池袋演芸場24 その4(春風亭一之輔「干物箱」)

高座返しの枝次さんが、文蔵師のメクリを返そうとして気づき、元のメクリを持ってきて差し替える。
たぶん、あまりに自然な文蔵師が代演なのを忘れたのだと思う。なんだかわかる。
あるいは文蔵師のときに自分でメクリを差し替えなかったためか。

仲入りは春風亭一之輔師。
毎週ラジオを聴いているこの人も一年振り。やはり昨年の2月下席に二度来た。その際も仲入り。
若手をトリに抜擢するかわり、仲入りを充実させようという構成だ。
中3の長男の話。長男が生意気な口を利くので思わず叱ると、ヘラヘラ理屈っぽく言い返す。
別に逆らってるわけじゃないよ、事実を言っただけなんだよと。
うちの息子とまったく一緒なので、私的にはかなりのツボ。

このマクラがなにかというと、若旦那のフリ。
昨年も聴いた「干物箱」だった。
昨年聴いたのは「干物箱」と「夢八」だった。この2席、ムードが真逆。
夢八は新作のように作り込んだ噺であり、干物箱は非常に端正。一之輔師の両極端の顔を見られてよかった。
1年経つとその干物箱、さらに本格派に変わっていた。
貸本屋の善さんに、「親父に訊かれそうな」運座の模様を教える若旦那。
これをスラスラ喋る若旦那に善さんが、「覚えられるわけないでしょー!」。これがウケどころだと思っていたのだが、なんと、なくなっていた。
仲入りとはいえ、金原亭の芝居に配慮してやめたのだと私は理解。
むしろ、「箱根細工」のごとく工夫をして開けないとならない、善さんところの戸に焦点が当たっていた。こちらもまた、一之輔師らしいジワジワ来るクスグリ。

二度目でも実に楽しい一席だったが、1日経って振り返ってみると、あれ?というぐらい印象が薄くなっている。中身はよく覚えているのに。
昨年初聴の「干物箱」のほうがずっと印象が強い。
不思議だが、理由はよくわかる。
昨年は新作の百栄師が主任。今年は超本格派の芝居。
いつでも本格派としてやっていける一之輔師。だからこそそういった噺を出したのだが、それゆえに金原亭に埋没してしまったのだ。
ギャグ多めの噺にしたほうがよかった? いや、トリをちゃんと引き立てたのだから、結果これでいいのか。
一之輔師は、抜擢された際に馬玉師と馬治師を抜いている。そういう配慮もあるのかなと。
前座の頃は、このあたりの先輩に楽屋仕事を教わっていたようだし。

寄席とは、出づっぱりの一之輔師にとっても非常に難しいところのようである。だから面白い。
そういえば一之輔師、最近ラジオ「あなたとハッピー」で、あまり前に出なくなっている気がしている。
楽しく聴いて、はてなにを言ってたっけという気分になる。でも、実は極めて達者に回している。
この方法論が間違ってるなんて思わない。
ただひとついえること。なんでもできる一之輔師にも、馬玉師の落語はできないわけだ。
一之輔師がマクラで話すフレーズだが、まさに「みんな違ってみんないい」。

仲入り後、クイツキは古今亭駒治師。
今日はめでたいので、といってなにがめでたいのかわかりませんが、鉄道落語をしたいと思います。いつもやってるんですけどね。
と振って「十時打ち」。
この人はもう、いつものペース。
私は3度目になる演目だが、駒治師の新作は古典落語みたいな味わいがあり、何度聴いても楽しい。
流れるような節回し。そして噛む。
別にストーリーが変わるわけではないのだけど、展開の作為的なぶっとび振りが、常にハマるのである。
ちなみに、馬玉師は池袋の初トリのはずで、めでたくないことはないけど。

噺の内容については、さすがに同じこと書くとダレるのでリンクを張っておきます

駒治師が登場したとたんに出ていって、また帰ってきた人がいたそうな。
それへの愚痴を劇中に挟む。
今日の噺は、「十時打ちの達人」東京駅駅員の谷口氏が、すったもんだの末結局取り逃してしまうところまで。
寄席用の短縮バージョンらしい。この先、ちょっとしたサブエピソードがあるのが本来。

続きます。

 

作成者: でっち定吉

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