「令和」のアクセントは冒頭の高い<レ>イワか、平板なレイワか?
ABCラジオの笑福亭松喬師の番組を聴いていたら、ABCでは<レ>イワで統一だそうな。ただ、言葉は生き物なので今後はわからないとのこと。
どちらのアクセントでも構わないことにはなっているが、私は平板なほうが正解だと思っている。
個人的にどちらのアクセントが好きかという話ではなく、20年経って振り返ったとき、<レ>イワに違和感があると想像するのだ。
言葉というものは、生まれた当初はアクセントがあっても、擦り切れて平板になっていくのが一般的傾向である。
というのが原則論のつもりだが、改めて例を引いて考えるとたちまち自信をなくす。
「明治」は「明示」の平板アクセントではない。現代でも必ず<メ>イジと冒頭が高い。
明治の人たちが格調を守って発音していたのが、現代に受け継がれているのだろうか? 江戸時代の「安政」「慶応」は平板。
「平成」は最初から平板。<ヘ>イセイと発音する人は、初めからいない。
「大正」も「対象」と同じく平板だが、改元のときに「大将」と同じく<タ>イショウと呼ぶ人が絶対いなかったとは断言できない。この点、今回と同じ。
「昭和」は平板に読むのが普通だろうが、平成と違い、<ショ>ウワと冒頭高く発音しても、まったく変じゃない。
以上すべてについて、日本語に内在する感覚的なルールの働きがあるのだろうけど、よくわからない。
ところで、噺家の名前も、しばしばアクセントが統一されていないということを思い起こした。
柳家さん喬師と、松喬を襲名した笑福亭三喬師では、同じ「さんきょう」でもアクセントが異なる。
「三喬」は<サ>ンキョウと冒頭が高い。
「さん喬」は慣れていると何とも思わないがちょっと特殊で、「志ん生」と同じアクセント。「さ」でも「ん」でもなくて、「さん」を疑問形のように語尾を上げて読む。
平板な「三強」とも違うアクセント。
「志ん朝」は父「志ん生」と同じアクセント。
古今亭志ん朝は上方でも尊敬を集めたが、往時の上方落語家には名前が正しく発音できなかったようで、本人に対しても<シ>ンチョウさんと、「三喬」と同じアクセントで呼びかけていたようだ。
言葉のアクセントは、一般的に上方のほうがずっと難しい。噺家の名前のアクセントに、貴重な例外があるのは面白い。
でも実は、関西の不良をいう俗語「ヤンキー」のアクセントは、「志ん朝」と同じだ。
だから関西人も「志ん朝」を正しく発音できるはずなのだけど、つい癖で冒頭を上げてしまったのだろう。
ちなみに関西独自のアクセントで、シ<ン>チョウと、真ん中のンだけをつい高く発音する人も、探せばいそうな気がするのだが、どうだろう。
「三遊亭円○」(正式には「圓」の字)という噺家は、空き名跡も含め大変多い。所属も落語協会、芸術協会、円楽党とさまざま。
この後ろに何の文字が入るかによって、アクセントが実は違う。
- 「円○」を、冒頭高く読むパターン
円楽/円丈/円輔/円遊/円雀/円福
- 「円○」を、平板に読むパターン
円歌/円菊/円橘/円右/円馬/円弥/円丸
- 「円○」の「えん」を疑問形のように語尾を上げて読むパターン
円朝/円生/円窓
別に落語の問題じゃなくて、日本語の問題なのだが、実にわけがわからない。
「円生」と弟子の「円丈」はなぜアクセントが違うのだろう?
わからないことは、面白い。
以上は、難しいが正解が存在する人たち。だが、正解不明の名称もある。
柳家花緑師は「カロク」と読むが、これは「家禄」と同じ平板アクセントか? それとも冒頭が高く<カ>ロクか?
亭号と一緒に読んだ場合、<ヤ>ナギヤ<カ>ロクか、ヤナギヤカ<ロク>か?
後ろに師匠を付けた場合、<カ>ロクシショウか、カロクシ<ショウ>か?
ここまで検討しても正解が出ないものは、どちらでもいいということにするしかない。
三遊亭遊馬師は「ユウバ」。これも正解不明。冒頭を高くしても、平板でも、どちらも違和感なし。
でも同門の、三遊亭遊雀、遊里などの噺家の場合、絶対に冒頭が高くなって、平板では読まない。
小遊三師の師匠である遊三(ユウザ)師は逆に、平板に読まないと変。
芸協新会長が内定した春風亭昇太師の場合、平板な「ショウタ」は絶対にない。
だが、後ろに師匠が付くと、「ショウタ師匠」でも全然OK。たい平師がこう呼んでますね。
まあ、ことばって面白いですねという話です。なんの結論もない。
(2022/6/18追記)
書いてから3年経った今の私の感覚だと、冒頭高の「ユウバ」はないですね。これは平板。
「遊雀」はご本人が平板で話しているのを何度も聴いたが、でもつい冒頭高で呼んでしまう。
でも、辞めた遊里は平板じゃないと思うんだがな。
あと一覧に「圓菊」が抜けているのに気づいたので、追加しておきました。
「圓○」のアクセントについて、「圓丈」は本来「圓生」と同じなんでしょうが、高座で『エンジョウです』と頭高で自己紹介してます。
「圓遊」は平板型が正解です。『圓遊色を好む』というシャレがあります。
「遊馬」「遊雀」「遊里」も私のまわりではみんな平板型で、頭高で呼ぶ人は皆無です。