あざみ野新春寄席(上・金原亭馬太郎「狸の鯉」)

毎日更新、しない日もたまにあるでっち定吉らくご日常&非日常です。
緊急事態宣言でまたネタ切れを起こしました。しかし今日は、落語を聴いてきたので撮って出し。
このご時世に落語を聴きにいくというのも、人に言いづらい。
しかも県境をまたいで東京から横浜市あざみ野へ。昨年ずいぶん前に取った会なので、許して下さいな。
不要不急だろうと言われれば、まあそうだが。
しかし、噺家の生活だって考えないとならない。

金原亭馬玉師の独演会である。
若手真打の馬玉師、実にいい噺家だが、まだ落語協会の寄席で常にお目に掛かるというほどでもない。積極的に機会を見つけて聴きにいかないといけないし、その価値がある。
そして、二ツ目の馬太郎さんも私の注目株である。

土曜日、下りの田園都市線は学生でいっぱいだが、多摩川を渡る学生は少ない。
行きも帰りも、二子玉川⇔溝の口間、つまり県境をまたいで乗る客は少なめ。
あざみ野という街は、乗り換え以外で降りるのは初めてだ。田園都市線の他の街と同様、駅から離れるとすぐなにもなくなる。そんなところに会場の「横浜市民ギャラリーあざみ野」がある。

たぬき(札・鯉) 馬太郎
和助
寝床 馬玉
(仲入り)
ふぐ鍋 一左
品川心中 馬玉

 

座席は流行りの、壁際に収納できるタイプ。
ソーシャルディスタンスを守り市松模様に着席。50席の予定枚数終了とのことだったが、さすがにキャンセルが多いのではないかと予想。
だが、意外と埋まっていた。

開口一番は馬太郎さん。2019年末の黒門亭で聴いて感心して以来。
人間のバクチに混ざりたいたぬきの小噺。狸賽でもやるのかなと思ったが、狸札。まあ、前座替りにということなんだろう。
若手なのに、現代的ギャグを盛り込む誘惑に一切駆られない。昔ながらのクスグリだけで堂々と語り切る。
そして部分部分が少しずつ省略されているため、もたつくシーンがまるでない。大きな笑い声は上がらないが、どんどん楽しくなってくる。
たぬきの5円札の、裏側の毛をなでて消していく描写が見事。リアリティのかけらもない噺に、落語の中のリアルが湧いてくる。
そしてさりげなく、たぬきが小便を我慢する伏線を入れる。これは大して回収しないけど。
たぬきがお札をお土産にして戻ってきて、まだ終わらない。
今度こそ狸賽かと思ったのだが、珍しい「狸の鯉」だった。

鯉に入ってもスピーディな展開でもたつかない。といって、急くわけではなく、むしろゆっくりしたイメージ。
鯉に化けてくれと頼むと、鯉のぼりになってしまう。だが、お札と同様、男がなでると鯉に変わる。実に見事なシーン。
噺の中の画がよく浮かぶ点、馬太郎さんはさすがだ。
そして最後は、たぬきの化けた鯉が、命からがら尾っぽでもって逃げていくシーン。これもまた、実におかしい。

続いては翁家和助師匠の太神楽。今日はひとり。一人で務める舞台を観るのは、記憶を遡っても覚えがない。
奥さんの小花さん、私の知らないうちに育休中だったりする?
合いの手の入らないひとり芸でも、この人は面白い。

寄席の短い時間と違い、たっぷり務める。
傘回しと五階茶碗、そして急須。五階茶碗は、寄席ではやりかけて、手が短いので奥さんに代わるのがパターンだが。
寄席ではここまでだが、さらに先がある。
皿回しをしながら、皿を支える篠笛で、笑点のテーマを吹く。まったく初めて観る芸。
それから、ナイツのお笑い演芸館で出していた、出刃包丁での皿回し。
先に上がった馬太郎さんを呼び寄せ、頭の上で包丁皿回しをしてみせる。

実に楽しい舞台。落語の彩だけではない。
最近、タモリ倶楽部に出ていた、笑いの欠けた若手太神楽師たちに苦言を呈したところなのだ。
だが若手にとって実にいい、太神楽の見本がここにいる。
和助師匠も、国立劇場の養成所を出てるのだ。

客が手を叩きやすいように、そのヒントを与えるのも上手い。
といって、拍手の催促になるといやらしい。客の盛り上がってきた気持ちを見抜き、絶妙なタイミングで「はいー」と声を入れるので、客にとっても優しい芸。
寄席でもあるのだけど、手を叩こうとする人がいる中で、「まだまだ」という雰囲気が漂ったりする。そうこうしているうちに、入れるべき拍手をし損ねて、変な空気が流れたりなんかして。
そうした不自然さのまったくない、実に見事な芸である。

続きます。

 

作成者: でっち定吉

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