あざみ野新春寄席(下・金原亭馬玉「品川心中」)

 

緊急事態宣言下のあざみ野新春寄席、いつものように普通に始めてしまったのだが、これが今年初めての落語であったことをようやく思い出した。
1年の最初というくくり、そんなに重視しているわけではない。だが落語についてだけはそれなりに心して掛かりたいものである。
神田連雀亭や亀戸も行こうと思っていたのだが、寄席だと当日になって、「無理に出かけることもないか」と思ってしまうので。私にだって世間体はあるのだ。
ともかく、新春一発目に、いい落語を聴けてよかったなと改めて思っている。

さてゲストの一左師によれば、馬玉師は本来、長講一席の予定だったということだ。でも展開がスピーディめの馬玉師には、20分ぐらいの持ち時間のほうが合っているような気がする。
そのぐらいの時間が残ったところで、馬玉師がトリとして再登場。
吉原と並んで栄えた東海道一の宿、品川の話。ということは、品川心中なのだろう。居残り佐平次も品川だが。
品川心中もやはりスピーディだ。
地のセリフが結構多い噺だが、なぜ女郎のお染が死ななければならなくなるかを、ムダなく説明しきる。

お染に呼び出されて心中を決意し、翌日親分の元にあいさつに出向く貸本屋の金蔵。
ぐずぐず時間を掛けないので、金蔵が親分宅に刃物を置いてきてしまうなどという描写はないのである。
そして一応本気で死ぬつもりではあるのに、どこまで行っても冗談ぽさの漂う金蔵。
金蔵を先に海に突き落とすが、カネが急遽できて死ぬのをやめるお染。だが、金蔵に真剣味が足りないので、このお染、別に憎たらしくなどない。
生き死にに悲壮感がないというのは、この噺の重要なポイントだと思う。

ようよう陸に上がった、ざんばら髪で死にぞこないの金蔵に、悲壮感はまるでない。いや、ないことはないけど、なんだか妙に明るいのである。
犬に吠えられつつ深夜の東海道を掛ける姿はとても愉快。
楽しいまま、バクチ場のドタバタで締める。チョイ出の衆たちだが、みな楽しい人たち。親分の背中を天井に駆け上がり、ぬか床に落ちてきんたまを落とし、そして与太郎は厠に落っこちる。
寝床と同様に、登場人物の数を刈り込む馬玉師。腰を抜かした元さむらいの先生などは出てこない。
ちなみに、犬の町内送りもなかった。

その見事な芸が一言で表現しづらい馬玉師だが、後で細かい部分を思い出していくと、ようやく言葉にできるようになってくる。
やはり寝床と同様、最初に着目すべきは噺の編集力、構成力である。
先人の実績を、軽々と自分に合わせて作り替えていく技術。
編集力の欠けた真打だっている。編集力が足りないと、聴いていてどこかに引っ掛かってしまう。
ムダな展開に時間を掛けてるなとか、クスグリ過剰だなとか。あるいは単に長いなとか。
一席軽やかに、ストレスフリーで終了する馬玉師の落語、非常に構成が巧みであることがわかる。
そして、演技が自然なおかげで、変に引っ掛からない。
大満足の一席。

会場もなかなかよかったので、機会があればまたあざみ野に来たい。
会場で長津田の「みどり花形寄席」の第2回のチラシをもらった。この会は、11月に第1回に出向いたところ。
第2回のメンバーが、柳家花いちさんから笑福亭羽光さんに代わっている。羽光さんは三島在住だから、当然横浜市民ではない。
2月22日の昼間だ。行こうかな。その前に、世間がいったいどうなっているかだが。

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作成者: でっち定吉

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