ラジオ「ネオ上方落語宣言」より(上)

年末年始はradikoプレミアムでもってラジオ三昧。
なにしろナイツの帯を全部聴かないとならない(なんで義務なんだ)。一之輔師がそのナイツの番組にゲストで出たのはやたら面白かった。

落語絡みで、さらに面白い番組があった。
大阪・MBSラジオで流れた「ネオ上方落語宣言」という単発もの。
上方落語家4組8人が対談し、上方落語の未来を考えるという真面目な企画。ホスト役は天満天神繁昌亭の豊田支配人。
誰も彼も、東京の落語界を強く意識している。
年末聴いて実に聴きごたえがあったので、年始に再聴させてもらった。

まず、「桂文鹿」「笑福亭たま」のふたりから。
天満天神繁昌亭の番組づくりについて語る。
現在の番組は、とにかく平等に顔付けされている。寄席を根付かせる点ではこれでよかったが、これからどうすればいいのかと。
抜擢をもっとしろと言う人は多い。ここでいう抜擢とは、序列を破って若手を後ろに持っていくこと。
東京でも、クイツキを二ツ目に任せたりするが、これは抜擢による。
だが、抜擢しろと声を出す人間は、自分が人気と実力があると勘違いしているやつなのだとたま師。
席亭が番組を作る東京では、人気が明確に目に見えている。だが大阪では、客観的な人気を測っていないどころか、「傷つく人が出るから」なんて理由で人気の指標を調べようとすらしないのだ。

ふたりの話は、「みんなが無理に後ろの出番を担おうとする必要はない」というところに落ち着く。
まだまだ落語初心者の多い大阪では、後ろばかり手厚くして、前がスカスカになると、もう客の気がそれてしまうと。
むしろ前を充実させるべきなのだとふたりは語る。後ろの出番を担うベテラン噺家は、たとえ面白くなくても客に、「俺にはわからんがこういう世界もあるのだ」と理解させられる。

いいことを語るなと思ういっぽうで、東京の寄席に通う私は、ふたりを含めた上方落語家の認識に、重大な欠落を感じたのである。次の通り。

  • そもそも噺家どうしで、なぜそんなに張り合うのかという問題
  • 寄席の存在を、初心者を獲得する仕掛けと割り切りすぎ

東京の寄席では、修業の早い時分から「チームワーク」の概念を叩き込まれるはず。若手の二ツ目でも、早い出番で自分の役割を考え、その場に合わせることを知っている。
そして当然ながら、東京でトリや仲入りを任される人の認識は、「自分は落語界で地位が高い」だけのことではない。
これらの人だって、早い出番に入ることもあるのだ。他場との掛け持ちがあるから。
柳家喬太郎師だって、鈴本や池袋でトリを取る前の新宿末広亭で、浅い出番に出て軽くやったりするし。

東京に行って、寄席の作法を学んだのが笑福亭鶴光師。
鶴光師も東京の寄席でトリを取るが、その代わり自分が浅い出番やヒザ前なら、しっかりトリの師匠を立てる。そうすることで、みんなが真にハッピーになる。

参考記事:落語にまつわるいい話《笑福亭鶴光師匠編》

鶴光師、大阪の出番の際には若手に寄席の心構えを語るそうだ。だが鶴光師の思いは、大阪の若手にまったく浸透していないことを再確認。
この点非常に残念に思った。
彼ら若手上方落語家は、東京の落語界について「見習う」「違う道を探す」の2通り、そしてこれを組み合わせたアプローチ手法しか持っていない。
実際には、見習ってもいないし、違う道も見つけられていない。きっと見つからないだろう。
東京の寄席のチームプレイをまったく理解できていないのだから当たり前だ。
どちらかといえば上方落語家の意識としては、「笑わせないと評価されない」ので、東京と別の方法論を見つけたいのが強そう。だが私には大いに疑問。
お笑い王国大阪にいる「笑いたい」だけの人が、わざわざ落語にやってくるか?

そして、繁昌亭を初心者獲得の場として割り切ろうというするのもまるで違うのでは。
東京では、スレたファンも寄席に行く。
ディープなファンを放置した寄席なんて、長続きしないだろうと思う。

明日取り上げる鉄瓶師によると、文鹿師は繁昌亭の番組について「アカン奴は出すな」という考えらしい。
「アカン奴が出られない」のが正義だというところまではいいとして、誰がそれを決める?
現実離れした空論だ。
これについては先に書いたものをご参照いただきたい。

寄席の機会均等を考える

続いての対談は「桂雀太」「桂二葉」のふたり。いずれも米朝一門。
雀太師はNHK新人落語大賞を獲っており、二葉さんは昨年出場した。
関西のラジオでたまに雀太師を聴くが、実にいい噺家だと思う。
雀太師は、米朝事務所を(円満に)辞めている。これは東京の噺家を見ての行動らしい。
東京の噺家は、プロダクションに入っていない人が多い。大阪は、噺家のほとんどが吉本か松竹、または米朝事務所所属。
雀太師は、この構造のおかげで大阪には落語のプロデューサーがいないと嘆く。小佐田定雄先生にこれを期待するのであるが。
確かに、この番組にしてから、多数を占める吉本興業所属の噺家がひとりも参加していない。ABCラジオ「なみはや亭」の出番も少ない。

二葉さんは、繁昌亭に出ても、いつもトップバッターなのが残念そう。東京では、番組に含まれない前座の出番。
二ツ目に出られればまた違う噺もできるのにと。いつも「つる」ばっかり。
この不満については、掛ける言葉がない。気の毒という前に、「そんなもんだろ」としか。
見事なつるを魅せれば、ちゃんと客が覚えておいてくれて、落語会にも来てくれるはず。
それにその気になれば前座噺は、他にもまだまだ多数ある。二葉さん、柳家権太楼師にまで、「持ちネタが少ない」と公開で指摘されてたものな。
若手については、東京は恵まれているなと私は思う。神田連雀亭や、落語協会員に限るが黒門亭の「光る二ツ目の会」などで、寄席の形態のままさまざまな可能性を試せるのだから。

続きます。

 

作成者: でっち定吉

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