あざみ野新春寄席(中・金原亭馬玉「寝床」)

寝床・佃祭

緊急事態宣言下の落語会の模様を続けます。
ちなみにこの会場、天井も高く、ディスタンスも確保されていて、クラスターが起こりそうな気は一切しない。

主役の馬玉師が黒紋付で登場。
当ブログでも、師の配信のトリを取り上げたりしたが、生の高座に接するのは2018年夏の鈴本以来である。
同時入門の馬治師ともども鈴本がプッシュしていて、トリも毎年ある。一度行きたいものである。

こんなご時世にこれだけ集まってくださってありがとうございますと挨拶から。
芸人、お客さまのおかげですなんてみんな言いますが、本当に思っているのはあたしだけ。
江戸時代の稽古から、義太夫について。寝床だ。

馬玉師の落語は、(あまり好きな言葉でないのだが)本寸法。噺をじっくり語っていく人。
この一門はみなそう。
高い声が官能的な人であるが、語り自体はどこがどう目立つというものでない。だが、淀みなく進んでいつの間にか終わっているような、つるんとした落語でもない。
ちゃんと楽しいおはなしが、聴き手の耳に引っ掛かっていく。
ただ、悪い引っ掛かりはない。隠居が、主人の義太夫に当てられてギダ熱を起こしたなんてギャグに、まるで悲壮感がない。
あまり話を深掘りしすぎないので、客が勝手にマイナス部分を感じることなどないのである。
この主人、被害者の立場になったらたまらない人だが、そんな描き方はしない。

そして馬玉師、見事な編集力。
時間の関係もありそうに思うが、馬玉師の持っている寝床自体がシンプルで、それをよしとするみたいだ。出てきたカシラが、主人の前で言いわけしてはボロを出すシーンなど入っていない。
繁蔵が同僚たちの言いわけをするのに「なんにしましょ」などもない。故郷の母親のことも、ごくさらっと。
番頭もひとりしかいない。
実にスピーディで、中身の充実している見事な寝床だ。御簾を使う理由も、さらっと説明。
これなら、寄席の仲入りでもできる。

オリジナルギャグは1か所だけ。主人に蔵の中で義太夫を流し込まれた番頭、北朝鮮に渡ってテポドン作っているんだそうだ。
これは、大大師匠の志ん生が「番頭さんはドイツに行った」と入れていたオマージュだ。

いい気分で仲入り休憩へ。

仲入り後も、引き続き馬玉師のメクリが出たまま。
だが、上がってきたのは別の人。
「この会場の前をたまたま通りかかりましたら、馬玉師匠にぜひにと言われて高座に上がりました。ただ、着物持参で通りがかったんですが」。
で、あんた誰と思ったが、「メクリがなくてすみません。春風亭一左と申します」。
ああ、コロナ禍の気の毒な新真打の一左師。昨年の昇進組でもっとも興味があったのがこの人だが、高座には一度も遭遇したことがなかった。
一朝門下10人のうち、最後に一左師を聴く。外れのいない一門。

緊急事態宣言下、仕事のなくなる新真打への、馬玉師の配慮のようである。
一左さんは秦野市出身で、高校で馬玉師と一緒だったのだそうだ。愛甲石田にある、県立伊志田高校。
ちなみに馬玉師は、大山のお膝元の伊勢原。
高校の同級生といっても、一左師は馬玉師が二ツ目になった後で入門しているので、香盤は全然違うのだが、仲がいいようだ。
我々、横浜市民のみなさんと同じ神奈川県民ですからと一左師。まあ、線が違うじゃないかとよく言われますが。

フグ毒を皆が恐れた時代を説明して、ふぐ鍋。ここ数年、やたら冬に聴くようになった。
明らかに流行っている演目。
飛び入りゲストだという遠慮もなくはなかろうが、一左師のスタイルも馬玉師のものとよく似ていて、展開がスピーディ。
ふぐ鍋は、膨らませようとするととことん膨らむネタだが、まっすぐ「フグの毒身を乞食にさせる」というテーマに向かっていく。
だからいよいよ食べる場面になり、フグを口にはすぐ入れるのである。そこで呑み込めなくて、主人が客に(口が利けないので手ぶりで)噛むのを促すのがとっておきのギャグ。
ただ、グルメな描写に時間を掛けていられないのはわかるが、せめて最後に雑炊ぐらい出して欲しいな。客の脳裏に与える影響が結構違ってくるのではないかと、これはマジに思うのだが。

ちなみに東京で聴くふぐ鍋は、だいたい客が幇間なのであるが、一般人。「大橋さん」という名前を持っている。
大橋さんはあきらかに上方から来ている名前。先代(三代目)林家染丸の本名である。

続きます。

 

作成者: でっち定吉

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