2021年正月のTV落語

毎年、NHK「東西笑いの殿堂」を中心に、正月のTV落語・演芸の振り返りをしている。
今年はラジオ聴くのに忙しく、そんなには見ていない。TBSのドリーム東西ネタ合戦は楽しんだ。
陣内智則という人は改めてすごい。完成度の高いネタをスベリ扱いされ、チーム全体の勝敗まで責任を負わされるという、そんな役割を果たせる芸人はそうそういない。

相変わらず、爆笑問題は東西笑いの殿堂の司会の座から動かない。
まあ、裏口入学裁判も一段落したことだし。田中はケンミンショー司会に抜擢されるなど前途洋々だし。でもなんだかなあ。
昨年もいろいろ書いたので繰り返さない。
そしてあそこの地位に取って代わると思っていたナイツはまた末広亭に戻されてしまった。寄席に出番がある以上、ガッカリすることでもないが。

しかし例年に比べてもなんだか、グダグダな放送でした。無観客でやりにくいにしても。
途中に挟み込んでいた、爆笑問題と中川家の即興ギャグ対決は特にひどかった。
なんだか、民放の演出に憧れている純粋NHKの人が、うわべだけ真似してダダすべりした感じ。
中川家に得意ネタを披露させ、爆問にスベらせるという演出、いかにも面白そうに思えるが、民放だったらそこに至るまでに入念な準備があるものだろう。

東のトリはなんと堺すすむ先生。え、なんで?
子供の頃からずっと見続けている色物さん。悪く言う気はないが、でも「なんでかフラメンコ」でもなく、トリで出る意味がわからない。
田舎のおっさんの病名を当てさせる(盲腸と誤認させる)ネタでもって、芸人たちのほうを向くすすむ先生。
だが画面に映し出されていたインディアンス、令和ロマンでない誰かが「風邪」という正解を発する。
声を出すなら「盲腸」って騙されておかないと。これで台なし。
その後、「蛙が大人か子供か」というクイズに対して、ちゃんと「子供」と不正解を答えていたインディアンス田渕は実に偉い。

こだまひびきの、ツッコミがしくじった高座を挟み、東西どちらが優勝するかも決まらないままグダグダなエンディング。なんだこりゃ。

それはそうと、落語の観点からも、今年はさして見るべきものなし。
唯一、鈴本からの中継で「加賀の千代」を掛けた春風亭一之輔師だけがスーパースターの風格。
加賀の千代は寄席の小品であり、TV向きでもあるので、一之輔師のものは過去にTVで繰り返し聴いている。だが隠居のツッコミや、ツッコミっぽいボケが、さらにグレードアップしていていて驚いた。
一般論だが、よく掛ける噺が噺家さんになじんでくると、しばしば以下の行動と結果が見られる(丁稚調べ)。

  • 毎回微動だにしない固まった高座になる
  • 演者が飽きてしまい、しばらくしまい込む
  • クスグリがエスカレートし、クスグリ過剰落語になる

クスグリ過剰は、一之輔師もうっかりすると入り込みかねないワナ。
だが、これらの袋小路にはまり込まずに、噺をグレードアップし続ける一之輔師、さすが。
最近、あくまでも個人的にだが、この人のことはもっぱらラジオパーソナリティとして認識している。暮れの池袋で交互出演していたので聴くチャンスがあったが、結局新宿に行ってしまった。
ちなみに、その池袋の仲入りでは「睨み返し」を出したそうで、なら2年前に一度聴いたからいいかと自分を納得させている。
もちろん、ネタ出しされていたとしても再度聴きたいぐらいだけど。

スタジオの円楽師も文珍師もほぼ漫談。毎年出ている文珍師、例年はNGKからだが。
円楽師は、時間が押しているので配慮したと語っていた。その点当然の仕事ではあるけど。志らくの悪口を言えるネタでも選んだのか。
NHK新人落語大賞受賞の桂羽光さんもスタジオからで、「ニュー・シネマ・パラダイス」。
面白かったのだけど、なんだか落語ネタの新作はしっくり来ない。これが響く層は、「最近落語に目覚めてハマってます」という人だけな気がする。
私はなにも、初心者を馬鹿にしているわけではない。
落語を題材とした新作落語というものはよくある。彦いち師や百栄師がよく作っている。
だが、私を含めた素人がこういう落語を書いて落語協会のコンクールに応募しても、まず通らない。
その理由が、今回思いっきり腑に落ちたのだった。
プロの作った落語を悪い例にして、プロの落語審査のあり方を理解する。これは演者の羽光さんにも、柳家小ゑん師などの審査員にも失礼な感想なのだが、そう感じたのだった。
そんな私は相変わらず、新作落語を書いても落語ネタしか作れない。ダメじゃん。

例年通り芸協の寄席中継は新宿末広亭だが、なんと落語なし。いいのか芸協? 円楽師は客員だ。
番組を変更してTV用にぶつけたのが、「ナオユキ」「ナイツ」そして神田伯山。
この3組をセレクトしたところまではいいのけど。芸協の噺家はつまらないと断言したのも同然ではないか。

それはそうと、ナオユキが芸協代表であること自体は、私はとても嬉しい。
東京の寄席を代表する芸だという認定を得たようなもの。大阪弁だが。
冒頭の、ナイツと伯山先生の掛け合いでもって、ナイツが「Wモアモア」という名前を出したので、私のブログにこの関係の訪問者が少々ありました。

大阪は吉本と松竹だが、またレベルの差が開いた。落語協会と芸協のレベル程度では済まない。
吉本はミルクボーイ以外もみな面白い。
正月だから、ベテラン頼りの松竹が悪いとは言わぬ。でもこの先、いったいどうなるのだろう。
笑福亭羽光さんは松竹ですけどね。実は芸協と松竹、両方の期待を背負わされていたのだった。

明日は、年末年始のラジオの話です。

作成者: でっち定吉

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