろ。
先に挙げた小朝師も抜擢だが、抜かした兄弟子、一朝師との地位は逆転したと思う。

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今日はラジオの話です。

寄席の料金をいかにして削減できるかに余念のない貧乏人の私だが、月に378円払って「radikoプレミアム」に入っているので、全国のラジオが好きなときに聴ける。
上方落語なんか聴くのにいい。年末に、桂吉弥師の「地獄八景亡者戯」の長講聴けてよかったです。たかじんの歌まで入っていてやりたい放題の一席だった。

春風亭一之輔師の看板番組「SUNDAY FLICKERS」も、東京ではオンエアされていない。しかも日曜早朝の生放送だが、radikoプレミアムのおかげで好きなときに聴いている。一之輔落語の面白さの一端がわかる、楽しい番組。
正月の放送を聴いていたら、東洋館の一之輔師についてのリスナー投稿があった。
一之輔師が高座に上がって喋り出そうとしたら、「サンフリ聴いてるよ」との掛け声があったのだそうだ。リスナーとしては、そんな声掛けがあったよ、と嬉しくなってメール書いたんだと思うけど。
毒舌の一之輔師によれば、声掛けられて嬉しいのが2で、嫌なのが8だと。多少マイルドに言っているが、本当はもっとイヤなはず。
野暮な掛け声だねえ。タイミングも悪いし。
この声掛け、一之輔師は完全にスルーしたそうである。もし相手をするなら「サンフリというラジオ番組がありましてね、そのリスナーの人から声が掛かったんですよ」と、他の客に説明しなきゃいけなくなる。初席の短い時間でそんなことはできないよと。
「自分がラジオのリスナーだよ」という内容の掛け声で噺家が喜ぶと思ったら大間違いだ。「あんたの番組を知ってる俺ってクールだぜ」という自己顕示欲肥大化のなせる業。
だいたい声掛け自体、自己顕示欲とセットになるもの。声掛けするならスマートに、粋にしたい。
せめて「サンフリ!」だけの声掛け、しかも早めにしておけばよかったのにね。まあ、正月からあんまりぶつぶつ言っても仕方ないけど。

ラジオで他に楽しかったのは渋谷らくご。
ここで、一之輔師の圧巻の「らくだ」をやっていた。らくだは、根本的な構造として「くず屋が可哀そう」という感情を呼び起こされるのを避けられない噺だが、最後逆襲するかどうかにかかわらず、綺麗にこの感情の発動をよけていく一之輔師。
一之輔師の「らくだ」についてはVTRも持っているので、いずれブログで取り上げようかと思う。
それともうひとつ、林家きく麿師。
先日池袋で変な新作を聴いて喜んだのだが、またラジオで聴けた。「守護霊」。
架空のCMソング、「ホテルニュー相模」がたまらない。兄弟げんかばかりしている弟が将来経営したいホテル。
きく麿師は、落語の方法論から自由になろうとしているのだろうか。成功すれば、三遊亭円丈師に匹敵する偉業になりそうだ。
もっとも、落語の方法論から離れると、だいたい落語ではなくなってしまうものだ。
まあ、落語でなくなることイコール悪いこととはいえない。きく磨落語になればいいのだ。
きく麿師の絶妙なポジションニングに今後注目したい。

というわけで、正月の振り返りはおしまい。

作成者: でっち定吉

落語好きのライターです。 ご連絡の際は、ツイッターからメッセージをお願いいたします。 https://twitter.com/detchi_sada 落語関係の仕事もお受けします。