桂宮治は政治批判落語のエース?

いよいよ2月中席から、新宿末広亭を皮切りに桂宮治の真打披露開始。
昨年の伯山襲名と同じ日程。コロナ禍で気の毒ではあるが、昨年から団体問わずみんなそうだからな。
愛嬌と毒舌の二面性を兼ね備えたこの人、才人であることは疑っていないが、私は披露目には行かないと思う。
現状の宮治さんの、毒のほうがちょっと。
ピコピコハンマーで人の頭を殴り続ける芸と認識している。痛くはないが、殴られ続けて徐々に心中ざわざわしていく。
まあ、殴られているのは他人だと認識している客にとっては、まったく気にならないだろう。私はそうじゃないので。
まあ昇進後、芸協の寄席でいずれまたお目に掛かることだろう。寄席の短い時間で毒はそうそう吐けない。スタイルも変わっていくと思う。

らんまんラジオ寄席を聴いたら、この人の特集だった。
前半はインタビュー。メディアのインタビューだと、実に好青年である。青年という年齢じゃないが、でもそう思う。
厳しい年下の先輩たちのおかげで今があるなどと殊勝なことを言う。
笑点特大号でもそうだ。この人のダークな側面を、BSの視聴者たちは知らない。
この好青年振りが偽りの姿にも思えない。だからといって、高座で無理に毒を吐いているとも思わない。それはやっぱり吐きたくて吐いている様子。
かなりややこしい人ではある。

ラジオの後半は、宮治さんの「蜘蛛駕籠」。落語協会の師匠に教わったものだろうか?
決して悪い高座ではないものの、私はこの噺が好きなため、若干厳しめな感想。
壊すなら壊せばいいが、中途半端で変に浮わっついていている一席だという印象。だが今日は別に、批判を展開したいわけではなく、むしろ褒める。

マクラと、それから本編どさくさに紛れ、都合二度吐いていた、「Go Toで全国行けって言っておいて、大変になったら緊急事態か」という宮治さんの手短な政治批判について取り上げたくなったのだ。
本編では、「あら熊さん」の酔っ払いにこう言わせていた。
政権批判の、その中身を取り上げるのではありません。Go Toトラベルの是非はこの際関係ない。
これほど、スパッと言い切る噺家の政治批判、そうそうない。本編の出来とは無関係に、そこにかなり感心してしまった。

芸人の行う政治の批判は、決して好きではない。私自身がどうこう言うのは好きだが(勝手だな)。
いろんな客がいていろんな思想がある。芸人が高座の高いところから、一方的な立場で政治を語ったら嫌で仕方ない。
圓歌師の歴代総理ぶった切りぐらいやってくれないと、中途半端でいけない。
茂木健一郎は日本の笑いに政治批判が足りないと芸人たちを批判するが、政治を語る笑いがすなわち高度だと思っているなら勘違いにもほどがある。笑いのセンスもないくせにと逆襲されるだけ。
それに、政治を語れと言う人に限って、野党を俎上に載せるのは気に入らなかったりして。
政治を茶化すこと自体は、茂木の知らない領域で、寄席芸人は普通にやっている。ロケット団やナイツや、ザ・ニュースペーパーやら。
もちろん、茶化すことが政治の批判になるのかというと、全然違うけど。
ニュースペーパーは100%政治ネタだが、志位委員長が出てきて「共産党は赤旗の売上で運営する資本主義です」なんてネタを平気で入れてくる。
これなど、安倍ネタ、トランプネタを聴いて喜んだあとで、勝手にずっこける人もいそうだ。

「ネタで政治を語れ」なんて見解を突き詰めると、舞台で政治ネタなんかいっさいやらない「おしどり」も、それはそれでよくないってことになるんじゃないのか。
落語においては、まず客との共感が絶対に必要だと思っている。政治ネタだって、客の共感を前提にやって欲しい。
村本みたいな共感を拒否する芸を褒めているようではセンスがなさすぎる。
そういえば笑点の円楽師の政治批判も、嫌いな人は多い。
あの程度で怒るなんてと思ういっぽう、私も全然好きではないのだった。歌丸師と違っていかにもな紋切り型。
本当は調和を大事にしている円楽師、あんな仕事はニンじゃないのでは。

こうした私の持つ前提の上で、桂宮治はどうか。
もうすごい。自分がバカになって発信している。高い立場に勝手に立って、政権を批判するようなやり方じゃないのだ。
政治批判ネタに必ず付随する反作用、「お前何様だよ」が一切湧かない。
まさに、毒を以て毒を制す。
彼のマシンガントークが、同業者に向けられたとき、私は拒絶反応を起こしたものだ。あまりにも生々しくて。
自分のファンでもない一般の人の前で、よくあんなことができたものだ。
だが、ラジオでやってるさりげない政権批判、具体的な相手がいない。菅首相の顔すら浮かんでこない。
しかしだからこそ、世相にもやもやしている客の共感を、一挙につかむことができる。

まあ、馬鹿にならずに批判するようになったら、たちまち嫌味になると思う。
今後もこの点に注目したい。

作成者: でっち定吉

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