ひとつ日本語の話でも。
最近書いた「いらないです」は結構アクセス多かった。
ちょくちょくあるニュース。
アクセルの踏み間違い等により、クルマが、カフェや登下校中の児童、地下鉄入口等に「突っ込みました」。
ニュース検索すると、まあ、あるわあるわ。
ここで言いたいのは、高齢ドライバーの免許更新の是非などではない。あくまでも日本語の話。
クルマが先行車に当たれば、「追突」。戦闘機が後ろから襲い掛かれば「追撃」。カーチェイスは「追跡」。
どんな概念にも、必ず漢語の熟語があり、一口で言うことができる。
なのにどうして、クルマがものに当たったときだけ、「突っ込んだ」なのか? ニュースを聴いててアレと思う、卑俗なことば。
名詞化すると「ツッコミ」であるが、これは演芸の用語である。
カフェに突っ込んだクルマは、ツッコミというよりはむしろボケである。ツッコミ担当のノアに、「ヤリスくん、いい加減にしなさい」と言われそう。
「突っ込みました」はそんなわけで名詞化できず、ニュースの見出しでは「突っ込む」と動詞で終わっている。
原稿書く人たちは日本語のプロである。これ、書いていてイヤでしょうな。
原稿読む人もイヤだと思う。
言葉がないというのも、わからないではない。
ニュースで用いられる「突っ込む」という言葉は、なかなか特殊な概念を指している。
主体はもっぱらクルマ。これ以外に使えないことはないだろうが、あまりないようだ。
本来は道路を走っているべきクルマが、操作ミスや多重衝突等で、入るべきでない場所に入ったことを指す。
さらに、ものに当たってその内側にまで進むことを指して、「突っ込んだ」と言っている。
「電柱に突っ込んだ」というニュースも、当たったショックで電柱が折れ曲がったりしているから使うのだろう。
だから「追突」とは結構ニュアンスが違う。
いっぽうで、中央分離帯をクルマが突き抜け、渋滞の車列に飛び込んだ場合は「突っ込んだ」でもいいことになる。
この概念、「突入」と言っても別に間違いではない。
だが突入というのは、作戦に基づいて決行するニュアンスが強い。
クルマがカフェに突っ込むのも、自爆テロであれば「突入」と言っていいが、あまりそういう状況はない。
実は「突っ込み」の言い換えはある。「突込」という。
読み方はつきこみ、またはつっこみ。
漢熟語ではないので、やはり使ってもちょっと浮く。
そもそも「込」は国字であって、音読みはない。
ちなみに、「突き当たる」という言葉にも、対応する熟語として「突当」(つきあたり)がある。こちらも漢熟語ではないので、かなり軽い。
無理に「とつとう」なんて読まないほうがいいだろう。
クルマが飛び込む概念を表すことば、私は「突入」がベターだとは思う。だがニュアンスの問題はやはり付きまとう。
まったく新しい言葉を考えてみた。
「追貫」でどうでしょう。ついかん。
「突」の字より、「追」の字のほうがぴったりくる気がする。そして貫く。
どうでしょうたって、世間にない言葉を発明してみんなで使おうなんてルートはないから、言うだけです。
日本語はかなり高度な概念も表現できる言語と理解しているのだが、たまに表現できないものもある。
brotherを翻訳するとき、日本語では兄か弟か決めなければならない。
文脈からどうしても判断できないときは、作者に直接問い合わせでもしないとわからない。
だが、そもそも上下の差のない概念なのだから、作者だって訊かれてもわからない可能性がある。
こういうときに、一語で言えるといいのにと思う。
最近は兄弟姉妹を一言で「きょうだい」とひらがな表記しているが、あれも苦肉の策だろう。
日本語の問題というより、解決できない言語のほうが多いのではないかと思うのがある。
桂米團治師は3人兄弟の長男。ふたりの弟さんが、双子なのだ。
ここでようやく落語の話題をブッ込んでみました。
皇后雅子さまも、妹さんふたりが双子。
この概念を、人さまに説明するとき、なんと言っているのだろう。
「私には双子の弟がいます」では絶対ダメ。100%、当人が双子として伝わる。
「私には弟がふたりいて、双子です」なら正解だろうが、言われたほうは絶対「?」と思う。
まあ、この特殊な状況のために言葉を新しく作ることはできまいが。