シルバー無料落語@渋谷

タダ落語大好きの丁稚定吉です。
東京かわら版をよく読むと、結構タダの落語はあるものである。今回出没するのはこんなイベント。
《六代目三遊亭円楽師匠の講演と若手グループによる落語》
噺家さんに敬称を付けるのは私もしているが、イベントのタイトルに「師匠」が入っているとは珍しい。
渋谷駅から桜坂を登った先の桜丘町、文化総合センター大和田内「さくらホール」で金曜日のまっ昼間から。主宰は渋谷区シルバー人材センター。
仕事の区切りがいいので行ってきた。私が聴きたいのは前半の「若手グループによる落語」だけ。円楽師匠の講演も、もっと暇だったら聴くにやぶさかではないのだが・・・
その「若手グループ」。三団体の二ツ目さんである。行ってみるとネタ出しで、メクリにも演題が書いてあった。

わん丈 / 親子酒
昇々  / 初天神
好の助 / 締め込み

所属はそれぞれ、落語協会、芸術協会、円楽党とバランスいい。師匠は円丈、昇太、好楽。
先代圓楽を書籍「ご乱心」でぼろくそにやっつけた円丈師の弟子、わん丈と、やっつけられたほうの弟子、当代円楽師の共演である。
今どきそんなことは珍しくもないが、ちょっと脳裏をよぎる。

タダで聴かせてもらえるのがありがたいメンバー。とりあえず早めに行ってみる。
ホール入口受付に、関係者が佃煮にするほど集結していた。
無料にとどまらず、お菓子とお茶まで入口で配っていた。ありがとう。
平日昼間ならどんな落語会でもそうだが、さらに主催者がシルバー人材センター。年寄率ほぼ100%。
若者の街に、これだけ年寄りの人口密度が高い場所が存在するとは、都会のミステリー。この人たち、近所の人もいるだろうがそれ以外、桜坂をどう登ってきたのだろう。コミュニティバスはあるが。
途中で帰ることだし、小さくなって立派なホールの一番後ろに席を取る。
大入りである。だが、前列4列は招待席で空けてあってなおかつガラガラ。なんだかな。
主催者の挨拶と、渋谷区長の挨拶からスタート。
若い長谷部区長は人気があり、拍手が起こる。先日の男子モーグル銅メダリスト、渋谷区出身の原選手のネタを降ってさらに拍手喝采。
落語についてはまるで触れなかったが、スピーチ抜群に上手いし、次の選挙も安泰ですな区長。

でも、区長の挨拶聴きに来たわけじゃない。渋谷区民でもないし。
私も一応は大人だから、いきなり挨拶が続く会の構造そのものに文句は言わぬ。だが、なんとはなく、尻の座りの悪さを感じ出す。
地元の会だったとしても、同じ居心地だと思う。行政が絡むとどうも・・・
一番後ろの扉前に、入れ代わり立ち代わり関係者が立って、客を見下ろしているのもうっとうしい。
タダの落語会もいいのだけど、お金払わない代償に、必ずなんらかの精神的負担はつきまといますね。お茶とお菓子は精神的負担の埋め合わせなのか。
まあ、罰が当たるので文句は以上にしておく。

三遊亭わん丈「親子酒」

キャリアのまだ浅い三遊亭わん丈さんは、若手の注目株だが初めて。
上手いのでTVにも呼ばれている。ミッドナイト寄席と、NHK演芸図鑑で古典落語を聴いたが、いずれもなかなかのものだった。
円丈一門だが古典がメインみたい。天どん師など両刀だけど、新作やらないという人は一門にはいない。
わん丈さん、会場を埋め尽くす年寄りに、携帯の電源切って欲しいというお願いから。
なぜ携帯切らないといけないか。電話が途中で鳴ると、円楽師が不機嫌になるから。
円楽師、不機嫌になったとしてもお客さんにはそれを向けたりしないが、われわれ若手にとばっちりが来ますからと。
音の鳴るものは切っていただいて、ポケベルをお持ちの方は早く買い替えていただきたい。
さらに故郷滋賀県、それから家族(母とおばあちゃん)のマクラでよくウケる。
東京の噺家で二ツ目になった滋賀県出身者は、わん丈さんが初めて。これはマクラで語った内容ではないが、地元は「滋賀県初の二ツ目誕生」ということでちょっとした特需になったそうで、二ツ目制度のない同郷の上方落語家たちが随分羨ましがっていたそうである。
最初から年寄りに照準を合わせていて、おばあちゃんと振り込め詐欺のマクラなど、大いにウケていた。器用な人だ。
世慣れていて、大人が喜ぶ話ができるのは立派。

客の気持ちにマッチした、マクラの大きなウケ具合からすると、本編に入ってちょっと普通になってしまった。
親子酒はみんなやる噺だからな。
そうはいっても、工夫は結構あった。息子が、帰宅の挨拶をちゃんとできなくて、そこで初めて酔っぱらっているのがわかるシーンなど。
サゲも従来のものだが、語順を変えていた。

わん丈さん、今後に大きく期待。できれば新作も聴きたい。

春風亭昇々「初天神」

狂気という飛び道具を隠し持つ天才噺家、春風亭昇々さんであるが、ひょっとして年寄りは得意でないのかもしれないと思った。子供番組に出演していることもあり、大人モードに切り替えづらいところがあるかも。
いつものマクラを順に振っていたが、わん丈さんのマクラがウケていた分、やや客に蹴られ気味に感じる。
客に拍手をもらった際、「なんで拍手してるんです?」とギャグで返したのが冷たく聴こえ、ちょっと拒否感を与えたのかもしれない。確かに拍手するような場面などなかったが。

昇々さんの「初天神」は3か月前に東神奈川で聴いた。非常に面白く、当ブログでも激賞した。
とはいえ、元来のべつに聴く噺。さすがに続けてはどうだろう。ネタ出しの演目、知っていたら来なかったと思う。
蹴られ気味でスロースタートであるが、金坊の狂気が充満してきてからは、結構盛り上がっていた。
「なんでおとっつぁん、そんな大声出すんだよ」
「前のほうに寝てる人がいるんだよ。一生懸命やってるのに」
前回も聴いたギャグ。初天神ではお約束らしい。
前回はさらに「500円でこれだけやっているのに」と安い入場料にも触れていた。今日はタダだからねえ、さらにいじると反感買うかもしれぬ。
団子のサゲに「ぽちゃん」はなかった。真っ白になったところでサゲ。
昇々さんも、常に噺を工夫はしているのだ。
マクラが蹴られ気味だった分、今日はやや残念なデキ。落語は客との共同作業だから、客の気持ちに沿えないとどうにもならない。

この日の私、自分が楽しかったかどうかよりも、若手の噺家が、年寄りの笑点ファンにちゃんと笑ってもらっていたかどうかを気にするという、変なモードに入り込んでしまった。
これも、会の雰囲気がそうさせるのである。
もっとも、年寄り率、笑点ファン率が高いから違う落語をしなきゃいかないかというと、そうでもないと思う。設定のぶっ飛んだ新作でも上手い人が語れば、どんな席でもしっかりウケるもの。
といいながら、円楽師匠の講演は歌丸いじりから始まるんだろうな。

三遊亭好の助「締め込み」

三遊亭好の助さんは初めて。円楽党は昨年来だいぶ詳しくなったが、まだ聴いていない人もいる。
今年真打に昇進し、好楽師匠の前名である「林家九蔵」を名乗るのだが、そのことには触れない。主役の円楽師に気を遣っているのだろうか。
パンフレットには載っていたので触れてもいいのだけど。
それにしても、「九蔵」の名前は好楽師匠が権利を持っているのだろうからいいとして、「林家」の亭号を名乗るには、各方面の許しもいるんだろうなあと考える。
好楽師、彦六の遺族と、木久扇師には筋を通したらしい。だが、林家本元である海老名家の許可ぐらいは要りそうなのだがどうなんだろう。「あえて許可を取らない」のなら楽しいが。

さて好の助さんも、年寄りにターゲットを絞ったマクラ。老人ホームのネタなど、よくウケていた。
ネタは「締め込み」。それほど掛かる印象はない。今、泥棒噺といえば「鈴ヶ森」が圧倒的に流行っている。あと「だくだく」。
人情噺の雰囲気もある「締め込み」。もっとやったらいいと思うけどなあ。
私は好きなので当ブログでも取り上げている。たまに「うんでば」のキーワード検索でお越しがあります。
工夫のし甲斐が非常にある噺だと思うので、二ツ目さんにはぜひ積極的に掛けてもらいたい。

好の助さんの締め込みだが、ぬかみそが臭いシーンはなし。亭主が出てくるのは早い。
泥棒が湯を浴びて喧嘩の仲裁に入った後、恩人として酒を飲ませてもらう際の工夫が多かった。

あたしゃ指しゃぶってれば酒が飲めるんだから。特にこの人差し指が塩味でいい。鼻くそほじるから。
来るとき忍び足で、帰るとき千鳥足とは想像しなかった。
旨いですねこの酒、どこで盗んだんです(盗まねえよ)・・・角の酒屋ですか。こんど忍び込みます。

などなど、細かいクスグリが噺そのものを膨らませてくれ、気持ちいいものだった。
それに好の助さん、好楽師ゆずりのとぼけ味がある。売れまくっている兄弟子、兼好師とは違う味である。
先日まで、当ブログでは噺家の話術について書いていたが、そこで取り上げたいいほうの例が、早速高座に現れているのを見た。
演者が素の人間としてではなく、キャラをまとって高座に上がっている。
そうなると、たとえ圧倒的な上手さがなくても、非常に楽に聴けるのである。マイナス点がないので、だんだん貯金ができてくる。
終わったときには大きな満足を得られるというわけだ。ああ、これこそまさに好楽一門の個性であり、円楽党の個性でもある。
なかなか期待できそうな、新・林家九蔵。

三人の落語を1時間聴き、円楽師匠の講演を楽しみにしている他の客を尻目に会場を後にしました。
有望な二ツ目さんをタダで聴けた満足と、タダの精神的負担の双方を味わった落語会でした。

作成者: でっち定吉

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