休眠中の亭号復活を考える

今日もネタがないのですが、年度末です。なんとかしたいと思います。

東京の落語界、新真打や、新二ツ目になると名前が変わる人も多い。
ついでに、亭号の変わる人もいる。
今度の落語協会新真打、「弁財亭和泉」師のように。これは、新しく作った例。
新しく亭号を作るのは、近代に入ってからは珍しいが、なくはない。
古くは、圓生に破門されて名前を取り上げられたために亭号を作ったのが、川柳川柳師。

今日は新しく作る例についてではなくて、埋もれている亭号について。
昨年の新真打である玉屋柳勢師の「玉屋」みたいな例を漁ってみることにする。
桃月庵白酒師の弟子が真打になる頃には、また古い名前の復活があるだろう。
といって、私は名前の研究家ではありません。詳しい方からすると、わかってねえなと思われるでしょうがご容赦を。

かつて司馬龍鳳事件というものがあった。
「司馬」は「司馬龍生」が宗家の、由緒ある名前。自称インディーズプロが司馬龍鳳を勝手に襲名して勝手に名乗っていた。
司馬の名は、三遊亭司師が預かっているそうである。
名乗りたい人は、司師に相談することになる。ただ、どこの一派に属する人が名乗れるといいのか、よくわからない。

「談洲楼」という、恐ろしく格上の名前については、すでに書いた記事をご参照ください。

最近、名古屋の雷門一門が「登龍亭」に亭号を変えた。世間でどの程度話題になったかわからないが。
本家雷門から(亭号を返すよう)要請があったものか。
もともとある亭号で、司馬にルーツがあるそうだ。これを選んだのは、名古屋らしくドラゴンズにあやかっているらしい。
トップの登龍亭獅篭師は、晩年おかしくなった(生志師による)立川談志により破門され、名古屋を頼った人。
弟子もいて、名古屋の地で生きながらえている。
ドラゴンズファンの元兄弟子志らくは、なにも言及していないようだ。司馬龍鳳には言及してたくせに。

朝寝坊という亭号がある。噺家らしくていいなと思うのだ。
朝寝坊のらくという人が、立川流にいた。かなりの変人だったそうで。
立川ぜん馬師が、その前ののらく。この名でNHKの新人コンクールを獲ったのだ。
のらくはともかくとして、朝寝坊むらくという名は歴史上なかなかでかいもの。
初代朝寝房夢羅久は、初代三笑亭可楽の門人だったそうで。可楽といえば、東京落語の開祖みたいな人。

21世紀までご存命だった三笑亭夢楽という人がいるが、この夢楽と朝寝坊むらくは関係あるのかないのか。「むらく」がでかい名前という認識は当時からあったようで。
本家朝寝坊むらくのほうは、途絶えてしまっている。
のらくなら、立川流の噺家ならなんとか名乗れそうだが、そこからむらくへ行けるかどうか?

「翁家」という亭号がある。
名前としては「翁家さん馬」しか見たことがない。最近のさん馬は21世紀までご存命。
その前、9代目さん馬が、のちの9代目桂文治である。
さん馬の名は、9代目文治の系統が継げばいちばんいいのだろう。この一門は桂才賀→やまとと細々つながっている。
もっともやまと師だって襲名なので、さん馬は浮いている。
さん馬は、「産婆」のシャレなんだろう。翁はじいさんなのに、産婆がついている。
復活して欲しい名前のひとつ。

「都々逸坊」という亭号がある。下の名前、「扇歌」とワンセット。
正式な代数は不明だが、6~7代は続いているので、切れているのがもったいない。
5代目が「初代柳家つばめ」、6代目が「3代目柳亭燕枝」とのことなので、現在だったら柳家の人が名乗れそうなのだが。
ご存じの通り、柳家には名前がないので、名前を新しく作ることが多い。
誰か都々逸坊扇歌を持っている人がいるのでしょうか。

「蝶花楼」も「馬楽」とワンセット。
こちらは、2019年に当代逝去により途絶えている。
現在では明白に柳家の名前であり、前述のように柳家には名前が不足している。
いずれ復活するだろう。
蝶花楼花蝶という名前があるので、二ツ目昇進時、馬楽見込みで誰か名乗りそう。

「船遊亭」という粋な亭号があるが、もともとの船遊亭扇橋が現在入船亭になっているため、名乗る可能性はなさそうだ。
ただ入船亭では「入船」という古い亭号を「入舟」として復活させたりしているので、誰か船遊亭になりますといえば別。

上方落語界は、亭号が少なすぎていけない。
右も左も桂だらけ。もう少し亭号が必要なのではといつも思っている。
「露の」とか「森乃」が頑張ればいいだけかもしれないけど。
なにか古くていい亭号がないかなと思って探してみたのだが、見当たらない。
唯一、「文の家かしく」という洒落た名前がある。洒落ているだけで、別にでかくはない。
東京と大阪、両方に名乗った人がいるようでややこしいのだが、大阪でもいいと思う。
「かしく」は手紙の末尾に書く結語「かしこ」のこと。

作成者: でっち定吉

落語好きのライターです。 ご連絡の際は、ツイッターからメッセージをお願いいたします。 https://twitter.com/detchi_sada 落語関係の仕事もお受けします。

2件のコメント

  1. お久しぶりです。うゑ村です

    上方の珍しい亭号といえば祝々亭という亭号がありますね。ただ祝々亭ができた経緯はちょっと厄介な事情みたいですが…

    1. うゑ村さん、いらっしゃいませ。
      三代目桂春團治の弟子、故・祝々亭舶伝の亭号については、天狗連の名前だと思うのです。
      現役である笑福亭鶴瓶師の弟子「てんご堂雅落」、立川志の輔師の弟子「北山亭メンソーレ」も、私的にはすべて同じ扱いです。
      亭号のない「らぶ平」の弟子「らむ音」もしかり。
      これらの人のうち、どこまでがプロでどこからが素人か、そういう議論とは別です。
      名前・亭号については、いずれもプロのものではないと思います。

      ちなみに本文で一件、書き忘れがありました。
      次の新真打柳家花いちさんが名乗ることを検討したという「松柳亭」です。
      いずれ誰か名乗るんじゃないでしょうか。

コメントは受け付けていません。