自宅で昔昔亭桃太郎を味わう

ネタ切れで朝の更新をせず、すみません。半ちくになっている続き物も、集中しないと書けない。
絞り出すように今日のネタをひとつ。

HDDが落語で溢れている。整理しないと。
たまに演者ごとにBDにまとめる。演者だけで6時間分になることは少ないので、一門ごとにまとめたり。新作だけでまとめたりもする。
そろそろ昔昔亭桃太郎師匠で1枚作れそうだなと。
6時間にはならなかったが、弟子(A太郎、喜太郎)も併せて4時間半になった。計16本。うち師匠が14本。なかなかの量。
わずか4年弱でこれだけ貯まるのだからすごい。
これ以前の録画は、新作落語としてまとめてある。
桃ちゃんだけで1枚作るなんてことは今までなかったので、恐らく放送の頻度が大幅に増えているのだ。
桃太郎師の録画について、番組の内訳は、「浅草お茶の間寄席」がダントツに多くて12本。これ以外2本が「日本の話芸」。
あと、実際に観覧した笑点特大号の「裕次郎物語」もあるのだが、観覧の記念に、舞台順にオンエアをまとめてしまったので移せない。
演目は、重複が多い。

  • 結婚相談所・・・2本
  • お見合い中・・・2本
  • ぜんざい公社・・2本

これ以外は、「裕次郎物語」「金満家族」「春雨宿」「カラオケ病院」「やかん」「浮世床」「夜店風景」。
夜店風景とは、芸協の寄席でよく出る「秘伝書」のことである。昔風の呼び名。
「浮世床」だけやや珍しいのではないかと思うのだが、あとはおおむね桃ちゃんのよくやるネタ。
自作あり、芸協新作あり、師匠・柳昇の噺あり。古典も少々。意外とバラエティに富んでいる。
このディスクを聴きながら寝てみようか。

今回まとめた噺の中で最も古い、2017年の「お見合い中」から、季節を問わず年賀状の話からマクラを始めるようだ。
そして、手ぬぐいを年賀状に見立て、自慢に充ちた腹立つ年賀状を放り投げる。
最前列の客が拾ってくれるので、懐からお土産を出して渡す。ティッシュらしい。
日本の話芸の収録である東京落語会ではこれができないようで、手元で放って自分で拾っていた。
いっぽうで「せこい茶碗」は浅草の客には知られ過ぎ、もうあまり受けないようだ。すでに直近ではやっていない。
「浮世床」は本当に正月の収録だが、ここでも年賀状ネタから。しかし、楽屋に手ぬぐいを忘れてきてしまう師匠。
前座さんが届けに来ていた。
この高座では、「辰ちゃん」と言うべきところを、「権ちゃん」と言ってしまう。前日に本物の権ちゃん(柳家権太楼師)に会ったためだって。
年々間違いが増えていて、「カラオケ病院」では歌の前に宣言する「○番」を間違えるし。結婚相談所の「○○大学です」では、「東邦大学」を二度言ってしまう。
だが、いいんだ。ますます面白くなっているんだから。

落語界において、実に不思議な位置づけにある師匠である。
新作落語メインだから、いにしえの「新作の芸協」の流れを汲んでいるように一見思う。だが、作る落語の種類はだいぶ異なる。
「お見合い中」「結婚相談所」「金満家族」などの自作新作は、いにしえの芸協新作とは大きく異なる。桃ちゃんの噺は、枠組みからぶっ壊している作品ばかりだ。
新作落語でよく見る手法が、整合性を取ろうとせず、むしろ無茶な状況を入れてくるもの。古今亭駒治師が得意にしている。
しかしこの見事な手法も、一応は整合性のあるストーリーだという前提があるからこそ、裏切りとして機能するのである。
桃ちゃんの自作落語で整合性が取れているのは、冒頭の一瞬だけ。どうしてこんなことができるのか、奇跡のような手法。
師匠・柳昇にもこのムードはあった。だからこそ、他の芸協新作と異なり現代でもなお生きているのだろう。
柳昇新作にはかろうじてあった、世界自体はまっとうだというお約束を無視してしまったのが桃ちゃん落語。
もっとも、演者の個性なくしてはできない落語ばかり。桃ちゃん落語は弟子も含め、他人は誰もやらない。やれない。

高田文夫先生に勧められるまで古典落語はやらなかった師匠だが、自作新作にも古典落語の下地はしっかり含まれている。ぶっ壊した設定だからこそ、聴き手にフックを掛ける点で重要なのだろう。
「結婚相談所」では、「どこから来ました」「家からです」「家はどこですか」「八百屋の隣です」という、「鷺とり」のやり取りが入っている。
「お見合い中」では、お見合いの首尾を訊かれる息子が「1回目は向うが断ってきた」「2回目はこっちが断わられた」。これは「大安売り」。

御年75歳の昔昔亭桃太郎師。今最高に面白い噺家です。

作成者: でっち定吉

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