神田連雀亭ワンコイン寄席19(下・笑福亭希光「狸の化寺」)

笑福亭希光「狸の化寺」

トリは、ここ連雀亭で二度聴いて、すっかりファンになった希光さん。
芸術協会の人は、落語協会より会う機会がどうしても少ない。さらにいうなら、私の場合は円楽党より少ないのだ。

別に 芸協に含むところはまったくないのだけど、ともかく所属団体を問わない連雀亭はありがたい。

今日の客、噺家が頭下げて初めて手を叩く。
これが本式の拍手だ。確かに、いったん手を叩いておいて、噺家が座布団に座って一斉にピタッとやめるのも変ではある。
私も、扇兵衛さんまでは入場時に手を叩いてたんだけど、他の客の、本式の拍手に合わせることにする。

この人も、トップバッターの緑助さんに似た人間観察マクラ。
自宅のそばの立ち飲み屋における、年金暮らしらしい爺さんの不思議な行動(ノンフィクション)で笑わせる。
緑助さんの喫茶店ネタと同様、別に強烈なギャグではない。でも、演者の楽しさが客と共有されるからいいのだ。

平日の昼間、寄席に来てる客を「大丈夫でしょうか」。
言い方に、嫌味がなくていい。噺家のシャレだけど、演者によってはいささかムッとする。

芸人上がりの希光さんだが、いろいろやってきて、結局のところ、落語がいちばんしっくりくるということなんだと思う。
既存の噺を、ギャグで壊すのではなくて、実に気持ちよく膨らませてみせるのだ。
落語に来るべくして来た人なんだ、きっと。

そして、東京で修業しましたけども、笑福亭のはしくれとしてちょっと珍しめの上方落語をと。
「狸の化寺」これ、生ではもちろん初だが、音源でも聴いたことあったかな? 米朝の速記には入っていた気がするが。
大阪でも珍しいほうの噺。師匠・鶴光が持っている様子でもない。誰に教わったのだろうか?

民話ふうの奇譚である。堤防補修を請け負う黒鍬の集団が、荒れ寺で宿泊して、居ついている狸と闘う噺。
怪談噺の要素があって緊迫感に満ちているのだが、いっぽうでは田舎のことであり、とてものんびりしている。
珍しい噺はなぜ珍しいか。難しいわりに儲からないからだ。
だが、この難しそうな噺を、実に楽しく語る希光さん。
狸が化かしに出てくるところは、しっかり怪談っぽく。

上方落語によく出てくるキャラが、人生の酸い甘いを噛み分けた、肝の据わったおやっさん。
黒鍬の棟梁、火の玉の領五郎はまさにこの造型。武張ってみせなくてもしっかりいい貫禄。
火の玉の領五郎、肝っ玉座っているくせに、やたらとダジャレ好き。さすがに米朝はこんなの入れてないと思う。
ダジャレはオヤジギャグなのでスベリウケ狙い。ウケなくていいが、だからといって多用して噺を傷つけるようなところもない。
オヤジギャグを語るおやっさんがとても楽しそうで、聴いてる若い衆たちも、領五郎のそんなところを「しょうもな」と思いつつ心酔しているんだろう。
そんな、語らない人間関係まで見事に描く希光さん。

仏像に化けて隠れる狸をいぶりだすが、天井の絵に紛れてしまう。
いたずら狸とのやり取りが、実に楽しい。

いつも楽しいワンコイン寄席、この日の3人は特に楽しかった。
落語っていいなとしみじみ、改めて思ったのでした。

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作成者: でっち定吉

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