池袋演芸場24 その2(金原亭馬玉「子別れ」後編)

馬玉師の子別れ、冒頭の「強飯の女郎買い」は10分強というところ。
弔いに来てしこたま飲み、寝ていた熊さんが隠居に起こされ、吉原にひとりで出向き、途中で屑屋に会う。
ダイジェスト感はまるでない。
「屑屋」と呼ばれたくない屑屋、熊さんの背中に仕込んだ赤飯とがんもどき、しっかり必要なパーツが詰まっている。
品川で古馴染みの女郎に会うくだりは、すべて家に帰ってきて、かみさんにペラペラ話す(子別れ「中」)。カットバックである。
ここが5分ぐらい。

熊さんは、親方に前借りした金で吉原に泊まっている。そこは後ろめたさたっぷり。
だが、かみさんの前では「なにか文句あるか」という態度を示してしまうのだ。
馬鹿は馬鹿だし、同情の余地もない。だが、トータルで見ればこれも立派な悲劇だ。
この部分も、菊之丞師はスパッとダイジェストにしていて、それがいいと私は理解していた。
だが、熊さんのバカさ加減をしっかり描いておくのも悪くない。後で大して語らなくても、熊さんの劇的な生活改善振りが描かれるというものだ。
噺も深掘りすればするほど、新たに気づくことがあるものである。

編集力の見事な馬玉師、カットバックを多用することで無理のない噺の圧縮に成功している。
そしてそれだけではない。登場人物それぞれについて、別個の真実を描いている。
路上で亀ちゃんに会った熊さん、「狐みたいなおかみさん、まだいるの」と訊かれて、「あんなもんはもう出ていった」と答えている。
熊さんは、「女郎上がりのかみさんが勝手に出ていった」という真実を話しているだけである。
だが亀ちゃんはこれを母親に、「狐みたいなおかみさんは追い出したんだって」と語っている。
嘘、ということもないだろう。亀ちゃんにとっては、大好きな親父が、主体性を持って追い出したのが真実なのだった。

池袋の、わりとツウな客に一言だけいいたい。
馬玉師がサゲを言った後の拍手が早いよ。フライングではないけど。
マナーどうこうじゃなく、感激の余韻をもうちょっと深く味わいませんか?
私も以前は拍手早いほうだったので、言いづらいのだが。1秒の間が欲しい。

冒頭に戻ります。
池袋演芸場の下席は落語協会固定。3時間のコンパクトな寄席。
わりと、若手の真打を主任に抜擢する席だ。先月も柳家小八師だった。
割引券が出ているとなおよかったのだが。池袋にはかわら版割引がない。
中席は国立演芸場に行った。続けて金原亭の芝居。
でも国立に行った時点で、すでに池袋も想定していた。

池袋はまだ市松模様に着席。つ離れしてスタート。
最終的には30近く入っていたか。

転失気枝次
子ほめ小駒
孝行糖柳勢
短命馬治
ホンキートンク
手紙無筆文蔵
干物箱一之輔
(仲入り)
十時打ち駒治
ふたなり馬生
正楽
子別れ馬玉

 

開口一番、前座は春風亭枝次さん。
昨年のこの芝居は、春風亭百栄師のトリだった。弟子の枝次さん、そこで「二人旅」を聴いて以来。
今日は転失気。
飽きている噺の筆頭なのだが、枝次さん、細かいところまで行き届いていてとても楽しい。
地味な工夫ばかりなので忘れてしまいましたがね。だが、噺を聴きながら私は「カレー」をイメージした。
カレー作り、下手な人はすぐにチョコレートとかハチミツとか、おいしくなると聞いてすぐにこういう具材を放り込む。
でも、全体の調和がとれていないと意味がないのだ。
枝次さんは、派手な食材は入れない。本格カレーでスパイスを調合しているのだが、地味なスパイスである「パプリカ」をたっぷり入れている。
赤いパプリカは、たっぷり入れても味を辛くしたりする効果はない。だが、カレーのボディをきちんと作ってくれる。
パプリカたっぷりのカレーでした。見事。
カレーを褒めても人にはまったく伝わらないけどさ。
サゲは自分で考えたのだろうか。
「なら平安時代から」「屁とも思いません」「さよおなら」のいずれでもない、聴いたことのない見事なサゲがついていた。

番組トップバッターは、国立でも聴いたばかりの金原亭小駒さん。
国立では寝てしまって、なんとなく申しわけない気持ちでいた。
今日も眠くなったのだ。これはもう、小駒さんの語りに原因がある。穏やかでとても人を心地よくさせてくれるのだ。
これはこれで得難い特質。
今日は子ほめ。世辞愛嬌のマクラから入るのが珍しい。
八っつぁんが「タダの酒飲ませろ」と言わず、隠居の口から、そんなことを言って品のない八っつぁんだという説明がなされる。
トリの兄弟子、馬玉師と同じ見事なカットバック手法。
子ほめも長い噺であり、本来あまりマクラを振る余地がない。
編集が必要なのだ。馬生一門に伝わる手法なのだろうか。
「どうみても厄そこそこでございます」というサゲは珍しい。
素晴らしい子ほめだったのだが、ひとつ嫌な点が。それも重大な。
訪ねていく家(竹さん、ではない名前だが、忘れた)の主人が、八っつぁんにいちいち怒りすぎ。
非常に穏やかで将来性の高い噺家なのに、素人でも疑問に思う演出。

続きます。

 

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作成者: でっち定吉

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