スタジオフォー巣ごもり寄席2(上・桂笹丸「だくだく」)

仕事が朝のうちに一段落したので、思い立って巣鴨スタジオフォーへ。
出かける予定などなかったので、急遽東京かわら版をめくって決定。スタジオフォーだと翌日の「四の日寄席」にも行きたいところだが、幸い落語を聴いている途中に次の仕事が来たので結果大正解。
水曜日は二ツ目の会、巣ごもり寄席。3人出て、1,000円。1時間半仲入り休憩なし。
席は少なくしていた。20人は入っていない。
わりとパフォーマンスのいい会だが、昨年末初めて出向き、期待外れで帰ってきたことだけ気になる。
この日は、それほど有名な人は出ていないが、トリの春風亭朝枝さんは私の期待の星。先日、「Zabu-1グランプリ」に出ていたが、爪痕は残せなかった。
結論からいうと、非常に満足して帰ってきたのでした。

ただ、トップバッターの人だけ今一つという印象。
名を伏せておく。伏せなきゃいけないほど下手だと思ってはいない。そこそこウケてもいたし。
今日は実力よりも、掛けた噺に本質的な問題があった気がする。
古い新作落語、初代林家正楽作の「旅行日記」。かつて、別の人からこの噺を聴き、ひどくうんざりした覚えがある。
しっかり見事なサゲがついている噺。若い噺家が掛ける誘惑に駆られるのはよく理解できる。
だが、いにしえの芸協新作と同じく、見事に古びてしまっている。
田舎の宿でひどい目に遭うのは、「春雨宿」などと一緒のモチーフ。だが、古典落語にはちゃんとある、「ひどい目に遭う快感」が湧いてこない。
新作落語としての魂が消え失せているのだが、かといって古典落語に成長してもいないという、困った噺。
コアなアイディアを活かし、一度しっかりと古典落語としての再構築をしなければいけないと思うのだが。
古典落語に成長すれば、オチがどうなんてもう関係ないからな。
時代設定を江戸にする方法を思いついた。食肉がテーマだが、クリアできそう。時間を作り書いてみようと思う。

2番手は、初めての桂笹丸さん。
線の細い人だが、非常に声がいい。低音が反響するというか。
噺家としてももちろんいいが、さらにナレーターとしての適性がありそう。
声が土屋礼央によく似ている。土屋礼央に頼みたいがギャランティーを抑えたいという方は、笹丸さんに頼んでみてはいかが。
昨日ツカミについて書いたが、笹丸さんもツカミを持っている。
メクリを指す。笹丸という名は、師匠竹丸の「竹」に「世に出る」意味を込めて笹としてもらいました。
入門時は「竹わ(ちくわ)」でした。
二ツ目になるとき、楽屋で名前をいろいろ考えてもらいました。小遊三師匠からは、「竹」に「美」で「ちくび」はどうだとか。
そして三遊亭小とりさん(旧名あんぱん)のポンコツエピソード。
マクラの肝は、地下アイドルのライブに行った話。面白かったが書かない。
本人に悪いのもあるが、書いても伝わらないと思う。

初めての笹丸さんにすっかり好感を持つ。
マクラのエピソードひとつひとつに、力を込めないところがいいなと。
「こんな面白い話があるんですよ!」と強い圧で攻めてくる二ツ目もいる。そういう話はだいたい面白くない。
笹丸さんのマクラは力が抜けていて、終始クスクスさせてもらえる。
地下アイドルの話も、書いても伝わらないと思うのはそういうこと。めちゃくちゃ楽しいエピソードということではなくて、語り手の個性とセットなのだ。
泥棒のマクラは振らずに「だくだく」へ。
先日「おなじはなし寄席」で白酒師が掛けていたが、二ツ目からやたら聴く噺。「二ツ目噺」なんてものはないが、でもそんな感じ。
先生のところを八っつぁんが訪ねて、絵を描いてくれと依頼するまでが随分長い。なるほど、泥棒のマクラは邪魔だ。
全般的に長めなのだが、エピソードがちゃんと、細部まで詰まっているのでダレたりしない。
ちなみに、兄弟子の竹千代さんからも「だくだく」を聴いている。それと、全体構造が同じ。
共同開発したのかな?
先生を再登場させて落とすという、気の利いたもの。
だが、それ以外の中身はまったく違う。実に興味深い。違う季節の星座を、同時に天井に書いてくれというのは同じだが。
なげしに描いてもらうのは、槍でなくて鉄砲。これはサゲにかかわる。
竹千代さんは躁病のムードで軽快に進めるが、笹丸さんはまったく違って落ち着いている。
落ち付いているが、だからこそ八っつぁんがバカなことを言い続けるのが実におかしい。
本編もマクラと同様、大盛り上がりではなく、八っつぁんの気持ちに沿ってずっと楽しいムードが続く。
こういうのは大好物です。
絵に描いたタンスを開ける際の所作が、他の人と違っている。普通はパントマイムのようにやるが、笹丸さんは引く動作をして不発という。いや、実に楽しかった。
続きます。

 

作成者: でっち定吉

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