国立演芸場の三遊亭小遊三「船徳」(上)

確定申告の最終日、税務署のポストに申告書を投げ込み、そのついでにちょっと落語へ出向く。
日曜に桂雀々師の長講2席を聴いた。これがまだズシリと来ていて、ハナから寄席で長居する気になれない。仕事もしなきゃ。
でも国立演芸場で三遊亭小遊三師がトリを取っている。ちょっと聴きたい。ちょっとというほど近くでもないけど。

当ブログでも(もっぱらテレビの落語について)たまに取り上げている小遊三師であるが、生の高座を聴いたのは3年前が最後

この3年前の国立では、一門から遊雀、遊馬、ナイツと出ていて、さらに仲入りが柳家蝠丸師。
トリの小遊三師は「提灯屋」で、この席にはかなり満足したものだ。
寄席組合に入っている4場に顔付けされた人は、国立では顔付けできないルールになっているらしく、私の聴きたい一門の人は今年はいない。
浅草・新宿に顔付けされているのは夜席だけど。
ナイツは帯でラジオをやってるから、どのみち国立定席には出られない。
最初から、仲入り後の割引を狙って出向くことにする。

国立は、仲入り後は3割引き。現在、定価2,000円なので1,400円。さすがに東京かわら版の割引は併用不可。
1時間なので、大して安くもない。

人気者の小遊三師が出るなら、平日の寄席でも満員になっておかしくない。
しかしこのご時世なので、50人程度の集客だ。
この芝居、ツイッターをやるような人は誰も来ないようで、過去4日の小遊三師のネタは不明。
ちなみに昨年も4月中席の予定だったが、コロナで中止。

二席終えてあっという間にトリの小遊三師。
仲入り後だけ聴くというのは、フルコースをメインディッシュだけいただこうというようなもの。
まあ、それでも寄席の流れにちょっとだけ参加したけども、なんというか、実にもって国立だなあという感想。
昨年は、一部二部に分かれた国立に結構通った。意外と新鮮で。
だが、この日は本来の国立の空気が漂っている。
こういう空気も、心身を開放すればさらに楽しめそうな気もするが。
ヒザの東京ボーイズ先生は結構楽しみにしてきたのだが、今日は普通。
鮮やかなウグイス色のジャケット。演者が実に楽しそうなのはいいのだけど、緩い空気が客にかみ合っているような、いないような。やっぱりいないような。

しかし小遊三師で、非常に満足したのです。
たびたび取り上げているぐらいだから、小遊三師はもちろん好きだ。その緩さはたまらない。
だがこの師匠、意外とわかりやすくはない。いや、人それぞれの琴線に響きやすい師匠ではあるので、最初からビンビン来る人もたくさんいるだろうことを承知の上で。
好きな師匠を久々に聴きにいったら、私の知らない奥座敷が広がっていて、結構驚いたのである。
私は、広い奥座敷を知らずに今まで聴いていたわけだ。
聴き手の能力の問題もあるが、小遊三師自身、円熟のときを迎えているようにも思う。奥座敷が見えるようになったのだ。

コロナの話から入って、「若旦那」について。
はて唐茄子屋政談でもあるまいし、トリで小遊三師の掛ける若旦那ものって? と思う。
加山雄三の若大将も、若旦那だと。ただ、当時もう、若旦那ということばの響きはウケなかったのだろうと小遊三師。
若旦那がラグビーとか、汚れるスポーツしちゃだめですよ、卓球ぐらいがいいと。

船宿の二階にいる、勘当された若旦那。
勘当っていっても、本当に勘当される奴は今はいません。うちに帰ってくるなと追い出されるだけのこと。
「俺も昔はやんちゃしてさ」と語るおじさんも、全然どうってことはない。
昔は、親戚一同集まって協議し、久離切って勘当されたら戸籍から抜かれたんですよと。こうなると無宿人になるんですから大変ですと小遊三師。

船宿というキーワードが出たので、船徳。
まだ4月15日なのだが、季節を先取りするのが粋なのだ。花が散ったらもう夏の噺。
四万六千日というのは、旧暦7月10日であり、新暦だと8月の最も暑い時季。だからかなりの先取り。
さすがに今年初めてだと思う。ところどころ出てこないセリフもあったが、気になるほどではない。

続きます。

 

作成者: でっち定吉

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