金原亭馬治師は、トリの馬玉師と同一日入門という人。一緒に二ツ目になり、一緒に真打になった。
そして世間の評価が馬玉師と双璧。嘘みたいなふたり。
二人とも、鈴本ではしばしばトリを取っている。池袋では、馬治師が2019年にトリを取っている。
このところ馬玉師を続けて聴いているが、別に差をつけたわけではない。馬治師のほうも、同程度にどんどん聴いていきたいのだ。
10人同時の真打だが、二人はそこからすでに頭一つ抜け出している。
馬治師の巧みな編集力は馬玉師とよく似ている。声はまったく違うが。
「美人薄命」の説明。
たまに聴くのは「美人はノーパンなので履くめい」だが、そうじゃない。皆さんは長生きしましょうと振って、短命。
寄席の軽い噺。出番的にも向いている。
だがこれまた、馬玉師と同様の素晴らしい一席。
察しの悪すぎる八っつぁん。どうしても、察しのいい客が先に行ってしまうという傾向が、この噺にはある。
客が、「どうしてわからねえんだよ」と思うところが噺の味なのだろうけど、馬治師はひと味もふた味も違う。
この八っつぁん、客のはるか後方に取り残されてはいない。ちょっとだけ後ろにいる。
客は、八っつぁんがわからないのもまあ仕方ないなと思うのである。そして隠居からもそう思われている。
どうしてそんな造形にできるか。やっぱり、即物的なウケを狙わないからだろう。ウケのために八っつぁんを犠牲にしなくていいわけだ。
「くやみを教えてくれ」といって隠居を訪ねているのに、くやみを教わらないで帰ってしまうのだけ気になったのだが。
それはともかく家に帰るとそこにはすごいかみさんがいる。ここからはもう、どれだけウケても問題なし。
金原亭の底力を味わった。こんな楽しい短命があるなんて。
そしてホンキートンク。
2019年にボケのトシさんが脱退し、遊次さんの加入した新生ホンキートンクになってからは初めてお見掛けする。
本来の出演は「笑組」なのだが、代演がホンキートンクだというので、この日かなり楽しみにしてやってきた。
落語協会の色物香盤は、トシ脱退以来ずっと「ホンキートンク弾」だったのだが、現在コンビ名に戻っている。
遊次さんのほうはまだ準会員みたい。ちなみに、三遊亭金翁(先代金馬)師の孫である。当代の甥。
この日出た小駒さんは先代馬生の孫であるが、ホンキートンク遊次のほうをサラブレッドと呼ぶ人はいない。
一之輔師がラジオで、なんでかばん持ちで楽屋に来ていたやつをいきなり「先生」って呼ばなきゃいけないんだって言ってたっけ。
初めて観るこの遊次さん、かなり賑やか。先代を上回る動きだ。
冒頭の、自分で言う「待ってました」から、ホンキートンクの名前の由来をはじめ、先代ホンキートンクのネタが多い。
「(出身は違うけど)親はおんなじなんですよ」とか。終盤の、マッチ、トシちゃんをイントロだけで歌わせないネタも。
同じネタなのに、そこは演じる人が違うので、微妙な角度がついて実に楽しい。そして同時に懐かしい。
ツッコミ担当が変わったって、同じネタをやるのは難しいものだ。
ボケが変わったら、さらに難しいと思うのだけど、実に自然。
ツッコミ、弾さんの変わらずブレないハートを思い知る。そして弾さん自身、(嘘みたいだが)腕が上がっているのだと思う。
相方が変わったという衝撃の人生が、ある種試練になったのだろう。そんなこともあり得るのが芸人の人生。
ネタの多くを、以前から弾さんが作っていたであろうことも想像がつく。
ホンキートンクのネタは、爆笑の間の行間がいいなと改めて思う。ずっとにこやかに眺められる漫才なのだ。
そして、二人の動きがすごくいいなと。
派手なアクションも多いが、派手じゃないときの動きもいい。
いやあ、新生ホンキートンク、すばらしいですよ。
私は、色物については芸協のほうがいいと思っている。だが落語協会の漫才も、ロケット団、ニックスとこのホンキートンクで、またレベルアップしていくことだろう。
次は入船亭扇辰師の出番だが、代演で橘家文蔵師。
これも事前に確認している。文蔵師ならいいやと思ってやってきた。
扇辰師は、今日は喬太郎師と二人会。大須演芸場で「扇々喬々」だそうだ。
まだ高座返しの枝次さんが、除菌スプレーをシュッシュと掛けて拭いているのに、袖から文蔵師がスッと登場。
代演用のメクリを自分で持ってきて、出ているメクリと取り換える。枝次さんが座布団を出す中強引に座ってしまう。
相変わらず、常にふざけている。
口を開いて、「この後バタバタしてるもんでね」。
無筆のマクラ。おなじみの手紙無筆。
文蔵師の噺は、毎回どこか違うのでスリリングである。そして伸び縮みも自由自在。
どこでも落とせる噺なので、終盤どこまで進めるか考える文蔵師。