亀戸梅屋敷寄席にはちょくちょく出かけている。
昼席で2時間、千円というお手軽な円楽党の寄席。
金曜日の主任は三遊亭萬橘師。円楽党の中でも好きな噺家の筆頭である。
その萬橘師の、圧巻の「大工調べ」を聴かせていただいた。笑いに笑って、その噺の作りの上手さに感動。
高揚感に包まれたまま、記事を書いている。
萬橘師目当てらしく、結構入っている亀戸梅屋敷。
客席はそうでもなかったが、高座は大変暑かったようだ。汗びっしょりの熱演。
大工調べという噺には、人の感覚と相容れない部分がいくつかあるようだ。要は、こういうこと。
- 大家が可哀そう
- 人の上に立つ棟梁なのに怒りすぎ
- 与太郎は大工として腕がいいらしいが、なのに店賃貯めすぎ
- 棟梁の啖呵が盛り上がりすぎ、お白洲の後半(下)が続けづらく、掛けづらい
大工調べの大好きな私は、以前も書いたのだが、このあたりは理屈で完全に克服していて気にはならない。
きちんと見ていけば、大家はとてつもなく悪い奴。棟梁はその悪い奴に、いよいよ怒り心頭に発したものなのだ。
実をいうと、店賃貯めすぎの件だけは納得いっていないが。
私が納得しても、演者が納得いかなければ仕方ない。
どうしても得心せずに掛けられない噺家もいるようだ。古今亭菊之丞師などそうらしい。
だが、納得しづらいこの噺を、誰でも納得できるように作り直したらどうなるか? つまり、次の前提と矛盾しない構成にする。
- 大家はそれほど悪い奴ではない
- 棟梁はもともと怒りっぽい奴
- (ただし、啖呵を切る引き金は、大家が引く)
- 与太郎は、別に達者な大工ではない(!)
- 前半(上)だけで噺を完結させてしまえばいい
どうやら、こういうテーマにのっとって、萬橘師は大ネタ大工調べに挑み、見事に作り替えたらしい。
いい悪いじゃないのだ。こういう条件を元にできた噺なんだから。
そして、こうやって作り替えた大工調べが、いいデキだったら大成功となる。
上だけで完結したら 「調べ」じゃないだろなどと言ってはいけない。
噺の骨格を根本から変えるのは大変だ。新作作るより恐らく大変だと思う。
そして、演者が納得したいだけの、とってつけたような改編ではない。
ただのクスグリに見せかけた伏線を隅々まで入念に張って、きちんと回収していく見事な一品。
たとえば、大家の家では亀を飼っていて、道具箱を取り返しに出かけて引き下がり帰ってくる与太郎だが、亀に餌をやってくる。
棟梁に叱られているが、この本筋に関係なさそうなギャグ、ちゃんといい場面で回収があるのだ。
骨格に関係ない、単発オリジナルギャグも豊富に入っている。これはすばらしいオマケ。
あたぼうになぞらえて、「オリンピック担当大臣」が上手く詰まって「五輪相」になるとか。
興奮したまま続きます。